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  10 接近


「あたしに似てると思ったでしょ?」
 僕がプレゼントした、おこりっくまの頭を撫でながら、先輩は言った。
 桜井家。大志くんの家庭教師を終えて、先輩の部屋。ベッドに腰掛けてる先輩に手には、白いくまのぬいぐるみ。
 触り心地のいい素材。かわいらしい容姿。なのに目が釣りあがってて無表情。でもそれが愛嬌というか、なんとも言えない愛らしさを備えている。
 どこかの誰かさんもそんな感じだ。まぁ、触ったことはないんだけど。触ろうとしたら容赦なく叩きそうだし。
 そんなことを考えていたせいもあり、少し間をあけて答えた。
「……そうですね」
 グーが鳩尾あたりに叩き込まれるのを覚悟して、ちょっと腹に力を入れて構えた――が、そんなものが飛んでくる気配はない。どころかやわらかく微笑んでいた。
 意外な反応にこっちは益々構えてしまう。次は何がくるんだ、何が!
 どこからでもかかって(殴って)きなさい! と言わんばかりに、体は硬く強張った。
「コイツの相方――ぴょんは天空に似てると思うんだよ」
 ――は?
 あまりにも突拍子もない方向へと行ってませんか? 先輩らしくない。
 ちなみに、白い釣り目のくまの相方こと白いうさぎ、名前はぴょんと言うらしいがそれはのんびりとした性格という設定で、いつもくまにいいように弄ばれているとかなんとか――って、どっちかって言うと、大志くんじゃないのか? 弄ばれてるあたりは僕も該当するような気がしますけど。
 いや、それって、ご自分が弄んでらっしゃるという自覚がおありだと、判断してよろしいのでしょうか?
 とりあえず、あなたのご意見、お聞かせ願えますかね?
「……どのあたりが、ですか?」
「ぎゅってしたくなって、何だか落ち着くところとか」
 ――えー、どう回答すりゃよござんしょ?
 僕はぬいぐるみと同等の癒しを備えた抱きまくらならぬ抱き人間かい?
 ……何だか意味不明になってきた。だったらやめよう。深く考えたってどうしようもないような気がするし。
「ちなみに最近、また新たなキャラが登場したのよ。なきべそワンちゃんのハチ。通称、泣きっ面のハチ」
 それも、くまにイジメられてるってパターンですか。こっちはうさぎと違って、すぐにイジケるタイプとか? 奥が深いなぁ、おこりっくまシリーズ。
「土曜にさっそく、探しに行こうと思うの」
「そして僕に付き合えと……」
「そうよ。分かるようになってきたわね。えらいえらい」
 今にも頭を撫でてくれそうな言い方はやめろ。僕はそんなに子供ではないぞ!
「新作の入荷はドリームタウンの方が早いから、十時に中央の入り口ね。いい?」
「まだ火曜ですよ」
「まさか、あたしとの約束を火曜のことだったからって忘れはしないでしょ?」
「……忘れたら、半殺しなんでしょ?」
 恐る恐るそんなことを聞く僕も、かなり冒険してるような気がするんだけど。
「そんな甘っちょろいもんじゃないわ。八分の九殺しよ」
「それじゃ一と八分の一じゃ……って、一以上かい!!」
 そういう人だし……分かっているけど。慣れてくると、それもまた愛嬌か。
「ということで、抱きついてもいいかしら?」
 と、顔を少し横へ傾け、嬉しそうな顔をする先輩。
 ここでイヤだと言ったって無駄なんだろ? 分かってるさ、そのぐらい。だから仕方なく、こう言うしかないんだ。
「……どうぞ、ご自由に」
 僕は電柱、僕は電柱、僕は電柱――。
 そう、自分に言い聞かせつつ、今日も耐える、耐えてみせる! さっさと帰るためだ。今日はいつもより、早く帰れるんだ。これに耐え抜くことができれば!
 しかし僕は……それとは別のものに耐え切ることができなかった。

 じっと耐える。とにかく耐える。ひたすら耐えろ!
 でもホントに、何が面白いんすか、これの。
 うーん、いや、要注意人物だけに、理解不能なんだけど、まぁ、人それぞれというか、趣味だとか言ってたし。だけどさぁ……。
 ――って、無限ループにはまる。
 考えるだけ無駄。桜井先輩のことなんて、別に興味ないしー、知ったことかー。
 つーか、こうやって黙ってればなぁ……かわ。
 いやいやいや、この人だけは絶対ダメ。不可。許可できません。

「……天空」

 反則! それ、ダメ!
 僕のゆるがない決心がゆるい決心になってしまう。
 僕の背に回していた手を解いた先輩は、まっすぐ僕の顔を見上げてくる。
 顔の方に手を伸ばしてきて――急につねらないだろうな。
 そっとかすめるように頬に触れてきたからくすぐったくて、僕は肩をすくめる。
 そして先輩の手は僕の首の後ろに回されて――まぁ、アレだ。な。
 背伸びしてきた先輩の顔が眼前にせまってたり、唇に柔らかな感触があったり……。
 一度離れて、目が合って――もう一度、先輩の方から唇を重ねてくる。
 身長差の関係で爪先立ちしてる先輩の体は、なんとも不安定にふらふらしてた。やり場を特定していなかった僕の手は……それを支えるよう先輩の背に回し……って、要は抱き合ってしまったという状態。
 確かに、彼女が言った通り、少々筋肉質だと思った。今までにない硬さだ。
 ……しかし、何をやっとるんだ、僕は! 雰囲気に流されて、この、ソラちゃんは、もう……。
 先輩は僕の首に強く抱きついている。
 ……でも、こういうパターンは初、だよね。……いいかも。
 ……待て、オレ! 一人称変わってる。もう、脳内では自分が自分を羽交い絞め。

「――き、天空」
「……はい? 何ですか?」
 脳内でなんやかんや起こってる最中、先輩がとても小さな声で何かを言った。突然のことで、聞き逃したから、反射的に聞き返したが、
「……何でもない。もう言ってやんない」
 と、おとなしいバージョンでもハイテンションバージョンでもない、拗ねたような調子でそう言ってから、僕の胸に顔をうずめた。
 ……かわぃ……ぐっ。
 抑えろ、抑えるんだ、僕。これはパンドラの箱と同等なもの。開いちゃだめだ。

 といった、自分の脳内で繰り広げられる僕とオレの葛藤劇。
 抱きついたままの先輩は離れず、いやそれって、僕も手を回していたのが原因か? ふと気付いたら、先輩の頭を撫でてました。そんな行動の自分にびっくり仰天。手のやり場に困る。わたわた。何してんだ、僕!!
 そんな色々な理由があり、思ったより帰宅時間が遅くなったというか、早く来たのにいつもと変わらなかったんだけど……。

「……もう、帰りやがれ! この、バカソラ!」

 わたわたしてたら渾身の蹴りを腹に喰らわされて先輩の部屋から追い出されていた。
 ホントに、何なんだよこの人は!
 つーか、腹いてぇ……あたたた。そのうち、内臓破裂で死ぬかも。
 桜井先輩と付き合おうだなんて……命がけだよな。
 命がけです、まさに。

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2008.10.23 UP