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  38 ドキドキハラハラ初詣


 それから何となく向かった天満宮。そこで屋台が出ていることに気付いた僕らはか食べ物を求め買い漁り、食い漁った。
 餓死を免れた、そんな元旦の昼下がり。
 太陽の光はあたたかく降り注いでいるというのに、一向に上がらぬ気温は一桁。初詣客の熱気も日付変更直後に比べると下がっているであろう。渋滞するほど人も多くないし、屋台の人には疲れが見える。
 せっかくここまで来たから、初詣もついでにしようってことになった。
 賽銭投げて二拍手一礼? 今年も一年、健康に過ごせますように……なんてお願いじゃなく、伊吹さんとうまくいきますように……死なない程度に。
「天空がもっと気の利く男になりますように」
 おいおい、何言ってんだよ!
 他人が伊吹さんに注目してるから思わず恥ずかしくなって、手を引いて賽銭箱前から足早に去る。
 あとはおみくじ。持ち前の悪運を幸運に変換したのか、大吉を引き当てた伊吹さんに対し、僕は……、
「……小吉」
 恋愛のところに『振り回されると吉』なんて書いてあるし。そんなに振り回されてたら、そのうち紐が切れて飛んでっちゃうよ。……ま、今年も頑張って振り回されてみるけど。
 学問・このままでよし。ならこのままでいこう。
 運勢は小吉でも内容は今の自分にぴったりなことが多かったので、おみくじは丁寧にたたんでサイフに入れた。
 伊吹さんは更に恋みくじにも手を出す。じっくり内容を読んでるので、覗いてみると、『一緒に初詣に行った相手と結ばれる』とか『赤い糸で結ばれた結婚相手が近くにいる』とか書いてある。他は自分に当てはまらないことばかりだけど、その二つだけが心に残る。
 伊吹さんがたくさんある中から選んだ一枚のおみくじ。ただ紙に書かれてるだけのものなのに、もっと別の……目に見えない何かがやっぱあるのかな。運命とか? どんなんだかよく分からないけど、説明できないような何か。
 女子がなにかと占いにハマる理由が分かった気がした。当てはまると運命感じてしまう。――単純。
「あーもう、覗いてみるな!」
 おみくじをたたんでポケットに仕舞う伊吹さん……ちょっと顔赤い? 落ち着き無く目をきょろきょろ。
「ち、ちょっと化粧なおしてくるからここで待ってて」
 と言って彼女は僕から離れた。

 ……化粧って……あなた、いつも、スッピンじゃないか!
 まぁいいや。戻ってくるのを待つとしよう。
 しかしこういう人が集まる場所だ。やはりいるんだよ、知ってる人が。

「ソーラちゃーん」

 意味もなく自動販売機をみつめていると、斜め後ろあたりから馴れ馴れしい口調で僕の名を口にする聞き覚えのある声。声がした方を振り返ると、視線の少し下に髪はツンツンにつっぱってるくせに童顔な笑顔がまぶしい少年が立っていた。確か、名前は……、
「すぎあきやまと」
 クラスでの顔――天然キャラに切り替え。
「す・ぎ・や・ま、あ・き・と、だ! 覚えとけ!」
 笑顔は一瞬で消え、本気で言われた。冗談で言っただけなのに……。
 しかもそっちから声を掛けてきたくせに、一緒にいる女とちょんちょんつつきあいをして、笑い合い、
「じゃ、またな!」
 と爽やかに手を上げて去る彼は……一体何をしたかったのだろうか。
 羨ましがるとでも思ったのだろうか。確かに声を掛けられたときは一人だったけど、
「便所渋滞巻き込まれたー」
 ということだったので……いや、オイ!
「トイレ、もしくは『だぶりゅーしー』って言いなさい! 女の子でしょ!」
「すまーん。わーるどかっぷ、渋滞してたー」
「……ワールドカ……あ、そうか、なる……じゃなくて!」
 ……なんだったっけ?
「あーもう、変なこと言うから、忘れたじゃないか!」
「なぁにぃ、あたしのせい?」
 と、眉をしかめてにらんでくる。
 けどまぁ、この人と一緒にいるところを杉山亮登に見られなくて良かった。
 でもこういう人がたくさん集まる場所だ。今みたいに知ってるヤツと会うことだってある。他校の人ならともかく、同じ学校となると都合が悪い。僕と伊吹さんを知ってる人物だと余計に。とにかく、ここはさっさと帰ろう。
 という旨を伊吹さんに言う前に、目の前にまた知ってる顔が二つ……。
「東方くんだ。こんなとこで何してんの?」
 ぎゃぁぁぁぁ!!!
「何って、初詣以外に何もないでしょ」
「……あ、そっか。そうだね」
 今にも悲鳴を上げそうだった僕はその会話には参加できず、ただ止まっていた。呼吸も十数秒止まっていた。
 目の前に現れたのは、同じ学校で同じクラス、バレー部員の山本と宮野。今の会話も二人のやりとり。
「東方くんって大きいからすぐ分かったよ」
 この身長のせいか!!
「待ち合わせ場所にできそうね」
 ここでやっと詰まってた呼吸を再開。一度吐き出して吸い込んだ空気は冷たくて、混乱してた頭を落ち着かせる。
「……ならないっての」
 僕は有名な犬のブロンズ像じゃない。
「まいっか。じゃねー」
「はいはい、あけおめー」
 と僕から離れる二人に手を上げて見送る。
 ……。でも、おかしいな。何で伊吹さんのこと何も言わなかったんだろ。殺気でも出てたのかな?
 その殺気でも確認しようと彼女の姿を探すが、僕の視界範囲にいない。いや、近すぎて見落としてた。後ろの下……僕の後ろに半分隠れてる感じで山本たちが行った方向を睨むように見ていた。
 そういえばいつぞや、山本と話してただけで怒ったことがあったもんな。
 だから殺気のせいで山本も宮野も伊吹さんのことを何も言わなかったということか。
「あの子、キライ」
 不機嫌全開だ。
「ごめんなさい」
 ここは謝っておく。
「アンタがデカいから、あの子たち上ばっか見て喋って、あたしに気付かなかったのよ?」
「え?」
「先輩に新年の挨拶もなしかぃ! せめて気付いて会釈ぐらいしてほしかった!!」
 ああ、えっと……、
「すみません、無駄にデカくて」
「お前なんか、避雷針になって雷に撃たれちまえ!」
「それはちょっと……」
 いくらなんでもそれはいやだ。

 今日ほど自分の身長を気にしたことがあっただろうか。
 屋台でお面を買わされ、知り合いから顔が分からない程度につけさせられる方の身になれ。
「ぴかぴぃ」
「何か言った?」
「周りからの視線が熱いです」
 高いから他人の様子もよく見える。子供が指差してるし。
「特撮ものにしたら子供受けよかったかもよ」
「老若男女問わずウケる気ないです」
 このお面、大地が帰ってきたらプレゼントしてやろう。だとすると、恵がきっとスネるな。
「あの、ちょっと待ってて」
 お面を買った店まで走って戻り、女の子向けのお面を買って伊吹さんを待たせた場所まで戻る。
 そしてそれを伊吹さんにつける。
「な!?」
「気にしないでください。妹へのおみやげを持って歩きたくないだけですから」
「……なんだかすごく強くなった気がするわ」
 そういえばお面の少女キャラは悪者と戦うんだよな? グーとか蹴りとか。普段の伊吹さんと変わらないじゃないか。
「よーしピカ○ュウ、でんこうせっかだ! ぴかぴかぴか……」
 何となく、伊吹さんから離れたくなって駆け足で逃げる。
「あ、ちょっと! 待ちなさい!」
 追いかけてくる。
 最初はふざけ半分で始めたはずなのに、途中から本気になり、
「待て、って、言って、るで、しょうが!」
「じゃ、追いかけるの、やめて、ください!」
「だったら、そっちが、止まれ!」
「イヤ、っだ」
 互いに体力には自信があるので、なかなか諦めない。

 僕の家から天満宮まではバスで行ったんだけど、帰りは――およそ5キロの道を、ほぼ全力疾走で帰っていた。

「バっカ、じゃ、ねぇの」
「疲れてる、くせに、口数、減らないわね」
「ぜ、全然、余裕っすよ」
 息が上がって喋るのもやっとだというのに、なぜか強がってみたり。
 ホントに、正月早々なにやってんだろ、この人たち。

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2010.11.19 UP