TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【15】


  15 桜井姉弟流、土曜の過ごし方、に付き合わされた僕。


 朝食を取りながら、テレビの天気予報を見ていた。
 画面の左上には「8:26」と表示されている。
 この地域の天気は、午前中は小雨がちらつくものの午後からは晴れるという予報。
 まだまだ家に帰れそうにない。
 学校休みなのに制服だし。
 何だかくつろげなくて疲れてきたし。
 桜井家の会話になんとなく入りづらくて、身長だけはこの中でも一番大きい僕だけど、小さくなって六枚切りのパンを上品にかじっていた。
 ……パン、薄いなぁ。四枚切りぐらいがいいなぁ。家に帰りたいな……この歳でホームシックか!
「昼から行けるかなぁ?」
「うん、大丈夫でしょ」
 大志くんと先輩がそんなことを言っている。
「どこか、出掛けるんですか?」
「はい。毎週土曜はバッティングセンターに行くんですよ」
「今日は天空の実力が見てみたいわね。来年の盗塁王!」
「いや、僕は野球部に入る気ないですよ。今後も」
 それに何で盗塁王なんだか。
「じゃ、今日は天空も一緒にバッティングセンターね」
 しまった! 後者への突っ込みに気を取られて、断ることを忘れてた。いや、断ったところで素直に聞いてくれる人だとはこれっぽちも思っちゃいないけど。
 ……ま、軽くバットを振るぐらいなら、僕にだってできるだろ。
「負けたらジュースおごるのよ。いいわね?」
「いいですよ〜」
 女、子供に負けてたまるか。
「あたし、100キロぐらい軽く打つわよ?」
「……へ、へぇ……」
「それに、大志なんかぽやっとしてるくせに、センターからバックネットまで届くようなボール投げるわよ」
 ――!! まさかっ!!
「ぽやっとしてなきゃ、使える選手なのにね」
「……! ぽやっとしてないもん!」
 いやいや、十分してます。ヘンな間があったよ、今。
「大志の肩はホンモノよ。あたしが保証するわ」
 どう見ても華奢な体格にしか見えないし、ぽやっとしてる子がそんなスーパーマンなはずがない。僕は彼を試すべく、勝負を仕掛けた。
「よーし、じゃぁ腕相撲勝負!」
「えー」
「おほほほ、かかってきなさい!」
 いや、先輩が相手じゃないでしょうに。

 高校一年生、サッカー部所属、東方天空。
 中学二年生、野球部補欠、桜井大志。
 試合会場は大志くんの部屋。
 さて、その腕相撲勝負は――。

「……」
 互角……なのか?
 大志くんにはまだまだ余裕があるように見えるのは気のせいなのか。先輩がなにやらニヤニヤしているのはなぜだ。
「……大志くん、これ、本気?」
 互角を保ってはいる。今は。だけど、そろそろ腕が悲鳴を上げそうだ。
「……本気……じゃないです、たぶん」
 いやもう、ものすごく余裕に聞こえました!
「さぁ大志、やっておしまい!」
 どこぞの悪役キャラみたいな先輩の一声に、
「ごめんなさーい!」
 という大志くんの声。同時に腕が……あっさり倒された。
「あたたたたたたた、いたいたいたいた!」
「すみません」
 大志くんはすぐに放してくれたけど、思いも寄らぬ早さで負け方向に倒されて、筋肉の痛みとは違う痛みが腕に走った。ねじった痛みはなかなか引かない。
「どこに保存してあんの、こんな怪力!」
 負けて悔しいというより、文句言わなきゃ気がすまないというか、負け犬の遠吠えみたい。
「……さぁ」
 本人、自分がどれだけの力を持ってるのか、自覚がない模様。
 それはそれで、余計に悔しいね。


 灰色だった雲が白く薄い雲に変わり、合間から太陽が覗くようになったのが昼。
 昼食までもご馳走になってしまった僕は、桜井姉弟と共にバッティングセンターへと向かう。
 ――負けたらジュースをおごる。
 とにかく、遊びじゃすまない。

 バッティングセンターでは、三百円をメダルに交換し、それを投入することで二十球ほど球が飛んでくるという仕組みらしい。
 ここでは八〇キロから一五〇キロまであって、子供づれの親子から学生まで、結構な人が訪れ、飛んでくるボールを打っていた。
「とりあえず、一〇〇キロでいこうか」
 と、ごく自然にメダルへ交換を済ませる先輩。
「順番は、あたし、天空、大志ね」
 慣れたように仕切っている。
 ま、僕としては、一番ではないほうがいい。勢いだけはいいものの、ろくにボールをバットで打ったことがない。
 小学生の頃、地区のソフトボール大会で、当日いきなりレギュラーにされて出場したものの、二打席とも空振り三振。うち一球は振り逃げだったりするという成績の持ち主だ。まぁその振り逃げも、ルールがいまいちよく分かってなかっただけに、走れ! と急に言われて訳も分からず一塁へ走って、結局アウトだった。結局、その大会も一回戦負けで、その後、僕に声が掛かる訳もなく……サッカー少年で今に至る。
 ……ものすごく自信がなくなってきた。
 相手は現役でも補欠な野球少年と野球部マネージャー。
「さ、いくわよ!」
 バットを持った先輩が、コインを投入。打席に入って構えた。

 朝、言ってた通り、軽く打っちゃってました。
 これはこれでプレッシャー。
 先輩は空振りすることなく、二十球全てバットに当てていた。
 一球でもスカればここで僕の負け。
 同じく一〇〇キロにて、僕の戦いが始ま――スカッ。
 …………。
 ……!!
 ……最下位決定!

 それでも頑張った。頑張ったさ。なんとかタイミングをつかんで、ボールはバットに当たってたさ。だけどなかなか飛ばなかったさ。手に伝わるボールの振動で腕がビリビリとしびれて、それがちょっとどころかかなり不快だったさ。だから何とか当てようと思いつつもいまいち当てていけずにカスってただけだったさ。いいんだ、どうせ僕はサッカー少年なんだから、ボールがバットに当たっただけでもスゴいじゃん! でさぁ。
 そういう気休めを自分に言い聞かせられたのは、大志くんが一球目を打つまでだった。
 バットを持って構えた途端、彼の表情はいつものとは違うものになっていた。
 ――カキーン。
 ものすごくキレのいい音とともに、一〇〇キロで飛んできた球はものすごい速さで一直線に飛んで、囲ってあるネットに食い込んでから落ちた。これが普通に野球場ならば、外野にまで飛ぶ勢いだろう。
 それを二十球、全部をいい勢いで打っちゃうんだから、僕が最下位なのは決定であり、普段はぽーっとしてる感じの大志くんが別人に見えていた。
 大志くんがバットを振ると、空を切る、ものすごい音がしてた。
 この子、何者だ、ホントに。
 つーか、僕、場違い。最下位決定。来るんじゃなかった。いや、来たくて来たんじゃない。付き合わされただけであり、僕はむしろ被害者なんだ。

「じゃ、いただきまーす」
 先輩が炭酸飲料のボタンを押した。
「すみません、頂きます」
 と、大志くんは清涼飲料水のボタンを押した。
 そして最後に、僕は微糖コーヒーのボタンを押した。
 ええ、負けましたとも。完敗ですとも。いや、分かってたはずだ、こういう結果になるということぐらい。
「天空……キミは所詮、サッカー少年でしかないことがよく分かったわ」
 炭酸飲料のフタを開けながらそんなことを言う先輩。
「でも、初めて……なら、あれだけ当てれただけでも……」
 と言いつつも、ジュースのフタを開けながら言ってる大志くん。
 あれだけボール飛ばしてたキミには言われたくないと思ってしまった。僕もコーヒーのプルタブを起こす。どう言われようと、今日は僕の負けだ。自棄酒喰らうオヤジのように、僕は缶コーヒーを煽った。
 まぁ、カラオケと違ってダラダラと時間を無駄に過ごさないバッティングセンターでの打ち込み、各一セットずつ。時刻はまだ午後二時台。来てから三十分程度しか過ぎていない。
「でも、我が姉弟の恒例行事に付き合っちゃったんだから、負けは負けよ。と言うことで……」
 勝手につき合わせたようなものなのに、ジュースおごって、まだ何かする気か!
「東方天空の家に突撃ほうも〜ん」
 ぶーっと口に入れてたコーヒーを危うく噴いてしまうところでしたよ。
「ちょ、まっ……げほげほ」
 難なく飲み込んだはずが、そうでもなかったみたい。ヘンな所に入ってしまい、思わず咳き込んだ。
「けって〜い。じゃ、道案内よろしく」
 いや、待てと言おうとしたんだけど、もう決定?

 先輩の強引な押し(?)で、なぜかこの会は僕の家へと流れ込むことになる。
「あいさつしとかなきゃね」
 ……それって、彼女です、とか? やだなぁ、もう。あっはっはっはっは。
「天空の先輩です、って。大志も家庭教師してもらってますって言わなきゃね」
「んー。……ん?」
 聞いてるのか? たぶん、聞こえてなかったな。大志ワールドへようこそ! ってなってただろ。さっき、バッティングセンターでバットを構えていた時の大志くんはどこへいったんだか。今は普段のぽや男に戻っている。
 つーか、先輩です、なの? その辺り、ちょっとショックな感じ。
 昨日、好きだって言ったじゃないっすか。そして先輩だって……。
 何か、忘れてたかな? んーんーんー。

「天空くんの先輩で、桜井伊吹と申します。そして、弟の大志です。天空くんには家庭教師をしてもらってます。昨日は天候のこともありまして、ウチに泊まらせるようなことになりまして、どうもすみません。それに、いつも時間が遅くなってすみません」
 先輩、どこかで頭でも打ちましたか? と言いたくなるようなセリフをどんどん吐いている。
「ほら、大志!」
 そう促されてもやはりテンポの遅れる大志くんのご挨拶。
「……桜井大志です。お世話になってます」
 その前に僕。ようやく家に帰ってきたというのに何も言えてない。だからここまでの流れに逆らってこう言う。
「あー、えっと、ただいま」
「まだ制服じゃない。さっさと着替えて! すみません、うちの子がお世話になっちゃって……」
 僕に向かって言う時と、桜井姉弟に向けて言う言葉、明らかに態度の違う母。そして、影からこっそりそれを伺う妹と弟の姿。家に上がると二人はすぐに僕にまとわりついてきた。
「ソラ、昨日の雷すごかったね」
「こわかったー。おにーちゃん、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫、大丈夫。全然怖くなかったから」
 といい終えた辺りで、来客二名のことがふと気になる。
 ……絶対に兄弟の歳が離れすぎだ! とか思ってるはずだ。
 なんとなく、いや、気になって玄関の方を見ると、やはり呆気に取られている二人の顔があった。
「……妹と弟。小学」
「一年四組、東方恵です!」
 と自ら名乗る妹。それをまねる弟は、
「ぱんだぐみ、とーぼーだいちです!」
 おーおー、ちゃんと名前が言えるじゃないか〜。えらいぞ、二人とも〜w
 ……。まぁ、そういうことで……、互いの自己紹介も終えたことだ。
「一年三組、東方天空です。着替えて参ります」
 とりあえず、この場から退散。自分の部屋に戻ります。

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2009.01.03 UP