TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【40】


  40 誘拐事件!?


「ごめんなさいね。伊吹、何も言わずに飛び出して行ったと思ったら……」
 桜井家の玄関を入ると、出迎えてくれた伊吹母が僕に向かってそんなことを言う。
 まぁ、昨日は突然で驚かされたけど。
「一応、連絡したじゃない。あたし、恋で盲目なのよ」
 おっと、開き直りですか? って、こんなとこで堂々と宣言しないでください!
「普段から突っ走ってるじゃん。……いや、猪突猛進と言うべきか?」
 いつもと違ってズバズバ切り捨てる、雰囲気違うよ、大志くん。そういうキャラだっけ?
「大志……あとで覚えてなさいよ!」
「……うん、忘れた」
 と、今度はいつものポヤ男キャラ。どっちが真の大志くんなのか、なんだかミステリアス。
「玄関で立ち話するな、早く入れよ!」
 玄関内に入れてないお父様は、足踏みしながら震えていた。

 桜井家四名と突然のお客様な東方天空はそのままダイニングへと移動。四人掛けのダイニングテーブルには五人分の食事が準備されつつある。椅子、足りてない……というより、突然の訪問(?)だというのにそこまでしてくれなくても。きっと前のときみたいに、人数分しかなかったものを取り分けて一人分増やしたというパターンだろう。何だか申し訳ない。あの場面――コンビニで強引に押し切られてなかったら、僕はここに来てなかっただろうに。
 せっかくの一家団欒を邪魔してごめんなさい。

「大志、何か取ったでしょ?」
「……なにが?」
「あ、ちょっと、にんじん入れないでくださいよ!」
「うっさいわね、育ち盛りなんでしょ? 何でも食べなさいよ」
「いただきます!」
「ちょっ、アンタのことじゃないって! あ、あたしのエビ天返して!」
「もふごほふぃ」
「きぃぃぃぃっ!!!」
 えっと……大志くんに対して文句言ってそちらに気が行ってるうちに、さっさと食べ終え、
「って、あれぇ!?」
 僕の皿の上のイカちゃんのてんぷらは?
 おかしいな。後で食べようと思って避けといたのに、ない?
 伊吹さんは大志くんとバトル中。二人の皿にもそれらしきものがない。
 誰? 僕はふと伊吹さんの母を「誰かがイカ天食った」と目で訴えるように見たら、なんとも言えない表情で隣の人物を横目で見ていた。それを追って辿り着いた人……もう、一人しかいない。まだ名前が挙がってない人物――その人は、頬張ったものを黙々と噛んでいた。それも結構な量だと思われる。イカ天、長さはおよそ15センチ、幅は4センチぐらい、面積で言うなら60センチ平方メートル(誤)ぐらいだろうか。口に押し込むには少々キツい。
 犯人は伊吹さんのお父様でしたか……泣き寝入りしろってことでしょ、それ。
 僕はもう何も言わず、自分の皿に残ってるものを食べることにした。伊吹さんに放り込まれたにんじんとまだ食べてなかったかぼちゃそれから……え、あれ!? 何でまた増えた! 緑のやつ……ピーマンかシシトウか?
 誰だ!? 誰が犯人だ?
 どいつもこいつも犯人にしか見えない。お母様以外。何だか挙動不審。
 見るたびに内容が変わる皿をじっと見つめる。すると右から左から、ぽんぽん赤やら緑のやつが入ってきた。
 右側、伊吹さん、その隣大志くん。左側、お父様、その隣お母様。
 伊吹さんとお父様を交互に見る。アンタたちが犯人か! という表情で。
「「育ち盛りなんだから、しっかり食べなさい」」
 同時に同じセリフ、似た顔だけに同じような笑顔付き。性格も似たような感じなのでとても逆らえず……
「ありがとうございます、いただきます」
 としか言えず、それを食べるしかない状況へ追い込まれた。
 涙、出るとこだよ。
 緑のてんぷらを箸で刺してパクリ。
「……?! あぐっ!!」
 し、シシトウ、辛いッ!!


 賑やかな食事を終え、ずうずうしくも一番風呂に浸ってみんなが揃ってるリビング。
 皿洗いをしているお母様を除き、ソファーに座るお父様を伊吹さんと大志くんが囲んでいた。一体何を企んでいるのだろうか。
 すると間もなく、伊吹さんと大志くんが笑いながらお父様から離れ、僕と目が合った大志くんが吹き出した。
 え? なにそれ、感じ悪い。大志くんらしくない。伊吹さんみたい。
 お父様も声を上げて笑い出す。しかも後を引くような笑い。よっぽど愉快なことがあったのだろうか?
 って、その手に握られてる携帯は、僕のと同じ機種ですね。ストラップも……って、僕のじゃないですか?
 ――瞬時に青ざめる。変な写真、なかったよな? メールとか……まさか、何か見られた!?
 そうか、風呂に入ってるとき誰かが来たような気がしたけど、携帯持っていかれたのか!!
 悔しさとか恥ずかしさとか、ちょっと逆らえない何かとかが入り混じって複雑な僕。お父様に携帯返してとか言えず、ただ目で訴える。それに伊吹さんが気付いた。
「あ、お父さん、天空が見てたわ」
「あはは、あ、やべっ」
 全然悪気なさそう。まだ笑いながら僕に携帯を投げる。それをうまくキャッチ。
 携帯を開いて何をされたかチェック――したところで何も分からないのだが、とりあえず発信履歴とか。変わったことはとくにわからなかった。
 操作途中、電話が掛かる。父からだ。
 着信音が鳴っただけなのになぜか僕の携帯を勝手に見ていた三人組が爆笑。意味が分からないがとりあえず出てみる。
「もしもし?」
『天空、無事かぁぁぁぁぁ!!!』
 ――え?
「ぎゃはは、は、はひー、はー、ハラいてぇっははははは」
 父上、そんなバカみたいに笑わんでも……。
 伊吹さんと大志くんも笑ってるし。お父様ほどではないが。
「無事もなにも、何のこと?」
 僕の帰りを待たずに実家に帰っておきながら、今頃になって息子が心配になったとか? だったら昨日のうちに掛けて欲しかったものだ。
『お前、桜井に誘拐されたんだろ?』
「……は?」
 何のことだ。顔をしかめていると、桜井父が携帯をこちらに見せてきた。
 なになに、「息子は預かった」という本文のメールが、東方太陽――父宛に送信されているようだ。
『桜井から「息子は預かった」ってメールがあったあと、お前から「助けて」ってメールが入ったから慌てて電話したのに……』
「え? してないけど」
 前者のメール配信者の正体は本人から申告があったものの、後者には全く身に覚えはない……が、心当たりはある。目の前のイタズラ好きそうな人たちのリーダー格がこっちに来て電話を貸せと言っている。
「ちょっと待って、電話変われって」
『え? 誰に……』
 イタズラっ子的ないい笑顔のおっさんに自分の携帯を渡した。きっと突拍子もない発言がその口から発せられると分かっていながら。
「オマエの息子は預かった。返してほしければ、1ヶ月間昼食をおごれ」
 鼻をつまんでそんなことを言っているので鼻声だ。実にマヌケな光景である。
『桜井! なんでウチの息子を――……』
 あまりにも父が大声だったので、少し離れていてもそう言ってるとこまで聞こえた。その後は不明だ。
「なにやらウチの娘とつきあってるらしいよ。オレも昨日びっくりしちゃってさー、だから責任取れ」
『俺だって知らんかったわー!!!』
 そりゃそうだろうよ。普段家にいないじゃないか。母さんにさえ言ったかどうか……ウチに連れて行った時に気付いたかもしれない程度だ。
「ま、とりあえず太陽んとこの長男はウチにいるからよ。……つーか、あまりにもオマエに似すぎてて吹いた」
 しばらく父を見てないが、そんなに似てきたか?
「そういうことだから……ああ、うん、気にするな。じゃ、あ、そうだ。今年もよろしく」
 そんな感じに、ウチの父と伊吹パパは電話を終わらせ、携帯が戻ってくる。
 メールの送信済みボックスを見たら、打った覚えのない「助けて」と打たれたものが父宛に送信されていた。
 僕が風呂から上がった時にお父様と伊吹さんと大志くんがなにをしてたのか、ここでようやく把握。
 この人たちにこういうことさせたら、ホントにスケールが違う。イタズラが本気すぎる。
「じゃ、風呂行ってくらぁ」
「あたしも一緒に――」
 お父様の後をついていくかのように立ち上がる伊吹さん。
「ぶっ、げほっ、げほげほ、かはっ……」
 間髪入れずにむせたのは僕。
 ちょ、ちょっと待って。それ、マジか聞いておきたい、だけなのに、むせてる。
「……」
「……」
 何か変なものでも見るかのような視線をこちらに向ける父娘。二人は顔を合わせると一度頷き、またこちらを向く。
「冗談だよ」
「冗談よ」
 と、真顔のまま同時に発する。
 脱力。僕はものすごい脱力感に襲われ、何だかいろんなことがどうでもよく思えた。

 NEXT→ 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【41】

 義理の母は16歳☆ TOP




2011.03.31 UP