TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【28】


  28 文化祭、本番


 十一月三日、文化の日で祝日。
 我が高文化祭二日目。一年三組はステージのプログラム四番目。
 文化祭前の一週間は、練習もハードだった。
 ノリのいい曲にアレンジされたアニソンが流れる教室――。
「手が伸びてない! もっとシャキシャキっと――あー、足、逆!」
 あまりの厳しさに腕が筋肉痛になる者も多かった。腕が上がらなくなるやつもいた。
 だけどそれはそれで面白かった。
 クラスのみんなが笑い合って、踊ってるのは……見てて羨ましくもあった。
 みんなが通しでやってる中、最初の一曲だけ踊って、後は一人でリフティング。
 個人的にも家で練習してたけど、十分前後が限界だった。
 ――踊ってる方がましだ!!
 なんて思い始める僕がいる。だけど意地もある。
 ――やってやらぁ!!



 プログラム三番が始まる頃には体育館のステージ裏にある入り口前で我がクラス一同は最後のチェックを行っていた。
 僕も軽くボールと戯れつつ、体をほぐす。
「一グループから順番に並んでー」
 そんな僕も一応一グループと踊ってから、二グループ目からボールを受け取りリフティング開始、それから三グループ、四グループ……最後に全員。
「もうそろそろ終わるから、出れる準備してー」
「うわぁぁぁ、人、人、人ぉぉ!!」
 手のひらに描いて飲み込んでもなぁ。
 緊張絶頂! いよいよ、本番です。

 体育館内はカーテンが閉められて薄暗くなっている。照明がステージに集中しているので観客の顔は見えないものの、椅子はほぼ埋まっている状態だ。
 前奏の半分弱が流れ、踊り、スタート。
 恥ずかしさもありつつ、みんなで踊ってるのが何だか楽しくて夢中になった。
 だけどそれもすぐに終わってしまい、僕以外の一グループはステージから去る。同時に入ってきた二グループにサッカーボールを渡されるとリフティングスタート。自分への挑戦が始まった。
 ここからはアニソン尽くし。二グループ、三グループ、四グループと入れ替わっていく中、僕は黙々と役目を果たす。

 ――そして、最後の曲になった。
 照明担当以外の全員が、ステージに集う。
 僕はそれに加わるギリギリでボールを高めに上げてステージの脇に放って、それに加わる。
 クラスみんなの息がぴたりと合った気がした。
 最後のシメ。最後のキメ!
 盛大な拍手が会場をいっぱいにした。
 クラスだけではなく、会場までもが一体になった瞬間だった……。


 盛大な拍手が包み込む会場を、深いお辞儀で後にする一年三組。
 文化祭のステージは成功を治めたと言っていいだろう。
 体育館外では、抱き合う者、ハイタッチをしてる者、ガッツポーズで雄叫びを上げる者もいた。
 僕はそれらを加えた充実感、達成感を噛み締めていた。
 文化祭の出し物の話が出た時はバラバラだったものが、一つになった瞬間を――。
 そしてついでに、リフティング自己最高記録達成。

 僕はそのままの格好で辺りをちょろちょろしていた。
 衣装であるユニフォーム持ち主、川村の好意――似合ってるから文化祭終わるまで着とけば――で、着替えもせず、そのままの格好で。
 途中、ステージを見た人に声を掛けられたり、一緒に写真に収められたりもしたけど、向かっていたのはグランド方面。
 バックネット側で野球部が、バッティングコーナーをやっていて、その邪魔にならない辺りでサッカー部が例の『ゴールキーパー危機一髪!』をやっていた。
 少しギャラリーに揉まれた後、グランドへ入った僕が目にした光景は――以下のものである。
 女子生徒が野球部コーナーでバットを振っていたが、あたりもかすりもせず次の打者へと替わった。
「わたし、あんなのムリー」
 なんて声が聞こえる中、バッターボックスに入っている一人の女子生徒は、右打ちながらもイチローを模した挑発をしていたので思わず立ち止まってしまった。
「本気でこーい!」
 とか言ってる人は桜井伊吹先輩、僕がなぜだか愛して止まない人物。
 その構えといい態度といい、メジャー級な人だった。
 その挑発のせいなのか否か、本気で投げ込む野球部ピッチャーさん。
 一球目は見送った先輩。
 構えなおして二球目は、カスってバックネットに当たった。
 三球目は――キレのいい音を放ったが、ワンバウンドで外野がそのボールをキャッチ。すぐに一塁へと送球されるが判定はセーフ。
「桜井……お前、マネージャーにしとくのはもったいない。レギュラーになれよ」
 と先輩に向かって言うピッチャーさん。
「うっさい! マネージャーのあたしに打たれるぐらいだもの。まだまだ甘いのよ!」
 なんて言いつつも、先輩は一塁で悔しそうに砂を蹴っていた。
 ホントはホームランでも打ちたかったのだろうか。


「おねがいしまーす」
 次に来た打者が――――大きめのパーカーにだぼだぼで裾を踏んでるカーゴパンツ。小柄でかわいらしい少年、伊吹さんの弟の大志くん。
 ポヤ男代表と言っても過言ではないほどの、普段はポヤっとした人物。一応、中学では野球部に在籍してるものの、そのポヤのせいで補欠だという彼。バッティングセンターではものすごい勢いでボールを返していたが本日はいかに!
 僕はその試合をグランド入り口で立ち止まって見ていた。
 初球――ピッチャーが構えるのと同時に、大志くんの表情が鋭くなった。右足に重心をおきつつ右回りに少し体を捻る。そしてそれが一気に振られる。力強い踏み込みとスウィング。あっさり仕留められた球は――見失った。
 守っていた野球部員さえも、打球の行方を見失い、視線は空を仰いでいた。
 それを打った大志くんでさえも、バッターボックスに立ち尽くしていたが、その目はボールの行き先をしっかり捉えていたらしく、
「ご、ごめんなさーい!!」
 と言いながら、バットを放り投げ、怖い人たちから逃げるように一塁ではない方向へ走り出した。
 バッティングセンターで大志くんの実力(?)は見てるから今更驚きはしないけど、やっぱりスゴいな、先輩の英才教育。
 面白いゲームは終わってしまったので、僕はいまいち人気のない、青木さんのいるサッカーゴールへと歩き出した。


「どうですか、青木さん」
 少し距離があるところから、サッカー部主将に声を掛けた。
 退屈そうに、退屈しのぎにゴールで懸垂をやってた青木さんは、僕の方を見てからそれをやめて地に足をつけた。
「まだ入ってないよ〜。東方もやるか? って、いいもの着てんじゃん」
 と、サッカー日本代表ユニフォームをうらやましそうに見つめた。
 僕もサッカーを愛してるだけに、着てるだけで気分もいい。
「ええ、クラスの出し物の衣装でして……」
「ふぅん。で、二十分リフ、どうだった?」
「頑張りました。終わった時は拍手喝さいで……」
「ここでもやっててよ。いい客引きになりそうだから」
「……はぁ」
 まだやれと言うのか? リフティングは今までの練習と今日ので三年分はやったと思うぐらいやったんだけど。それどころかもう二度とやりたくないと思うぐらいだから一生分か?
「じゃ、踊るか?」
 僕のさえない返事のせいで、そっちの方に話を振られる。
 人気のないゴール前で日本代表ユニフォームの人が一人で踊ってる姿を想像した。
「いや、それはちょっと……」
 さすがに一人じゃやりたくない。ここがそんな状況だったら、僕は絶対に行かない。
 青木さんは笑いながら、屈伸運動を始める。
「ちょっと体動かしたい。東方、ちょっと……いや、本気できてくれる?」
 いきなり本気でこいときたか。そんなにヒマなのかな。
 青木さんはボールを拾うと、妙な回転をかけて僕に投げてきた。
 それを体で止めると、回転のせいで思ってもない方向へボールが逃げる。慌てて脚を出してボールを上げ、操った。
「さぁ、いらっしゃい」
 青木さんは腰を落とし、僕ではなくボールを睨みつけていた。
 僕はボールを蹴りながら、右、左とフェイントを繰り出しつつ、右足で左上を狙ってボールを蹴った。
 が、青木さんの素早い横っ飛び。あっさりボールを取られた。
 ……しまった。ケガで休んでる間に腕が落ちたかな?
 そんなことを理由にしようと思っていたが、そうではなかった。今までに一度も入ったことはない。
「東方天空くん、利き足が右。ここ一番ってときには絶対に右足で打ってくる。ゴール前になると必ず、強く打ち込んでくる」
「え?」
「狙いが基本的にバレバレ」
 おーまいがっ!!
「うっかり蹴り損ねて右側に転がった方が意外と入るかも。まぁ、オレを攻略したって意味はないか」
 何だかスゴいな。目の付け所が違うというか、ゴールを守りながらみんなの動きをみてるのかな?
「今度は東方がキーパーやってみ」
「え? 僕が?」
「退屈なんだよ」
 ……そう……だよな。
 ということで、やったことないゴールキーパーを体験。
 何だか怖いな、狙われてる感じが。どこを狙ってくるんだろ……僕は青木さんの動きに注目した。
 左足を軸に右足が振り上げられる。そのまま思いっきり蹴ってきそうだ。ということは、ゴールの右側に飛んでくるはずだ! 僕はそう読んだ。
 が、その右足はボールに触れない!
 僕はもう右側に動いた後。
 青木さんは素早く左のかかとでボールを転がしてきた。
 転がってきた、だけ。しかしボールに追いつけず、得点を許してしまった。
 ……僕はキーパーじゃないし。って、負け惜しみ。
「ほら、意外と入るでしょ?」
 いや、右でこられても、ビビって取れなかったと思うから、どっちにしろ入ったと思う。
 何だかヘコむなぁ。所詮中学レベルか、僕は。
 青木さんはゴールにぶら下がり、懸垂をはじめていた。


「たのもぉー。サッカー部員一人、引き抜いてやるわ!」
 引き抜いてどうするんですか。野球部員にでもするんですか? なぜちらっと僕を見たっ!!
 相変わらず、態度だけは人一倍ですね、先輩。
 その側らに彼女の弟、大志くん。どう見ても、服のサイズを間違っている。
「引き抜かれちゃ困るんだけどね……まぁ、抜けやしないさ」
 懸垂をしていた手を離し、着地する青木さんはなぜか先輩とにらみ合う。この組み合わせもサッカー部と野球部だからしょうがないのか?
「東方は俺のものだ」
 ちょ、なに、その発言!!
 って、何で背後から抱きしめてくるの!!
 な、なに、この展開!!
 鳥肌が止まらないっ!!
「……」
 先輩は口をポカンと開けて、汚いものでも見るような視線で僕を見ていた。
「ち、違う! 決してそんなシュミは持ち合わせておりません!!」
 必死な訴えは彼女に届いただろうか……ちょっと難しいかも。
 ああ、大志くんまで僕を蔑んだ目で見ている。
「白黒はっきりさせようか、サクライ」
「やってやろうじゃないの、アオキ!」
 意外な組み合わせで戦いが始まりそうだ。
 っていうか、冗談ですよね?
「勝った方が、東方をスキにできる! 脱がして縛って弄んで、撮ってばら撒いてもオッケーだ」
 ちょ、マテや!

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2009.06.23 UP
2009.06.25 改稿