TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【32】


  32 take a chance T


 てーか、ちゃんす?
 てかちゃんっす。
 てんかすちゃんっす。
 天カス言うな! 自分でも言うなっ!!


 迫る期末考査。まぁ、余裕。色んな意味で。とりあえず、赤点にならない程度に点を稼いでおいた。
 終わりそうな二学期。授業も気付けば、自習みたいなのばっかりになっていた。
 あとは終業式――冬休み、楽しいイベント、年末年始。
 よーし、今年は――サッカー部のみんなと過ごさなくっちゃ……。
 どんより、どよどよ。
 花はどこ? 一〇〇パーセント男子で構成されたサッカー部です。
 クリスマスって……なに。
 ……どーせ部活だ。試合前だ、年末年始もクソもあるか! 冬休みがなんだぁぁぁぁ!!!
 サッカー部は、クリスマスも年末年始も関係なく、活動します。




「女なんかいらねぇ! オレたちは、サッカーを愛してる!」
「クリスマスが何だ! 年末年始もクソくらえ!」
「よし、二十四日は練習終了後、みんなでカラオケ行こうぜ!」
「お、いいねぇ」
 待て、待て、待て、待て!
 みんなって、僕も含まれるってことでしょ? ちょっと待ってください!
「ちょっと待て」
 ここで予想外な人物が口を挟んだ。キャプテン青木。カラオケはともかく、部のみんなと集まってなにかするのが好きそうだし、まとめ役って感じがしてたんだけど、
「俺、行かないからな」
 実は違ったのかな。
 青木さんの発言で、盛り上がってた二年生の表情がみるみる曇る。
「何でだよ。去年は来たじゃん」
「今年は用事があるんだよ」
「何だよ、用事って! オレら仲間よりも大事なのか?」
 意地でも誘う気だ。これじゃ、僕も行きませんなんてとても言えない。
「……まさか、女じゃ、ないよな?」
 背筋がぞくりとしたのは僕。もう、絶対に断れない!! まだ計画とか予定であるうちに諦めた方がいいのか。
 部活終わってからになるけど、ちょこっとだけ伊吹さんに会いたいな、とか思ってたんだけど。
「違うよ。バカじゃねーの? 東方と一緒に過ごすに決まってんじゃん」
「……へ?」
 僕? またガチホモフラグが……。
「だーかーら、行きません。あーもう、当日まで東方には内緒にしとこうと思ってたのに……」
 それはそれで、当日の帰り、いきなり誘拐されるってことじゃないっすか!
「おまえらのせーで、計画はメチャクチャだ! くそっ……。東方、二十四日に部活サボったら、一生俺の奴隷だからな!」
 うわっ、それ、どこまで冗談でどこからが本気ですか!! 僕ですら意味不明だというのに、他のみんなはどこまで信じているのかいないのか、呆然としてたり、汚らわしいものでも見るような視線を僕に向けつつヒソヒソと何かを話したり……とりあえず、誤解だ。
「そうか。中学時代はMFだったくせにDFになったのは、青木に近いからか」
「つーか、レギュラーにしてもらうために――」
「卑怯なヤツだ――」
「ごごごご、誤解ですって!! 僕は普通に女の子が好きですから」
「……俺とは、遊びだったとでも言いたいのか? あの日、俺の腕の中で――」
「火のないところに煙を立てるなー!!!」
「ふふふっ、ちょっとしたのろしだよ」
 青木さんの、バカーっ!!!


 といった感じで、取り返しのつかないウソのせいか、そのおかげなのか、部活中は連携が乱れるし、何だかみんなが冷たいし、居心地悪い。
「俺を守って、東方天空!」
 気分も悪い。
 僕、いない方が良くないっすか?
 まさかこれが、後輩いびり?


 授業時間が減って――部活時間が増えた。
 だから居心地悪いんだって。まさに地獄だ。

 終業式が終わって――冬休みに入った。
 グランドでは午前は野球部が部活で、午後からはサッカー部が部活。
 もう、やめてしまいたい。
 だけど、目前に迫る憧れの国立。ここで諦めるわけにはいかない。
 開会式は三十日。三十一日には一回戦。
 あと、一週間しかない。
 その前に、明日はもう二十四日じゃないか。
 ……何だか、たった数日で色んなことにがっかりだ。
 ああ、栄養補給してぇ……。
 帰ったら電話してみよ。




『そんなに辛いなら、野球部来なさいよ。大歓迎するわ』
 遠慮します。
 慰めてもらえるかもなんて思った僕がバカでした。
 じゃなくって、
「あの、明日……部活終わってからになると思うんですけど、会えませんか?」
 結構、勇気を振り絞りました。あんなこと言われた直後だけに。そのままの流れで、キツいことを言われないことだけ願う。
 ――優しくして。お世辞でもいいから。やっぱヤだけど。
『ん――――――――――…………』
 長いよ。息が切れるまで「んー」とか言われたし。そんなに考えることですか? 即答でいいんですよ、お断りでなければ。
『先約あるっぽいから、部活終了時に電話掛けて。その時の状況次第では会えるかもしれないし』
 なんて曖昧な……。その曖昧さが僕を傷つけるんですよ。
「会えないなら会えない、僕のこと嫌いならキライとはっきり言ってください」
『会いたいし、ダイスキ』
 ……嬉しいはずなのに、何だか泣きたくなりました。

 クリスマスのバカヤロー!




 で、すっかり忘れてた、二十四日クリスマス・イブ。部活が終わったら青木さんとなんたら、当日部活をサボったら一生奴隷?
 しかも起床直後に思い出したものだから具合が悪いのなんの。
 このまま、精神的な吐き気と頭痛で部活はお休みとかどうだろ。……それもそれで後がヤだな。考えたくない。
 午前中は余計なことを考えないために、得意教科の復習を黙々とやってみた。

 早めの昼食を終えると、部活の準備をして玄関を出る。外の風は思ったより冷たかったので、また家に入って厚手のコートに着替え、マフラーも装備してから自転車で学校へ向かう。
 ――このまま雪が降らなきゃいいけど……。
 顔や手、足先は芯まで冷えて、痛みさえ感じる。
 学校に到着し、部室からボールを運び出す。練習が始まるまでの間、じっとしてたら寒いから、意味もなく動き回っていた。練習が始まっても、動き回って……。

「ほら、もっと……そうじゃなくて……ああ、もうっ!!」
「だはっ!!!」
 ボール奪いに行ったら、最後にスネ蹴られたので、僕はその場にうずくまった。
 審判、ちょっと、笛吹いて! いないけど。
 つーか、痛い、スネ痛い。この寒さで夏の三倍痛い。涙出てくるぐらいだし。
「大丈夫か?」
 答える余裕がなく、声を掛けてくれた敵チームの新藤に、手を軽く上げるのが精一杯だった。
 試合は少しの間だけ中断し、また練習は再開される。
 試合を目前にしてこんな練習でいいのだろうか。相変わらず顧問、来ないし試合以外で見たことがない。
 いつも通り、部員だけで始まって、部員たちで指導し合って、部員だけで部活は終わった。

「うわ、寒っ!!」
 午後六時前。辺りはすっかり暗くなっていた。鉄筋コンクリート造りの部室は、外とは違う寒さだった。
 誰もが素早く着替え、これからのことを話しはじめた。
「カラオケ、空いてっかな」
「時間的に多そうだもんな」
 で、僕は……コートを羽織った途端、腕をがっしり掴まれた。そちらを向くと、ニヤリと笑う男と目が合い、思わず体を引いた。
「今からそんなに構えるなよ」
 構えたくもなる。捕まってなかったら、後ずさりしつつ距離がとれたら回れ右して全力疾走で逃げる。……逃げたい。逃がして。
「じゃ、おつかれー」
「おつかれでーす」
「おっつー」
「東方、ご愁傷様」
 おおおお、おいー!!
 僕は腕を掴まれたまま、青木さんと共に部室から退場。駐輪場まで行くと、ようやく手を離してくれた。
 よし、今のうちに逃げよう――って、僕の自転車は青木さんの自転車より校門寄りかよ!! 逃げる余裕はなさそうだ。いや、自転車に乗ってしまえばどうにでもなりそうだと思うんだけど。
 なーんて考えるのは、無駄だった。
 青木さんが自転車で校門を出た途端、停車してこちらを見た。
「ということで、俺とお前はこれからドリームタウンで閉店まで共に過ごした後、解散。特に何ごともなく無事帰宅」
 ――げ、マジかよ。
 僕は思わず顔をゆがめた。すると青木さんは僕に人差し指を突きつけた。
「――という設定だ。から、現時点を持って解散。自由行動とする!」
「……え?」
 突然のことに飲み込めない。これぞ予想外の展開だ。
「だから……もう、好きにしろ。帰れ」
 と、青木さんは説明するのもめんどくさそうに乱暴に言うと、邪魔者を追い払うように手を払った。
「……えと、じゃ……さようなら」
「ああ。とりあえず、ついてくんなよ」
 僕に背を向けて走り出す青木さんを見えなくなるまで見送ってしまい……駐輪場あたりから聞こえてくるサッカー部員の話し声に、慌てて自転車を漕ぎ出した。


 伊吹さん、伊吹さん、伊吹さん、伊吹さん、伊吹さん――――。
 脳内は彼女のことでイッパイだった。これから起こり……得ないことばかりを想像しては、人や自動車の通りがないところでニタニタと顔を緩ませていた。

 逃げるように学校から全速力で走ること五分。道路交通法違反だと知りつつも自転車運転中に携帯を使用。飲酒時の足に自転車を使うのも飲酒運転になりますのでダメです、お父さん。で、電話の相手だが、もちろん相手は伊吹さん。
『ドリームタウンで買い物中――というか、もう終わって帰ろうかなって思ってたぐらいだからヒマよ』
 思わずガッツポーズ。だけど片手に携帯。ということは、ハンドルがお留守になってる。
「じゃ、今すぐ行きます!」
『このあたしを待たせたら、どうなるか分かってるわよね?』
「すみません、貴女より先に到着するのはどうあがいても無理なので、お手柔らかにお願いします」
『分かってて言ってるから、何もないわよ。一階の中央広場にでもいるから、とりあえず気をつけて』
 と電話は切れる。
 今日は何だかやさしいな。……雪かそれともひょうでも降るのだろうか。普通に喜びたいところだが、ちょっと不気味に思った。
 あの人の性格がやっぱしアレだから。まぁ、そんなところがいいんだけどね、と鼻で笑う。
 携帯はたたんでポケットへイン。ハンドルを握りなおして強くペダルを漕いだ。

 NEXT→ 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【33】

 義理の母は16歳☆ TOP




2009.10.01 UP