■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【27】
27 文化祭――クラス全員団結せよ!
いくじなし。
まさに今の僕のこと。
意気地なし。漢字にするとこんな感じ。……ギャグじゃないよ、寒々しい。
温かな想いがある。
だけど今の状態は寒すぎる。
何だか学校のいたるところから浮かれた気分が……。
特に張り切ってるのが生徒会系統の執行部。クラス委員を呼び出しての会議。
そう。十一月に行われる文化祭のせい。
いつの間にか、入学して半年以上が過ぎていた。
「東方」
休み時間、廊下を歩いていると、前からやってきたクラスの違うサッカー部員が僕に声を掛けてきた。
「最近、全然部活に来てないけど、大丈夫か?」
「んー。そろそろ復帰しようかなって思ってるから」
そうなんだ、よかった。と彼――新藤は安堵の溜め息まじりに言った。
「文化祭のこと知ってる?」
僕は何のことか飲み込めず、首をかしげた。
「サッカー部はゴールキーパー危機一髪! ってのやるんだって」
「なにそれ」
「青木先輩が守るゴールにボールを入れることができるか! ってゲームらしいよ」
「そりゃ入らないっしょ」
「オレもそう思う」
「もし入った場合、何か景品でもあるわけ?」
あるのなら、挑戦してみようかな、なんて考えてみる。
「うん。確か……サッカー部員一名を指名して文化祭終了までの間、好きにしていいんだって」
と軽く言う新藤だが、よく考えてみろ。僕も新藤もそのサッカー部員だ。好きにされる側じゃないか。
「他人事じゃないよ、それ」
「……だよね」
と苦笑いを浮かべる新藤。当日、青木さんにはなんとしてでも頑張ってもらわねば!
「おっとこうしちゃいられない。じゃ、そういうことだから、早く治せよ!」
彼は用事を思い出したらしく、会話を完結させると廊下を駆けていった。
「……はぁ」
溜め息が漏れた。
文化祭の各クラスの出し物、各学年でも二クラスずつしか得られないステージを運悪く引き当ててしまった我がクラス。
ステージで何をするかでもめにもめた直後だった。
劇――にしろ、何をするか考えてなくて話が進まず。誰が役者で誰が裏方なのかでまたあーだこーだともめる。
合唱、合奏――何の歌をうたうんだ! 今話題の曲あたり? 楽器なんて無理! 楽譜が読めない。だいたいどこで楽譜入手すんの? と。
オペレッタ――前者のように話がまとまらない。
ショートコントをグループに分かれてやる――お笑い好きの男子は盛り上がったが、女子からはものすごいブーイングの嵐。
クラス全員の息がバラバラだ。この先が不安でならない。
というのに、サッカー部でもゲームコーナーみたいなのをやると知って……。青木さんが本気でやってくれるなら心配は全くないんだけど。ああいう場で本気になってやるものかな?
……普通は手を抜くよね、ある程度。
文化祭なんか……文化祭なんかなければいいのにっ!!
お祭りとか基本的には好きな方だが、嫌いになれそうだ。
その日の放課後――部活動をしてなかったり今日は活動日じゃない人だけを教室に残し、文化祭での出し物について話し合いが行われていて、現在、サッカー部をお休み中な僕もその中にいた。
劇だったら何をする、合唱なら何をする、合奏なら何の楽器ができるか、オペレッタなら何をするか――決まらなかった件からしか決めようがない、ステージ上では限られる演出。ショートコントに至っては、反対意見の多さに対象外となっている。
劇だったら――よくある童話をおもしろおかしくアレンジしてみる、というありきたりな案が出てきて、
「だったらオレ、王子様!」
と杉山亮登が手を挙げ、席を立ち、くるりと体を一回転。意味不明だ。
いや、単に目立って印象に残しつつ、文化祭をきっかけにモテたりしたいのかもしれないが……いつぞや女子を紹介しろと言われて以降、一度も喜ばしい報告を彼から聞いたことがない。
「え、ナンパ王子ってやだよね」
と僕の席に近い女子が小声で反論?
それが現実。
合奏――まずは楽器が使える人、挙手から始まった。
僕は上げない。リコーダーと鍵盤ハーモニカができるかできないかという程度のものだから。
アコーディオン、フルート、ヴァイオリン、ピアノ……意外と居るのだが、あまりの統一感のなさ。そんな中、堂々とリコーダー! 鍵ハモ! と言う輩も多数。そのあたりは誰でも義務教育期間にできるようになってる! 空気読めよ。
これはどうにもなりそうにない雰囲気につき、候補から外されることになった。
どうあがいても、吹奏楽部のステージには敵わない。
合唱――伴奏者と指揮者がいたらどうにでもなりそうな、一番簡単そうなやつ。
しかし、盛り上がらないのも確かだ。インパクトもない。
そして最後にオペレッタ――劇と合唱、合奏を全部合わせてやればいいじゃん! という意見が飛び出した。
それからは話が早かった。
前で劇をする役者数名、それに合わせた歌や曲を歌い、演奏する者が後ろを固める。それから照明係りを数名。今はクラス全員が揃っていないので役割分担はまた後日。
あとは内容。童話では曲に限りがあるということで、今流行っている歌謡曲を上げていく。「振り付けが面白いものはそのまま取り入れるべきだ!」「それならCDに入ってるボーカルレス使ったほうがよくないか?」「それじゃつまんないし」「曲の雰囲気に合った劇はどうなったの?」「アニソンのパラパラ踊らせとけよ」「あはは、マジで!?」「ステージが終わるまで、リフティングが続けられるか!」
なぜか僕に視線が注がれる。
……リフティング?
「僕かっ!!!」
突然振ってくるな!
「サッカーボール以外のものでできないの?」
「無茶言うな」
「おもしろくねー」
できるようになるまでにどれだけの努力をしたと思ってんだ、コラ。
「よし、だったらこうしよう。東方がど真ん中でリフティングを最後までやる。そしてみんなでアニソンパラパラ! けってーい」
いや、決定すんな! オペレッタの話はどこいった! 元からオペレッタから外れてた気はするんだけど、全然違うことになってんじゃん!
「もし、リフティングが最後までできなかったら?」
緊張のあまり、失敗する可能性が高い。それに時間も長すぎる。
「そりゃもちろん、全員が東方に向かっていくんだよ。そしてステージ強制終了」
「ちょ、待て!」
「でもそれじゃ華がないよな。バレー部女子を両脇に置いて、東方の上をバレーボールが行ったりきたり……いいじゃん!」
「よくないっ!!」
言いたい放題だ。
「日本代表ユニフォーム持ってるから、持ってくるねー」
「だからやらないって!」
やたら盛り上がっていた教室が僕の一言でシンと静まり返った。そして、
「ケチ」「減るもんでもあるまいし」「ここまで盛り上がらせといて、今更やらないだなんて……」「じゃぁ何をやるってのよ」云々。
僕に向けられたそれらは小声でありながらもぐさぐさと突き刺さってくる。
「棄権できないの?」「無理」「だよねー」「どうすんのさ。話は振り出しに戻っちゃったじゃないか! もう帰りたいのに」
ざくざく、ぐさぐさ。――ああああ、もぅ!!
「やりゃいーんだろ! やりゃぁ!!」
ヤケだ、自棄だ。ヤケクソだ! もってけ泥棒、こんちくしょう!
「二十分連続リフ、練習よろ☆」
前に立って話し合いを取り仕切るクラス委員が僕に向かって軽く手を上げた。
人に頼む態度じゃないよ、それ。何だかムカっとしちゃったぃ。
「で、アニソンパラパラってどんなん?」
「DVD持ってるよ」
ここから先の話は僕にとってどうでもいいこと。
僕だけが二十分間連続で続けなければならない訳じゃないことに、次の日気付く。
「どーゆーこと!?」
クラス全員が揃った朝。昨日の放課後に決まったことを聞いたバレー部山本が大きな声を上げた。
「でも、もうそういう風に決めちゃったし……ね、東方クン」
何で僕に振るのさ。僕のせいなのか、それは。みんながグチグチ言うから仕方なく折れたんだぞ。
「東方くんも何でそういうのをやるなんて言うかな?」
「好きでやるなんて言ったんじゃない。あの場の雰囲気的に、やらなきゃならない状況にまで追い込まれてんだぞ」
そう、女子バレー部の二名が僕のサイドでなんたらかんたら。自分のことでいっぱいいっぱいだったからすっかり忘れていた。
それに指名されたのがどうやら山本と……、
「うわーん、みゃの〜っ」
山本が抱きついた女子――宮野。彼女も確かバレー部だった。髪の長い山本とは対照的な印象を受ける、さっぱりとした短めの髪。いかにもスポーツ少女とでも言おうか。
山本をなだめるように頭を撫でる宮野はようやく口を開く。
「二十分間ずっとでしょ? 無理だって」
「そんなの見てたってつまんないよ」
山本、いいこと言った! ならば僕も……。
「そうだ、おもしろくない! パラパラ見てるほうがいいと思うんだ」
「でも、リフティングは見てみたいよね」
まてや、こらぁー!!!
結局、話はこうまとまってしまった。
五人ぐらいが一グループになって、グループごとに一曲を踊る。最後はみんなで踊って終わり。
ただし、東方天空のみ、ステージにてリフティングを続けること。
衣装は制服。だたし、東方天空のみサッカーの日本代表ユニフォーム(川村が持ってきます)。
「せっかくユニフォーム着るんだから、あの曲を一発目に東方にも踊ってもらいたくね?」
「真ん中でね。いいね、それ」
待て、まて、マテ!!
「「もっと、もっと、とうぼう!」」
違います、そんな曲名じゃない。
「リフティングする時間が数分短縮できていいと思うし……ね?」
「……どうにでもしろ」
どうにでもなってくれ、ホントに。
で、こんなとこで目立って、また野球部員の方々に因縁つけられんだろうな?
そろそろ部活に出ようかと考えてるのに。
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2009.06.03 UP