■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【23】
23 提案の反応=サッカー部の様子
そして授業は終わり、放課後。
部活してる人は部活動をする時間だ。あとは、まぁ、友達と話し込んだり?
続々と部室に入るサッカー部員。教師のだれだれがどうだ、とか、女子の○○の体つきがエロい、などと話しながら、だらだらと着替えている。ここにいる全員男だから、むさくるしいったらありゃしないが、ここに女子がいても困るところ。
だいたい部員が揃ったところで、僕はみんなに対して話を始めた。
「すみません、ちょっと聞いてもらえますか?」
部室内にいるサッカー部員のほとんどが、僕の方をほぼ一斉に向いた。
野球部と衝突しないよう、グランドの使用時間をずらすこと。
グランドを使わない時間は、筋トレや道具の整備をすること。
あくまで僕の提案ということでみんなに聞いてみた。
「どう思いますか?」
一部、不機嫌そうな表情の方もいらっしゃるので、ちょっとビクビク。
「悪くはないよな。時間は短くなるけど。だけど今は野球部と遊んでる場合じゃないからな」
お、意外と好評ですか? 他の方もどうぞご意見を!
「オレも別にいいけどさぁ、アッチはどうなのよ」
そう発言した二年は顎で野球部部室の方を指した。
それが一番の難題、かも。サッカー部のみんなには理解してもらえたようだが……。
「一応、あちらのマネージャーの人に話はしてあるんですけど……」
と、あまり親しくないですよ、的な言い方をしてみる。
「あー、いぶっちゃんか。乱暴だが話は分かる方だな、あれは」
「そうか? 全然そうでもないと思うけど」
「嫌われてんだよ」
「別にいーけどさ」
「でも……何でいぶちゃん?」
と、ここで注目される僕。
「何かと……一緒にいる気がしねぇか?」
ぎくーり。でも顔に出さないよう努力。僕はいたって冷静ですよ。どこが!!
「どっちかってーと、桜井に振り回されてんじゃん、東方」
そうです、そうです。そういうことで!!
「お前がアダムか! そうか、禁断のリンゴを食べたんだな!!」
「え、ええ!?」
意味わかんねぇよ!
「そうきたか! おもしれー」
「待て! どこで聞き耳たててるか分からんのだぞ」
「地獄耳の桜井だからな」
「いきなり乱入されてボコられたら意味がない」
「やめておこう、この話題。そして封印しよう。二度と語らぬよう」
そんなに恐ろしい人なのか、あの人は。僕はそう思わないんだけどなぁ、ツンデレ類だとは思っているけど。
「でも気になる!!」
僕に注目したままこっちに一歩踏み出してくる二年の先輩方。逃げれない程度に囲まれた。
「いやだって、野球部員さんはまともに話してくれないどころか、パンチ喰らいそうで怖いし。だからマネージャーさんに……権力ありそうだし」
まんざら、嘘でもない言い訳に、何とか納得してもらえたようで……やっと僕からの注目がそれた。
「よーし、じゃぁ今日も頑張って練習だー」
「とりあえず、一年対二年チームでやろーぜー」
「ボール持って来いよ、一年!」
と、さっさと部室から出て行く二年たち。
出遅れた一年坊主、本日ざっと十四名は……。
「ホントに大丈夫かな」と、やはり不安なやつ。
「なるようにしかならないよなぁ」今までのこともあり、開き直る者。
「どーか、野球部の邪魔が入りませんように!」拝むように手を擦り合わせ、空を仰ぐ者。
僕もどこか諦めていても、せめて試合が終わるまでは、と願っていて……心中複雑だった。だけど提案した僕がそんなことを気にしてたら意味がない。だから明るく言った。
「ほら、ささとボール持ってグランド行こうぜ。それでなくても練習時間が短いんだから!」
近くにいたやつの背中を叩く。
「ま……そうだよな。大会もあるし……」
僕以外の一年はグランドへ走った。
「こら、遅ぇぞ!」
「さっさとグランド三周走れ! 始めちまうぞ」
「すみませーん」
そんなサッカー部員の声が、グランドの方から聞こえる。
だけど僕はそちらへは行かず、部室前に立ったまま動かなかった。
野球部の部室から、男女の言い合いが聞こえたから。
「誰がそんなもんに納得するかよ!」
「だから、サッカー部は大会までもう時間がないのよ。だから――」
「そんなの関係ないね。今まで、そんなことで譲り合ったことは一度もない」
「あー、練習、練習。ほら、どけよ」
「いや!」
「桜井……お前、野球部のマネージャーだろ? 何でサッカー部の一年ごときの言うことにそう熱心になる。……ホレてんのか? 邪魔で目障りなサッカー部のヤツを」
「違う! あたしは野球部とサッカー部の無駄な妬み合いをどうにかしたいと思ってるだけ。東方もあたしと同じ考えだった。だから変えようと思ってるのよ!」
――何だか先輩らしい。
ホレてるのかって聞かれても否定して、最近はずっと名前で呼んでるくせにこういう時は苗字で言っちゃうところ。
全然ショックでもなかった。薄く笑いながら必死な彼女の声を、ただ外で聞いていた。
だけど、あの人でさえ一筋縄じゃいかないようだな、野球部は。さぁ、どうする?
「今変えずにいつ変えるの? 今まで、誰も変えなかったから、ずっとそのままでいるの? ばっかじゃないの」
「バカで結構。オレらは野球バカだ。それ以外の何でもない。とりあえず……練習前に軽く準備運動だ。
うるさい蚊はさっさと叩き潰しとかないと、刺されたらかゆくなるぜ」
それって、僕のこと? だよね。すごい扱いだな、蚊だなんて。
ドアの前に立っていた人影――たぶん先輩を押しのけ、野球部部室のドアが開く。
まず最初に出てきたのは、長身で体格のいい……確かピッチャーをやってる人。
先輩が話した提案が気に入らず、それでなくても機嫌が悪そうだったのに、僕の顔を見るなり、ご機嫌は最悪になったようだ。
「天空、逃げて!」
悲鳴にも似た先輩の声に、一瞬気をとられた。
ずかずかと僕の方に歩み寄ってきたかと思えば、彼の右拳が僕の左胸に叩き込まれた。その衝撃でバランスを崩した僕は、二、三歩下がってしりもちついた。
なんだよ、いきなり!! と口にはせずに相手の顔を睨みつける。あちらも見下すような目で僕を見ている。
「ちょうど良かった。話があるんだ」
それは会話ではなく、一方的なものだろうとすぐに想像できるし、何より僕は彼らの嫌うサッカー部員。ただじゃすまないことぐらいわかる。
そうこう言ってるうちに、彼の後ろには機嫌の悪そうな野球部員が集まり、僕を見下している。
まぁ、一応そういう覚悟して立ち聞きしてたんだし、いきなり殴られたからちょっと頭にきてんだよね。どっからでもかかってこいって気分だ。
僕はゆっくり立ちながら尻の砂を払う。威圧感で自分より大きく見えていたが、完全に立ってみると野球部ピッチャーと僕の目線はだいたい同じぐらい。
彼が顎で向こうへ行けと合図する。
僕の後ろ側には体育館。人気のないその裏でってことだろう。ありきたりだけど他人に見られたくもないし……僕は鋭い視線で彼を睨んだまま軽く頷くと、体育館裏へと歩いていく。僕もそれについていくと、さらに後ろから残りの野球部員がついてきた。
逃げるつもりはない。
守りたいだけだ。――何を? サッカーを。伊吹さんを。
こんなことで守れるかどうか分からないけど……。
NEXT→ 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【24】
義理の母は16歳☆ TOP
2009.04.22 UP