■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【11】
11 でー、と? Dayとtoで上等! 決して愛し合ってなどいない! だからデートじゃない!
土曜日。
テスト期間中につき部活なし。
ということは、先輩が飽きるまで付き合わされるということかもしれない。
容疑者に告ぐ! 人質をさっさと解放しなさーい! 解放してね、できるだけ早めに。
約束は十時。ドリームタウンという先日のモールよりは小さい……何だ? デパートでいいのか? まぁ、そこの中央入り口。
僕は確かに十時の五分前には到着し、先に来ていた先輩と合流したんだけど……。
「おはようございます」
先輩は僕のあいさつにニコリと笑顔で答えて、僕の顔……いや、首に手を伸ばし、回してくる。
いやん、こんなとこでそれは……この前の再現ですか? ちょっと、待ちましょうよ! 大胆不敵です、先輩っ……。
首の後ろに回された手は僕の上体を低くさせ、次の瞬間――
「がふっ……」
一瞬、呼吸が止まった。
油断対敵! 先輩の膝が、僕の鳩尾にみごと打ち込まれていたのだ。
「このあたしを二度も待たせた男は天空が初めてよ」
約束の五分前だろうとなんだろうと、自分より後に来たということが気に入らないようだ。何のための約束の時間なんだかさっぱり分からない。あくまで目安なのか?
「す……すみ、ません……」
「以後、気をつけてちょうだい」
「……ハイ」
今後はナシにしてほしいんだけど、そういうの。時間前に来てるかわいい後輩への配慮をよろしく。言うだけ無駄だから、思うだけに留めます。
そして、せめて足の開かないスカートを、と補足にて。膝上丈のジーンズの半パンはちょっと……、攻撃を加えやすいじゃありませんか!
さて、本日の獲物は――泣きっ面のハチ、だったかな? いつぞや……というか、前にモールでうっかり、先輩に似てるからって買って献上してしまったおこりっくまシリーズの新キャラを探しに参りました。実況は東方天空。と、う、ぼ、う、そ、ら。ひがしかたてんくうではありません。誤読にご注意ください。さて、こうやって現実逃避を繰り広げていたいところですが、そうはさせてもらえないようです。それでは、スタジオに戻しまーす。
「きゃー、ハチw」
ぎゃー、キャラじゃねぇ。
……失礼しました。うっかり素が。お見苦しい。
待ち合わせた場所から階を変えまして、二階の南側中央部辺りに位置する雑貨屋その壱――他にも似たような商品を揃えた店があるので。
そのテナントのおこりっくまコーナーには、例のつり目な白くまだけでなく、平然としたある意味余裕な表情のうさぎと一緒に前回は見なかった犬のぬいぐるみが並んでいた。
泣きっ面のハチ、という愛称の通り、今にも泣きそうな表情の犬であった。
……抱きしめてやりたい、僕の分身よ――と、思うほど。いや、思うな変人。
先輩にプレゼントしたおこりっくまと同じ、掴みやすいサイズから、一回り大きいのと、キーホルダーサイズなものまである。
あまりにもかわいそうに見えて、うっかり買って帰りそうにもなるんだけど、ここは我慢しよう。変なのは、桜井先輩だけで結構です。お釣りはいりません。
いつも、おこりっくま――『ヒメ』にいじめられてるんだろ? 僕と一緒だよ、『ハチ』!!
――って、待て、僕よ!
『ぴょん』はいいね、いつも軽く受け流して――って、オイ!
戻れ、東方天空!
……はぁはぁ。
脳内で勝手に展開してしまったおこりっくまワールドから急遽脱出。どんだけ危ないん、おっさん。おっさんじゃない、お兄さんと言いなさい。
とかやってるうちに、先輩が消えていた。おこりっくまコーナーのぬいぐるみの配列も、誰か消えました! といった様子。
桜井さん、即決ですか? あまりの速さに僕の脳内にどれだけゆっくりとした時間が流れているのかと考えさせられ、ゆとり教育のたまものかとくくってみたりする。きっと数秒で。
いなくなった先輩が行ったであろうレジに向かうと、支払いを済ませた先輩がおこりっくまコーナーへ戻ろうとしたのかこちらに向きを変え、僕と目が合う。
「次、おもちゃ屋ね」
そこでも、おこりっくまを物色。
それから、本屋、雑貨屋、洋服屋、靴屋に百円ショップ、携帯のショップなど、自分たちには関係のない婦人服、スーツを扱う売り場や旅行代理店とかを除くテナント、全てを回りつくした。
そして、昼食はやっぱりアレみたいです。
「ポテトのMと、オレンジジュースのM、それから……ナゲット。ソースは……」
サイドメニューしか注文しない。主役のバーガーは先輩にとって一体なんなんだか。
僕はラーメンが食べたい気分だったのにそれを抑え、先輩に付き合ってハンバーガーのLサイズセットと、単品でもう一個別のハンバーガーを頼んでいた。
しかも、会計を一緒にされちゃって、僕が払うはめになるし。
いや、文句は言わないよ。先輩の紹介でかてきょやってんだし、何より自分の身が一番大事だよ。
ハンバーガーショップの角にあるテーブルで向かい合って座る僕と先輩。先輩は、ポテトを食べ終わるまで、ずっと黙っていた。そして、口を開けばこんな感じ。
「八十四本」
本日のMサイズポテトの本数。
「天空は?」
「え? 数えてませんよ、そんなの」
「あ、そう」
素っ気なくそう言うと、先輩はカバンから手帳を取り出し、書き込んだ。なぜかその手帳の表紙には、毒々しい書体で『閻魔帳』と書かれていた。たぶん手書き。いや、そんなものが市販されてたらイヤだ。
とにかく……趣味、悪っ。
「ま、平均的な数字ね」
手帳にさしてあったペンで書きこみ、戻して手帳を閉じる。
「Lサイズはだいたい……」
いや、そんなのどうでもいいから、その悪趣味な手帳をさっさとカバンに戻してください! それと、本数に関して語らないでください。おいしく食べられなくなります。
「あと、値上がりしたのよ。知ってた?」
「いえ、知らないです」
「メニューには二百四十円って書いてあるのに、精算の時、ちょっと計算が合わなかったのよ。きっと十円上がってるわ」
そう言われると気になってしまい、僕は財布からレシートを取り出した。すると、ポテトのMサイズの単価が二百五十円になっていた。
「暗算、いちいちしてるんですか?」
「まだボケたくないし、脳トレよ」
……そーなんすか。
数字、好きなのかな? 数字中毒? 変な人。
また一つ、先輩のヘンなところを見つけてしまった、ような。
昼食を終えた僕たちは、ドリームタウンの外に出て、建物の影に並んで座っていた。人目を避けるように。
なんとなく、先輩にカツアゲされそうな後輩の気分。ちょっと、相手が悪いです。
もちろんカツアゲではなく、先輩は最初の店で買ったものが入っている袋から小袋を取り出し、僕に差し出してきた。
「これ、あげるわ。この前のお礼よ」
「お、お礼?」
お礼されるようなことをしたでしょうか?
……。
どちらかと言うと、蹴られたり殴られたりの慰謝料ではなかろうか。そっちなら納得できるんだけど。
まぁ、もらえるのなら……。
「……ありがとうございます」
不審に思いつつ、それを受け取る。重さはない。袋の大きさのわりには軽かった。
「何ですか? これ」
「ヒメとぴょんとハチのぬいぐるみキーホルダー三点セットよ」
……それを僕に使えと、申しておるのですか?
そして、それっきり……会話が途切れた。
どれぐらい経ってからか、先輩は立ち上がり、帰ると言い出した。
「送りましょうか?」
「いいわよ。家、ウチと逆方向じゃない。一人で帰れるわ」
「……そうですか」
「じゃ、また月曜に、学校でね」
「あ、はい。気をつけて」
僕は慌てて立ち上がる――途中、先輩に素早く頭を捕らえられた。
…………。
……あの、だから……。
そーゆーのってやっぱ、友達以上の関係の男女がするもんだと思うんですけど。
自分でも分かってる。ホントは気付いてる。だけどそれがちょっとアレな性格の先輩だから、自分で認めたくなくて、気のせいだと思いたくて……だけどもう、自分の気持ちに嘘がつけないほど、重症になってしまった。
殴られようが、蹴られようが、無茶言われようが、僕は……桜井先輩のことが――。
僕と二人でいるときの素直な先輩が――。
「くまぱーんち!」
「うさきーっく!」
次の日、そんな妹と弟の声が聞こえたので覗いてみると、見覚えのあるぬいぐるみキーホルダーで遊ぶ恵と大地。
とてつもなくイヤな予感がしたので部屋に戻ると、いたはずのヒメとぴょんが消えていた。残されたハチは相変わらず泣きっ面。
く、くそぅ、勝手に僕の部屋に入りやがって!!
しかし、返せと言えないし。言ったら、何で? どうして? と繰り返し聞かれるに間違いない。それはそれで説明に困る。
仕方なく、黙っているしかないのか。徐々に黒くなってゆくくまとうさぎを見守ることしかできないのか!
もし聞かれたら、先輩に何て言おうか……と、言い訳なんか考えてる。
――月曜日。
ヒメは妹のランドセルに取り付けられていた。
ぴょんは弟の通園カバンに取り付けられていた。
ハチは僕のカバンに――って、ないない。
学校で見かけた先輩のカバンには、僕が貰ったのと同じものが三体セットで取り付けてあった。
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2008.11.10 UP