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26 目指せ、国立! その前に
違う、こんなはずじゃ……。
だめだ。僕のプレイじゃない。
もっと早く、このぐらいならボールを……。
追いつけない、なぜだ!
焦っていた。
冬の国立出場を掛けた戦い、第一回戦。せっかく試合に出られたのに……。
何もできずにもがいていた。
これじゃすぐに選手交代だ。
誰だよ、中学時代にもてはやされて天狗になってたヤツは……。
推薦で全国常連の学校に入れて、全国デビューか? なんて気軽に構えてたヤツは。
足がどうのこうのじゃない。やっぱ、レベル高いよ。追いつけない。
――甘く考えすぎてた。
上には上がある。
痛みの感覚さえ麻痺するほど、熱中した。思い出してはあまりの痛みに歯を食いしばった。
こんなはずじゃなかった。
こんなはずじゃ……万全の状態だったら……なんてものは試合中に関係ない。
あっさり交代させられてベンチで一人、肩で息をしていた。
とてつもなく悔しくて、自分がここでは無力だとも思った。みじめだった。
足さえ――言い訳でしかない。
こんな自分に腹が立って、拳をベンチに叩きつけた。
「こんなもんじゃねーだろ、お前……」
顧問のそんな一言が、僕の体を射抜いた。
何も言えなかった。言い訳にしかならないから……。ただ黙って、悔しさに歯を食いしばった。
そして試合は終了し――べつに僕がいなくても、我が校は初戦を突破した。
第二戦ではずっとベンチに座っていた。
そして二回戦も突破。
準々決勝――勝ち残ったのに、なぜか喜べなかった。
準決勝、決勝――虚しさ以外の何もなかった。
悔しくて右足で強く地を蹴った。
「いっ!!」
痛む。更に悔しくなって、帰る途中に電柱を蹴飛ばした。
「ぐぁっ!!」
アホですよ、どうせ。
好きな女にも会えず触れず、サッカーもできなくて……。
――鍛えてやる、鍛えてやる、鍛えてやらぁぁぁ!!!
家でも腕立て、腹筋、背筋、各五十回を最低でも三セットずつこなす毎日。
自暴自棄になってた。
数日後、校舎には横断幕が下がっていた。
サッカー部が全国大会への出場が決定したから。
「悔しいでしょ?」
それを見上げて奥歯を噛み締めていた僕の背後からそんな声。振り返るとそこには青木さんがいた。
確かに悔しかった。僕は結局何もできなかったから。
「足、治るまでこなくていいよ、部活」
それだけ言って、彼は僕から離れていった。
大会が始まるのは年末。
それまでに足を治して、絶対に出てやる!
だけど中間考査は――八割ほど白紙で出してやった。
部活はなくても、大志くんのかてきょには行かなきゃならないもので……あれからずっと素通りするだけの先輩の部屋の前を通るのには慣れなくて、慣れたくなくて、ただ辛いだけ。
先輩と会わなくなって、早いもので半月が過ぎていた。
大志くんの召喚率がいい具合に下がっているというのに、僕の上の空がどんどんヒドくなってるらしく、
「お姉ちゃんとケンカでもしたんですか?」
なんて突然聞かれて我に返る。
「……いんや、別に」
ケンカはしてない。ただ、青木さんに離れとけみたいなことを言われてそのまま……。
「お姉ちゃんも元気ないんですよね、最近。ケンカじゃないんなら……別れたとか?」
「つきあってねぇよ!」
間髪入れずに思いっきり突っ込む。
つきあってもらえないんだよ、こっちは!!
「あれ? そうなんですか? てっきりそろそろつきあってるものかと……」
そろそろって何だよ。何だか変だよ、言ってることが。
「じゃ、フラれたんですね」
あまりにかわいらしい笑顔でそんなことを言うから、ぐっさり余計に突き刺さっております。
あれ? なんだろうこれ。深く突き刺さって抜けないよ。痛いよ、心が!!
僕に与えたダメージは致死量だよ。
「天空さんはとてもいい人で個人的に尊敬さえするというのに振るなんていい度胸です! いっそのことお姉ちゃんなんてどうですか? やさ……しいとは言い切れないし、強いし、怒ると怖いし、すぐ殴りますけど……決して悪い人では……ないと……思い……たいです」
言いすぎだ。まぁ、彼女のいいところを探して言えと言われれば僕もそんなことしか言えそうにないけど。
「お姉ちゃんも元気ないし……こっちもフラれたのかな。だったら尚更、二人で励ましあ……うまえに手が飛んでくると思いますが」
そこまで予想してくれて何だが、全然見当はずれです。
つーか、僕が学校でちょっと目立った行動をしすぎたせいで言われたに過ぎないんじゃないのかな?
ってことは、ココでこっそり会ってるぐらいなら問題にはならんのでは?
だよな? そうだよな! でもなぁ……いや、大丈夫だ。そろそろ伊吹補給ぐらいしとかないと……でもしかし!!
終わったらちょっと先輩の部屋に寄ってみよう! ダメだダメだ!!
あー、どっちだ! あとはその時の自分に任せたっ!
「じゃ、今日はここまで。やった宿題、忘れないようにな」
「はい。ありがとうございました」
「大志くん、日課そろえた?」
「……忘れてました!!」
やれやれ。世話の焼ける生徒だ。僕が見てあげた宿題も、机の上に置いたまま忘れたことが何度もあるみたいだし。
僕は大志くんの部屋のドアに掛かっているカレンダーを見た。
「次……金曜にまた来るわ」
「はーい、了解しました!」
時計を見ると今までで一番切り上げ時間が早い午後八時。先輩は部屋にいるだろうか。
大志くんの部屋から出ると、思いのほか寒いことに身震いする。階段に向かう前に先輩の部屋の前で足を止め、ドアをじっと見つめた。
ノックしようと手を胸の高さまで上げたけど、その後の行動ができず止まる。
――どうしたらいい?
いなかったらいなかったであきらめよう。
いたら、どうすればいい?
抱きしめて、好きだって……言っとこうかな?
……何がしたいんだろ、ホントに。
自分でおかしくなってきて、思わず顔に笑みを浮かべた――その時!
――ガチャ。
目の前のドアが突然開く。それに対し、僕はただただ驚く。目の前に先輩がなんとも言えない表情で僕を見ていた。
「いや、あの、えっと……」
もだもだしてるうちにネクタイを引っ張られ、体勢が低くなったところで不意にキスされた。
と思ったら突き飛ばされて、ドアが締まった。
……なんだよ、今のは。
喜んでいいのか、これって。
呆然としていると、物音がガタリ。そちらを向くと、引きつった笑顔の大志くんがまさに部屋へ引っ込もうとしていた。
「あの、えっと、違うんです。覗いてたわけじゃないんです。トイレに行こうと思ってただけで、別に二人の関係が実はどうであってもぼくは構わないですし、口を挟むようなことでもないですし、何と言いますか、好きにしちゃってくださいみたいな感じで、でもやっぱりそういう関係だったのか、って正直驚いてたりもするんですけど……」
長い、長いよ大志くん。キミからそんなに長いセリフを聞いたのは初めてだ。
っていうか見ちゃったならしょうがないかな、覚醒しちゃったんだ。
「あんな姉ですがどうぞ、末永くお幸せに!!」
なぜか深く頭を下げられてしまった。
末永く――ってまだ高校生なんだけど。って、待てよ?
……そうか。その手にしよう。
新たな閃きに思わず拳を握ったものの、弟くんに見られてしまったことの方に軍配が上がり、カッと顔が熱くなる。
「ち、ちがっ――」
手を前で振りながら、首も横に振る。言い訳は――出てこなかった。
そのせいで大志くんの表情に影が……。
「なんだ。ねーちゃんの欲求不満晴らしかよ。つまんね」
いつもの天使キャラの裏側――悪魔大志を見た気がした。ホントにつまんなそうな顔で、態度で部屋に戻っていく大志くんは、僕の知らない別人のようだった。
暗くなった道を自転車で走り自宅へ帰る。
唇に残る余韻が……肌寒い風にさらされている顔を少し温めた。
――抱きしめて、好きだって、言えなかった。
携帯も握り締めたまま……どうにもできずに持て余した。
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2009.05.27 UP
2010.06.09 誤字修正