TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【17】


  17 三歩すすんでも二歩さがるから、強引に踏み込んでみた!


 僕は桜井先輩が好きで、先輩も僕が好きで、なのに付き合いたくはない、と。
 意味わかんねぇ。
 でも相変わらず、抱きついてきたり、殴ってきたり、キスを迫られたり、暴言吐かれたり。
 なんとも言えない互いの立ち位置。
 片思いじゃないのに、好きでいることしかできない状況。
 中途半端でもどかしい。
 あれから何度か交際を申し込んだけど、その数だけ見事に砕け散った。

「僕が野球部員じゃないからですか?」
「違うわ」
 断られる理由が分からない。
 だから必死に理由を聞き出そうにも、
「うっさいわね! 付き合わないって言ってんでしょ!」
 と、蹴りが飛んできて――僕は腹をおさえてその場にうずくまっていた。
 だから、なんでやねん……。


 夏がきて、野球部もサッカー部も練習に忙しくなっていた。
 我がサッカー部は六月に行われていた県大会を勝ち抜き、インターハイに出場したものの、一回戦で負けた。冬こそは……と意気込んでいながら、三年の先輩たちはあっさり引退していった。とりあえず……お疲れ様でした。
 「我が高のヒミツ兵器だ」とか言われながらも、結局試合には一秒たりとも出してもらえなかった僕は、何とか夏休みを死守できたことが嬉しい限りで。ちゃんと休み中の部活には出てましたよ。
 一方、野球部は――甲子園への切符を掛けた戦いに準々決勝でまさかの敗退。桜井伊吹からみごとなまでにとばっちりを受けたのはこの僕だった。
 なんで僕が……。



 結果、何の進展もな……(あ!)い、まま、二学期スタートです。
 進展……あったような、なかったような……。
 いや、夏休みにちょっと……。
 プレイバック、しないで!!! 先に進めて!
 ――強制巻き戻し。

 ある日、夏休み、桜井家に泊まった。お母さんが単身赴任中のお父さんの所に行ったからって、無理矢理泊められた。
 で、本能に負けた、と。
 いや違うよ。負けてないよ。思ってることとか僕の考えとか全部告白したうえでのことだから。
 それで先輩が考え直してくれて、付き合ってくれるかも……と期待もしたんだけど、相変わらず付き合ってくれる気配はなく、両思いのくせにやっぱりただの先輩後輩関係続行。

 先輩が頑なに付き合うことを拒む理由とは一体……。


 学校では制服で過ごすのは当然のことで、我が校はブレザーである。
 入学当初は新鮮だったものの、学ランも何だか恋しく思えたりする。
 夏服になると、男子はネクタイ着用が自由になり、女子もリボンの着用が自由になるのだが、女子であるはずの桜井先輩が男子用ネクタイを出会った頃から使っている。スカートが短いくせにスパッツも相変わらず健在。
 気にはなってたけど部活中とか前後が多く、学校で見かける桜井先輩の八割はジャージ姿だっただけに聞くタイミングを逃していたというか……今度こそ聞いてやらぁ!
 よーし、告りに行ってきまーす。
 昼休み。弁当は立ち入り禁止の屋上で。夏場はかなり暑いけど、一人で食事を取りたいとき先輩はここで昼食をとってい――いた。
 屋上のドアの前で弁当を広げて食べていた。
「まひゃひたは!」
 何言ってんすか?
「食べながら喋らないでください。今日は外じゃないんですか?」
「……暑いの、外は」
 ここも十分に暑いけど、と付け加える。ま、そうだな。ドアは開いているけど、そこから入ってくる風は太陽に熱せられた屋上コンクリートの熱気を帯びている。
「で、何でここに来たのかな? とーぼーそらくん」
「いつまで経っても付き合ってもらえないので、せめて弁当に付き合ってもらおうと思いまして」
「……へぇ。それにしても、相変わらず大きな弁当ね。運動会みたい」
 と、僕が手に持っている弁当を見つめている。先輩の弁当が手のひらサイズの二段で、僕のは特大二段。バンダナでギリギリ包んであるといった感じだ。
「僕にはこれが普通なんですけど」
 そう、普通なんだ。もっとあってもいいし、三時のおやつに調理パンが五個あってもいいぐらいだ。
 僕は先輩の近くに腰を下ろして弁当を広げはじめると、横から不満そうな声が聞こえた。
「誰もここで食えとは言ってないわよ」
「お構いなく。ただここにいたいだけですから」
 いただきます、と両手を合わせ、まずは玉子焼きから口に投入。無言の昼食タイムが始まった。
 ………………。
 ………………っ!
 ………………あー、もう!!
 ダメだ! 横から無言のプレッシャーは辛い。
 何とか耐えようと弁当にがっついてたけどやっぱダメだ。
「何か喋ってください」
「校則……何項だったかしら? まぁいいか。不純異性交遊の禁止」
「不純じゃないですよ。いたって純粋なものです」
 だってだいたいあれは、先輩だって……もごもご。
「あそう。……民法第――」
「やっぱいいです、すみません」
 何で校則と民法なんだ。不純じゃなくて不順なら納得してやる。確かに僕らの関係は順番がおかしい。それより、そんなに僕がここにいることが不満なのか? まさか法を侵してるとか言ってどうにかしてやろうとか考えてないだろうな。この人の気分屋加減はホントに分からん。今日はちっともよろしくないことがよく分かる。これは早々に退散すべきか……あ、ネクタイ。
 すっかり本題を忘れてたところで視界に入った先輩のネクタイ。今日はちょっと機嫌が悪そうな先輩に振っても大丈夫だろうか。いやいや、ここで引いたらまた聞きそびれてずるずるしてしまう。
「先輩、質問いいですか?」
「どーぞー」
 こっちは思い切って質問を切り出そうってのに棒読みだよ、空の弁当を包みながら。この機嫌の悪さは計り知れない。
「ずっと気にはなってたんですけど、何で男子のネクタイしてるんですか?」
 シンと静まり返る。先輩は一時目を閉じ……開いたのと同時に僕を睨んできた。
 もろに地雷踏んだ? 自爆決定。屋上からダイブだけはカンベンしてください!!
「聞く覚悟はある?」
「え!?」
 そんなに深刻な話になるとは思いもせず、僕はただただうろたえる。
「長いわよ?」
 そっちかぁ!! ちくしょー、だまされたー!
「それに、聞いて気持ちのいい話でもないわ。それでも聞きたい?」
 僕は先輩から目を離さず、頷いた。
 先輩は目を伏せて弁当箱を床に置き、ネクタイに手を当てた。
「これは……卒業式の日に先輩からもらったものよ」
 一言目で聞くんじゃなかったって後悔した。その人とどんな関係だったかなんてバカでも予想できる。
 それをまたつけてるってことは、今でも引きずってるってことだろう。だから付き合えないって言うのかも。
「あたしが卒業するまで待ってるって言ったのに……」
 先輩が小刻みに震えだした。
「卒業後、すぐに音信不通」
 声も震えてきた。
「一ヶ月も経たないうちに第三者から突然、彼女ができたから別れてくれって伝言?」
 これは……怒りの方だ!
「野球命だとか言ってたくせに、大学入ってテニスはじめましたって何?」
 いや、よく分かりません。
「こんな裏切りがあっていいのか!!」
 ものすごく近い距離まで僕に迫ってくる怒りに震えた先輩に圧された。
「よくないです!!」
 人としてそれはしちゃだめだ。ダメです。で、そこまで怒ってるのにどうしてまだ着用してるのかが謎な部分。
「で、そんなことがあってもまだつけてる理由って何ですか?」
「……カッコイイし目立つから」
 所詮、そんなもんか……。さすが先輩だ。
「じゃ、付き合えない理由はないですよね?」
「……付き合っても、アンタもいつかはあたしを裏切るんでしょ? 別れようって言って終わるような関係なんていらない。始まらなければ終わりなんてないんだから」
 彼女にとって、前の恋愛が相当応えているみたいだけど、僕をそんな男と一緒にしてほしくない。
「今はいいかもしれない。でも、出会いなんてどこにでもあるのよ。あたしも、天空も他の誰かを好きになるかもしれない。だから……あたしはこのままでいいわ」
 そんなことを言う先輩の横顔はどこか寂しげなもので、いつもは意地を張って強がってるだけなんじゃないかって思った。
「僕は――」
 ――キーンコーンカーンコーン。
 くっそ、こんな時に、この肝心な時にチャイムに遮られるとは!!
 先輩は側らに置いた弁当箱を持ち、立ち上がってスカートを払った。そして階段を下ろうとする。
 待って、まだ話は終わってない!
 僕は立ち去ろうとする先輩の手をとっさに掴んだ。
「僕は、あなたじゃないとダメなんです! ずっと一緒にいたいんです!」
「あたしも同じ気持ちよ。でも、先のことなんて自分にだって分からないし、縛りたくない。縛られたくない」
「何と言われようと、僕は諦めません」
 僕は先輩をそっと後ろから抱きしめた。
 先輩も特に抵抗してこなかったから、そのままずっと抱きしめて離さなかった。だから五時間目はサボリ決定だ。


「とりあえず、そのイワクつきのネクタイがいただけません」
 先輩をまねて夏服時でもネクタイを着用している僕は、先輩がつけているネクタイを外し、代わりに僕のネクタイを締めてあげた。
「今日からどうぞ、遠慮なく僕のを使用してください」
「……うん。ありがとう」
 右手でそっとネクタイに触れる先輩。その表情は緩んでいて、かすかに笑みを浮かべていた。そんな先輩の顔を見て、僕も嬉しくなって……彼女を引き寄せて抱きしめた。
「こら、こら! 調子に乗るんじゃない!」
「いいじゃないですか、減るもんでもあるまいし……」

 いつか、僕の想いにも素直に頷いてもらえたらいいんだけど……。

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2009.02.19 UP   2009.03.13 改稿