TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【20】


  20 不満


「もっと、マシな方法はなかったんですか?」
 楽しそうに傷口に消毒液を吹きかけている先輩に、聞いてみた。
「グランド半々で乱闘になるのだから、一日交代にするしかないでしょ? それを双方に納得させるにはこうでもしないと……どっちも相手の話なんて聞きもしないんだから」
 確かにそうだった。敵視するあまり、それ以外のなにものでもなくなっていた。
 その中でも唯一、桜井先輩と僕だけがまともだったのかもしれない。たぶん。
「でも、なんでもっと早くに動いてくれなかったんですか?」
「こっちだって、三年が引退してようやく自由に動けるようになったんだから……」
 引退前からけっこうはちゃめちゃやってた気がするんだけど……思うだけで口にはしない。
「これから、対立せず練習できるようになるんだからいいじゃない」
 まぁ、そうだけど……。
 とりあえず、部活日を二日に一回にすることで、グランドを交互に使うことになるから……乱闘もなく、練習に集中できるはずだけど……
 話の流れというものを無視し、キックベースのどこにキックがあったのか、思わず考えてしまう。
 ……蹴り?
 つーか、その辺り、野球部員にしっかり注意してもらわないと!
 いや、全責任を代表して桜井伊吹さんにとってもらおう。
 僕は先輩を抱き寄せてみた。
「ちょ、天空っ、こらっ!!!」
 僕から離れようと抵抗はしてくるが、本気じゃない。まんざらでもないって感じだったから……。



 体の一部が軽い筋肉痛。昨日はそりゃもう、散々だったとも。
 だけど今日は平和だ。練習が午前、午後に分かれている夏休みとか土、日のようだ。平日なのにありえない。
 平和だ、平和だー、けども……寂しいっ!!
 先輩はさっさと帰ってたよ!

「これから練習? おつー。じゃ、あたしは帰るので、ばいばーい」

 臨時でいいからサッカー部のマネージャーなんてどうですか? いや、やっぱ遠慮しときます。桜井伊吹一人にサッカー部を潰されてしまう。
 くそっ、昨日もーちょっとはぐっときゃよかった。ま、先輩の携帯番号分かったからいいか。
 といった感じで、せっかくのサッカー部だけの練習なのに、集中できず、
「どぅあっ!!」
 背後から飛んできたボールが後頭部に直撃。あまりにも痛いもんだから頭を押さえて座り込んで唸った。
「すまん、東方。でも、今のだったら青木さんでも止められなかったかもしれないのにー! くっそー!! キーパーに見えない位置から蹴って、不意打ちゴール作戦失敗。いや、まだまだこれから――」
 どんな球でもほとんど止めてしまう青木さんでも止められないシュート……そんなの開発してどーすんだよ。連携プレーをもっとだなぁ……。痛っ。
「やる気がないなら、帰れ!!」
 それって僕?
 お顔を上げて周りを見回すと――何だか誰もかれも、だらだらと練習してる。グランド全体が使えるのに、なぜかいつも通りの半分しか使ってないし。
「やっぱ、野球部いないと張り合いないな」
「向こうに邪魔な野球部がいないとやっぱダメだ」
 我が校サッカー部のエネルギー源は、野球部への争闘心。今に始まったことじゃないけど、やっぱり間違ってるような……。
「これじゃ来月から始まる地区大会、まずいぞ」
 それでなくても夏の大会後、三年生が見事にみんな引退してしまって、一年と二年だけのチームになってるというのに。

 結局……だらだらと何をやってんのか分からないうちに、部活時間終了。
 明日はサッカー部がお休みです。
 あー、かてきょ。今週まだ行ってなかった。……行かなきゃいけないよなぁ。
 ……ついでに補給も……。

「あ、先輩ですか? 今日、大志くんのかてきょで行きます」
「あ、そう」
 ――ブツリ。

 せっかく先輩の携帯に掛けたのに……これから行こうってのに、何か、ヒドくね?
 いやいや、こんな仕打ち――いつものことだ。もう慣れた。だけどやっぱり落ち込みたくなる。何だろう、目から汁が出てきたよ。

「こんばんはー。家庭教師の東方でーす」
 相変わらず、週二で桜井家通い。
 大志くんの家庭教師を二時間ぐらいやって、その後は先輩に呼ばれてちょっとの間、幸せを噛み締めててもあっさり放り出され、遠い道のりを帰宅。
 いつも思うが……やっぱりキツい。でも週末にまた行きまーす。
 家に着くとすぐにご飯を食べ――どーんと二杯、大盛りで。
 それから風呂に入り――覗くな、妹よ! 足の付け根あたりに興味津々な視線を注ぐな。まだ早い。
 そしてさっさと寝る――僕はもう寝るんだ。大地、布団の上で跳ねて飛んでも遊ばない。もう、寝なさい!



 次の日――通常通りの学校を終えると、ついつい部室に向かいそうになる。
 そうだ。今日は部活休みなんだよな……。
 昨日と変わって野球部が準備をしている。そして先輩も……辺りを見回し、その姿を探す。
 それから間もなく、僕のセンサーが先輩をキャッチ。声を掛けようと思い上げた手。
 だけど声を掛けれなかった。
 野球部の二年生だと思われる人と親しげに話し、笑い合っている先輩。
 やり場の無い手をゆっくりと下ろし、先輩に見つからないよう校舎の影に隠れた。
 ……。
 いや、別に隠れなくったって……。
 ……。
 別に僕は先輩と付き合ってないんだし、あの人だってそうじゃん。
 先輩は付き合わない主義だから。
 ……。でも……だけど……。
 先輩って縛られるの嫌いそうだし……いや、だいたい同じ部の人とか、クラスの男子とか、喋るじゃん、普通。僕だってクラスの女子と話すことだってあるし……。
 なのに、何で……不必要にショックを受けて、嫉妬してるんだ?
 バカじゃないの? ええ、バカですとも。何だかさ……意味もなくムカついてきちゃったよ。誰に対しての怒りだ、これ。
 とりあえず、近くにあった校舎を殴って――あまりの痛みに、殴ったことを後悔した。
 ちくしょう……僕は、バカだ!!
 さっさと帰ろうと思い、何事もなかったように駐輪場へ向かって歩き出す。ふと先輩の後姿を横目で見ると、後ろ向きではなくこっちを向いて、目が合うと手を振ってきた。
 ……バレてた?
 さっきまでの怒りはどこへやら。すっかり心は穏やかに。
 僕は軽く頭をさげつつ、嬉しいくせになんとも言えない恥ずかしさもあり、足早に駐輪場へと向かうのであった。
 ……拳が、痛いぜ。


 次の日は実は木曜日で、部活でグランドを使うのはサッカー部。
 その次は金曜で、グランドは野球部が使った。
 金曜は一度自宅に帰って時間を潰してから大志くんの家庭教師で桜井家へ、いつもより早く行った。
 大志くんの宿題の一つが終わった頃、先輩が帰宅され、なぜか自室ではなく、大志くんの部屋に来て、カバンをベッドに放り投げ、そのままご本人様もダイブ。間違ってます、何だか。
「野球部とサッカー部、なんとかうまくやっていけそうな気がしない?」
 あの、僕は一応、仕事中なので、プライベートなことは終わってからお願いしたいのですが、そんなお願い、聞いちゃくれませんよね。分かってますって。
「そうですね。このまま何もなければいいんですが……大志くん、問題読んだ?」
「……ん……んん? あ、はい?」
 どこへ行ってるんだ、キミは。
「何もないわけ、ないわよねー」
 もうあるんですか、何か!!
「この状況でいつまでできることか……」
 溜め息を漏らす先輩。どうも嫌な予感がしてならない。
 そして、なぜか大志くんのベッドでくつろぐ制服姿の先輩に気が散って? そっちに気が集中して? 大志くんと僕は机に向かっていながら心ここにあらず。
 スパッツ穿いてるのは知ってるけど、ももがスカートからチラチラ見えるのは、血圧を上昇させ、何とも言えない気分にさせる劇薬です。僕がヘンな気を起こす前に、お願いですがらご自分の部屋で存分におくつろぎくださいませ。


 そして、その嫌な予感とやらは月曜日に的中するのだった。
 金曜に使用したのが野球部だから、サッカー部がグランドを使う日であるはずだ。
 しかし、バックネット辺りにユニフォームを着た野球部員が数名集まり……キャッチボールを始めていた。
「どういうことだ、これ」
「ケンカ売ってんのか、アイツら」
 血の気の多い二年の先輩が、今にも潰しに行こうと言わんばかりの声音で低く漏らした。
 そして火曜日には、野球部が練習で使うグランドに二年のサッカー部員数名が紛れ、ケンカになったと、僕は大志くんの部屋で先輩から聞くことになる。

「どういうことですか? 交互に使うことで互いに納得したんじゃ……」
「月曜に野球部が数人いたんだって? それが気に入らなかったらしくてね」
「だからって仕返しみたいなことをしても……」
 子供みたいだ。高校生にもなって、陰湿な。
「毎日練習しなきゃ意味がないって言われたわ。ウチの部とサッカー部、両方から」
 別の対策を考えなきゃね……と、先輩は溜め息を漏らした。
 グランドを1日交代で交互に使うのはいい案だと思っていただけに、あっさり覆されるとは……考えもしなかったな。
 確かに、毎日の練習の積み重ねとか言うけど……毎日、どちらの部も活動するには、
「部活時間の半分ずつでグランド使用なんてのもなぁ……」
 ぼそりと吐き出した独り言に、
「それしかないわね。毎日練習したいなら」
 先輩はあっさり僕の独り言を次の案にしてしまった。
「それもダメなら学校に第二グランド作ってもらうしかなくなるわね」
 もし作ってくれることになっても、すぐにはできないじゃないですか!
「ま、なるようにしか、ならないわね」
 やっぱりそうですか……。
 僕は先の不安に溜め息しか出てこなくなっていた。
 ……って、あ!
 家庭教師なんです、僕、これでも! なのにすっかり大志くんの存在を忘れていた。
 彼は――どこか分からない世界へ召喚されて、ずいぶん冒険した後だった。
「めーらじょーまw」
 今日は某RPG世界か……。つーか、笑顔で唱えないで、魔法! しかもまともに言えてねぇ

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2009.03.21 UP