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  37 来てた新年


 起きたら、外が明るかった。
 部屋じゃなくて、窓の外が。
 もう一眠りしようと目を閉じて昨日のことがゆっくり思い出される。しばらくしてこの家にいるはずのもう一人のことに気付いた。
 ここからは一気に覚醒。がばっと起き上がり部屋を見渡すが彼女の姿はなく、僕は頭を抱えた。

 し、しまったぁぁぁぁ!

 と、声に出して叫びたかったけど、心の中で叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
 なんてもったいないことしたんだ! バカ、僕のバカっ!!
 試合と長距離移動の疲れに、欲が負けた!?

 年越しそばは? ――買ってない。そんなのどうでもいい。
 伊吹さんは……どこ行ったんだろ?
 つまんないから帰っちゃったかなー。それとも、怒って帰ったのかなー。
 どっちにしても、僕のせい。ろくに相手もせず寝ちゃったし。
 いやでもね、仕方なかったんだよ。人間ですもの、疲れたら眠りますよ。
 でもやっぱり――って堂々巡り。
 それを十数ターン繰り返し、諦めきれないが諦めて、布団にばたりと倒れた。
 スネてやる、嘆いてやる、ふて寝してやる!
 掛け布団をたぐりよせ、頭まで被った。
 静かにしていると、一階から物音がすることに気付き、不安から解消されてほっとしている僕。
 彼女は一体何をしているのだろう……ま、いっか。もう少しごろごろしときたいし。
 布団の心地良さを堪能していたら、突然開いた部屋のドア。
「いつまであたしを放っておくつもり?」
 というセリフをいい終える前に、僕は腹に激痛を感じていた。僕をめがけて飛んできた伊吹さんは、なぜ肘をうまいぐあいに鳩尾につき立てることができたのだろうか。
 薄れそうな意識の中、冷静にそんなことを考えてる僕って一体……でも結局、意識は薄れることなく、激痛に容赦なく呼び戻される。
「正月早々、死ぬ、救急車ぁ」
「大袈裟ね、もぅw」
 痛み苦しむ僕の腹の上で彼女は楽しそうに声を弾ませていた。
 彼女にはこんな僕の反応がおもしろおかしく見えるだろうけど、僕は本気で命の危機というものを感じているよ。
 ホントに、この人と一緒にいたら、命が100個あっても足りない。
 まぁ、そういうところも含めて……――もごもご。考え直せとか、間違ってるとか言われても。
 そう、惚れた弱み。何だか許せてしまう。
「すみません、うっかり爆睡してました」
 腹の痛みはひとまず我慢。まずは謝って彼女の機嫌を直すところから始めよう。
「べつにー、天空は疲れてるんだから仕方ないってわかってるもーん」
 とは言葉で言っていても、口をとがらせてそっぽ向いてるあたり、納得いかないって感じ。っていうか、その言い方は斬新だね。
「それよりお腹すかない? あたしもうお腹すいちゃってさー、思わず物色に行っちゃったよー。でも何もないのよね」
 あらあら、それは大変ですね。でも、家の住民目の前に「物色」なんて言ったら、僕はどう対応したらいいかちょっと考えてしまうじゃないか。
「……まぁ、ウチのみんな、ばーちゃんちに泊まりに行ってるんだから、日持ちの悪いものは置いてないでしょ」
 が、なぜかここでグーが僕の左頬に炸裂し布団に倒れることになる。
「な、なにすんのさ!!」
 頬を押さえながら顔を伊吹さんに向ける。
「誰がキモチワルイよっ! 勝手に冷蔵庫開けたのは悪いって思ってるわよ!」
 いや、誰もキモチワルイなんて言ってないんだけど……。
「誰もキモチワルイなんて言ってま――――」
 って言ってるのに、また彼女の右拳が飛んできた。
「また言った!!」
 ち、ちゃいますよ。たぶん、「日持ちが悪い」って言ったのが「キモチワルイ」って聞こえただけなんだよ。空耳だよ。
 って言ったところで、訂正時にまた殴られても適わないので、
「……聞き違いだってばー」
 としか言いようが無い。そしてまた機嫌が直るのを待つしかない。
「ごめんなさい」
 謝りながら。
「すみません」
 別に僕は悪くないのに。
「申し訳ございません」
「じゃ、お詫びに今日も泊めてね」
「それだけはできません。今日はちゃんと帰ってくださいね」
「……チッ」
 あ、また不機嫌顔になってしまった!!


 それから三十分後、僕と伊吹さんは朝食を求めて近所のコンビニに来ていた。
 元旦だというのに、だからか? 店は大繁盛。いつも売れてるのか心配したくなるカップ麺コーナーの棚が部分的に品切れ、全体的に食品が品薄になってる。昨日のデパートみたいだ。
 ということは、想像通り、弁当もパンも残ってない。今までこんなコンビニを見たことあっただろうか。
 さて、朝食をどうしようか……。つけもの売っててもおにぎりがない。
「弁当とか日配系統は朝十一時ぐらいじゃないと入らないわよ」
「意外と詳しいんすね」
「友達がバイトしてたから。日曜の朝十一時はサイアクだって言ってたし。並べてない弁当の争奪戦がうっとうしいって」
「……へ、へぇ」
 便利なコンビニ、バイトの本音?
「しょーがない、あんまんで我慢するか……」
 いかにも売れそびれた感じです。ほかの中華まんは売り切れと書いてあるし。

 なんとかありついたあんまんも……
「絶対これ、廃棄寸前だぁぁぁ!!!」
 と、伊吹さんは文句を言いながら、蒸かしすぎてちょっとべったりしてるあんまんを食べていた。
 僕は無難にカロリーメイトと牛乳。空腹は……とても満たされない。
「とりあえず、十時すぎたらスーパーに食材買いに行こ」
「すみません、近所のスーパーやドラッグストア、三日まで休みです」
 同じネタで毎年困ってる。すっごく退屈で正月がイヤになる。
「……どんだけイナカなのよ!」
「確かに中心部にくらべりゃ不便ですよ。でも、あなたの自宅ほどじゃないでしょ!?」
「あーそっか。あのあたり過疎地だもんね。コンビニ遠いし、病院は歯医者だけだし、徒歩三十分の小学校は学年二クラスしかないし、中学校は徒歩五十分、自転車通学ギリギリ圏外。八年前は携帯も圏外だったし……」
「うそっ、二クラスしかないの?」
「うっさいわね、郵便局に駐車場もないわよ!」
「ATMはありましたか?」
「そのぐらいあったわよ!」
「でも、本屋ないんでしょ?」
「うるさい! 好きであんなとこ住んでるんじゃない! 抽選ではずれただけなんだよ……って確か言ってた」
 空腹は僕らにくだらない言い合いをさせた。決して、ヨッパライ同士の会話ではないことを補足しておく。

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2010.11.10 UP