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34 冬の国立
今年も残すところあと三日。
こんな忙しい時期に、新幹線に乗って移動していた。
我が校のサッカー部員が。本格化した帰省ラッシュ真っ只中の新幹線で。まぁ、都心発ではない分、乗車率は二〇〇%でもなければ、デッキに立たされている訳でもない。大会に出場することは事前に分かっていたことなので、ちゃんと指定席がとってあって、そこに座っている。
通路側は退屈そうなので、窓側に座り外を流れる景色を楽しむ。いや、楽しんでおきたい。車内で何が起ころうと、そちら側だけは――なぜか隣はキャプテン青木、背番号1。ポジションはゴールキーパーときた。
「飛び込んでおいで。キミの想いはいつでもキャッチするよ」
なぜか僕の耳元でそんなセリフを囁いている。だからずっと、鳥肌がたちっぱなしで、マフラーが外せない。
――伊吹さん、伊吹さん、伊吹さん!!
クリスマスにもらったマフラーをぎゅっと握り締め、何とか耐えろ東方天空。ここで突っ込んだら負けだ! 無視だ無視。
「こっち向けよ。何怒ってんだ?」
怒ってるからそっち向かない訳じゃない。関わりたくないから向かないんだ。ああ、景色が早すぎて、目が痛くなってきた。首も痛いし、外ばかり見てるのも楽じゃない。
さっさと始末しとくか。
「キャプテン、つばさは?」
途端、青木さんのグーが額に飛んできた。
「――っがっ」
「俺っ様の教科書だ、悪いか!」
なんとも恐ろしい声音。そしてカバンからは古びた漫画の単行本。でもそれ、MFが主人公じゃなかっただろうか。
しかし、考えが読まれていたとは……さすが青木さん。取れないボールはないと言われるほどのゴールキーパー。人の行動を読むのはお手の物か?
「つーか、呼び捨てかぁ? 様とかつけろよ。それと、余計なこと言ったら……ニ度とサッカーができなくなると思え!」
これは冗談で言ってない。目が全然笑ってねぇ!
「すみません、ニ度と調子に乗った発言はしません!」
「分かりゃいいんだよ。お前は俺だけを守ってればいい」
と、漫画の単行本を読み始めた。
それって、サッカーのことで、ゴールのことですよね?
「さすがの青木もサッカーの神を呼び捨てにすると、怒るんだな……」
違う、違う! そっちの人物じゃなくて……。
「初めて見た。青木と東方の夫婦喧嘩」
??!
「誰が夫婦なんですか!!」
咄嗟に反論。だけど、
「誰って、お前と青木」
なんでやねん!!
こんな中にいたら頭が痛くなる。そして、かなり本気で殴られた、額がリアルに痛い。
ホントに、どいつもこいつも……。
そんな奴らが高校サッカー県代表でいいのだろうか。
明日は全国高等学校サッカー選手権大会の開会式。明後日が一回戦。
初戦の相手は、夏に決勝で敗れた学校だとか。勝てる気がしねぇ。僕は所詮、中学レベルに尻尾がついた程度だろう。やはり試合の度に力の差というか、技術の差というか、何かを感じずにはいられなかった。
まだ一年だから仕方ないって思っていたい。自分がまだ高校レベルに達していないなんて認めたくなかった。
っていうか、こんなことうじうじ考えてたら、いい試合ができないって!
慣れない布団で睡眠不足。万全とは言えない体調での開会式。
試合が今日じゃなくて良かった、とつくづく思った。
三十一日、大晦日。
会場を数箇所に分けての一回戦。
午前中に会場となるスタジアムへ移動。ピッチで試合の開始を待っていた。
僕のポジションはセンターバック。ディフェンダーになって一ヶ月足らず――初めての試合。
午後十二時五分。
『ピ――ッ』
試合開始のホイッスルが鳴り、相手高の二人がセンターサークルからボールを蹴り始めた。
フォワードがボールを取りに行く。ミッドフィルダーが相手選手をマークする。
ここはよく、試合が見える。今まではボールばかり追っていた僕が、冷静に人の動きを見ていた。
パスが通り、攻め上がってくる。
僕はボールを奪いに――
「東方、ちがっ、ひだ、ああもうっ!!」
青木さんのそんな声が聞こえた頃には、目の前の選手の足からボールは消え、しまったと思った頃にはもう遅かった。
次の瞬間、後ろから来た選手はゴールをめがけて強くボールを蹴っていた。
相手は夏大会のときとほぼ同じメンバー。それに対し、こっちは三年が抜けた一、二年チーム。経験も実力も――敵うわけがない。
ゴールでは、青木さんが横っ飛びで何とかボールをキャッチ。得点にならず。
戻るチームメイトに指示を出してから軽くトスして蹴ったボールは、センターサークル付近に飛んでった。
「この、ばかたれ! 諦めたらそこで終わりなんだよ!」
これは僕に対するキャプテンのお言葉。
「すみません」
「人の動きをよく見ろ」
「はい」
「みんなボール追って、邪魔者はいない」
確かに、いい感じに攻め上がっている。……って、オイ!
「ノーマークだね、キミ。こんなとこに突っ立ってないで、さっさと行けよ、戦場へ!」
なにやってんだ、僕は。
試合開始から五分も経たないうちに攻め込まれ、相手の強さに一人圧倒された。
その後、攻めても攻め返され、どちらも譲らず得点なしで前半終了。
陣地を入れ替えての後半三十二分、得点を許した。
焦りはミスにつながり、また失点。
そして――試合終了のホイッスル。
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2010.06.11 UP