■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【19】
19 第一回グランド使用権争奪キックベース――二回の表から試合終了まで
二回の表、野球部の攻撃。
僕だけが見事に攻撃されてる。
バットにボールを当てることには慣れてる野球部は、必ず打って一塁に走ってきた。
走ってくるというより、突っ込んでくる。
それも回を増すごとにヒドくなり、足をめがけてスライディングしてきたり、打者ヘルメットで頭突きしてくるやつ、ラリアットも喰らった。
サッカー部チームで一人だけ、砂だらけでボロボロになってる僕。
何で僕だけが……。
三回の表に今までにない吹っ飛ばされ方をして、勢いで地面をゴロゴロ転がって……起き上がった時には頭の中でゴチャゴチャしてたものがすっきりしていた。
擦ったり打ったりしたところの痛みも気にならない。
次の打者がまたこちらに勢い良く走ってくる。三塁から飛んできたボールはすでに手の中。それを野球部員に向かって投げて当てる。ここで判定はアウト。僕は二、三歩下がって打者が走り通り過ぎていくのを横目で見た。
――もう、二度と突っ込まれてたまるもんか。
次の打者が高く打ったボールはうまく僕の方へ飛んできて――ノーバウンドキャッチで3アウトチェンジ。
しかし関係なく一塁へ走ってくる野球部走者に対し、意味もなくかがんで靴紐を直すような仕草をしつつボールを転がすと、僕のところにまで到達するまえに転倒していた。
四回の裏――サッカー部の攻撃。
ランナーが満塁だというのに2アウトというチャンスでありながら崖っぷちな状況。しかも2ストライク1ボール。やっぱり崖っぷちとしか言いようがない。ここで飛ぶか、それとも落ちるか。
ここで一点でも入れとかないと、もう四回の裏。この先チャンスはないかもしれない。
送りバントじゃ割に合わない。とにかく大きく打ってくれ! と願うのみ。
「グランドは、サッカー部が、もらったぁぁぁあああああ!!!!」
気合いの入りまくった声――そして、奇跡は起こった。
打者に向かって飛んできたボール。打たなかったらボールカウントが一増える。ところがそれを真っ直ぐ――スイカでも叩き割るような感じで振り下ろされたバット。打たれたボールはすぐにバウンドしたが、その勢いは凄いもので……距離ではなく、高さがハンパじゃなかった。
落ちてこないボール。
うろたえる野球部員。
その間にホームインするサッカー部チーム。
一点先取!
二点目は――さすがに無理で、3アウトチェンジ。
相変わらずファーストを守る僕。
容赦なく突っ込んでくる野球部員に突っ込まれて吹き飛ばされ、逆に突っ込んでいってふっ飛ばし、五回の表も野球部に得点を許さず、乱闘に近い試合は最後の五回の裏。
「試合、しゅーりょー。ゲームセット」
……あれ? サッカー部の攻撃はないの? 終わり?
桜井先輩は手をバツの形にしている。
そういえば、高校野球とかプロ野球で、最後にバツがついてることがあるよな。
……どっちにしても、一点取ってるサッカー部の勝ちには違いない。
「0対1で、サッカー部の勝ち。とりあえず、明日のグランド使用権はサッカー部よ」
今にも噛み付いてきそうな野球部員たちをなだめ――というより拳で黙らせつつ、先輩は言う。
「こっちもそれで文句は言わないわ。明後日は野球部が使わせてもらうことになるけど、いいわよね? 文句は言わせないけど」
先輩の押しの強さは両部でも一番。
「ほら、もういい時間だわ。片付け、始め!」
試合に熱中していたらすっかり時間を忘れていた。近くの時計を確認すると、もう六時になろうとしていた。
サッカー部も出したボールの片付けを、二年生の権限で一年がやらされて……ボールを軽く磨いて、個数の確認やら足りないボール探しをしていたら、どんどん暗くなっていった。
いつの間にか思ったよりも日が短くなっていた。東の方から夜がやってくる。
そんな感じですっかり保健室に寄る時間さえもなく、たっぷり擦りむいてしまった体が痛む。じわじわ痛む。何だか奥まで浸透してきます。イヤです、擦り傷の痛み。
浸透するなら愛がいい。先輩の愛がいいっ!
……バカっ!!
心の中でそんな一人芝居。バカはこの僕、東方天空。
擦った所を丁寧に洗っていたら、すっかり出遅れてしまって、やっぱり部室から最後に出るのはこの僕。いや、何だか押し付けられたような感じもする。軽く「鍵、返しといてねー」って、言われたような気がする。言われてた。それもたらい回しで最後がこの僕。次――誰もいねぇ!!!
今日は、楽しかったような気がするけど、やたら疲れた。いや、ここで浸ってる場合じゃない。帰ってからやれ。
一人もたもたしててどうする! 誰もいないじゃないか! どんだけトロいんだ。
妄想が多い、妄想が。ちゃちゃっと動いとけ。
誰もいなくなった部室で、ようやく着替えを始めた。
……何ですぐに着替え始めなかったんだろう、なんて考え――てるからまた遅くなる。手が止まってる。
どれだけ時間が掛かったのか分からないが、ようやく夏の制服であるワイシャツに袖を通した頃、なぜかサッカー部の部室入り口がちょっとだけ開いた。
きゃぁぁぁ!! ノゾキ、チカン!!
思わず身構える。つーか、体を守るように両手で隠す。
「天空ちゃん、女の子みたい、そのリアクション、かっこわらい」
覗きがそんな事を言う。声は女の人。っていうか、聞き覚えがある。言うまでもなく。
「……先輩、ですよね?」
ドアが開き、先輩がサッカー部の部室へ入ってくる。
「かっこわらい、より、かっこわるい、だよね」
かかかか、かっこ悪いよ、どうせ、今のは、油断してた。驚いた。マジびっくりしかしなかった。
「保健室、行く暇なかったでしょ?」
後ろに隠していたものを前に出してちょっと持ち上げる。それは救急箱。油性の太マジックで野球部と書かれていた。
「いいよね?」
どうせ答えなんて聞いてくれない。僕は彼女の言うことに、首を横に振ることはできない。ただ、縦に振るだけ。
「傷の範囲が大きすぎて、絆創膏貼れないわね。消毒だけでいい?」
答えなんか聞く前に、わき腹の擦り傷に容赦なくぶっかけられた消毒液。声にならない悲鳴を上げたかったが必死に堪えた。
そして、その痛みを打ち消すほど、ある意味、仕返しのような感じで……毒ばかり吐く彼女の口を塞いでやった。
ホントに……あなたの思いつきでひどい目に遭いました。
「大丈夫ですか? 送りましょうか?」
すっかり暗くなってしまい、家が逆方向で、しかもかなり過疎地な所に住んでる彼女を気遣う。
「大丈夫よ。何かあったらこの拳を叩き込むわ」
と、腕を振り上げる。かなりの自信だ。まぁ、僕もそれに太鼓判を押しておくよ。
「家に着いたら電話するわ……携帯」
何だか、今までの苦労というかなんというか、そういうものがようやく報われたような……これって一歩前進、だよね?
今日の疲れも痛みもストレスも、一緒にどこかに飛んでった。
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2009.03.10 UP