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  9 天空と大地の恵み


 土曜の部活は、かなり充実したものになった。
 なんてったって、野球部がいないグランドで思いっきりサッカーができるんだからな。先輩たちも張り切って、試合形式の練習ばっかりで。
 家に帰った頃にはクタクタになってたけど、久しぶりにボールを夢中になって追いかけて……満足感とか興奮でなかなか眠れなかった。
 あー、やっぱサッカー最高。
 何が野球だ、何が甲子園だ!
 僕はサッカーが大好きなんだよ! 僕とサッカーの間には何も入り込めないし、何も入れてやんねーよ!
 だけど隣は相変わらず空いております。……寂しいね。


 日曜は特になにもすることがなかったせいで、当然のことながら弟と妹の子守をしなければならなくなる。
「公園つれてって〜」
 と……。
 休みの日ぐらいゆっくり寝てろ! と言いたいぐらい、休日はやたら早起きさん。平日はなかなか起きないくせに……。
「水遊びできる、でっかい公園だよ〜?」
 しかも贅沢に、近所の児童公園ではなく、市が管理してるようなデカいとこへ行けとか言うし。
 ちなみに、弟は幼稚園の年中で、名前は大地(だいち)。
 妹は小学一年生で恵(めぐみ)という名前。
 僕の自転車には二人も乗せられないので、補助椅子が二つも取り付けられている母のチャリ――ママチャリで出動! しかしこれが、漕いでも漕いでも進まないような気がしてならんのですが。

 運転手の僕はクタクタでも、ただ乗ってただけの弟、妹は元気イッパイ。公園に到着すると、さっさと走って遊びにいった。
 これで……飽きるまでしばらく僕にはよりつかないだろう。
 僕は駐輪場の適当な場所に自転車を止めると、影で一休み。

「ジュース!」
「ジュース!」
 喉が渇けばしつこくたかってくる。小遣いから自腹で二本分。いつもは帰って母に請求するけど、今はかてきょしてるし、いいか。僕のおごりだー。
「アイスも食べたい」
「食べたいね」
 そりゃ待てや。どっちかにしとけ。

 こうして、僕の休日は年下すぎる弟や妹に捧げること何年目か……今週も日曜日はそんな感じに過ぎてゆき、休みの日に休めないまま、月曜日を迎えた。




 朝、いつものように自転車で、学校の駐輪場。なぜかだいたい同じ場所に止めてしまう。
 そして向かうのは生徒玄関。ここでたまたま桜井先輩が視界に入ってしまうのは何かの陰謀か、それとも彼女がひときわ目立つ存在だからか。
 うん、今日はいつもの倍は目立ってると思うぞ。
 つーか、何で……学校指定のカバンに、二日前、僕がプレゼントしたような気がするぬいぐるみが顔を出してるものかね。
 いやいや、あれは後ろ姿が桜井先輩に似ているというだけできっと別人で他人で関係ない人だ。だいたい、桜井先輩がそんなことをするはずがない。むしろ、したらキモチワルイぐらいで。そんな乙女な人じゃない。それは僕だけでなく、たくさんの人が知っている。彼女の気の短さと手の早さと口の悪さといったら、とても女とは思えないもので……。
「まめー!」
 だから、豆じゃない!
 ……他人ということにしておきたかった人物は、桜井先輩そのものであったことを残念ながらお伝えせねばならないようです。
 っていうか、振り返らなけりゃいいのに、なぜ振り返って僕を見つけてしまうんだ。……いや、分かってる。この身長のせいだということぐらい。ちょっとアタマが飛び出てたかもしれないぐらいなんだけど。
 よし、とりあえず明日から、五分遅く家を出ることにしよう。


 来週、定期テストがあるとかで、一週間のテスト期間。そのうえ、部活停止。
 ……早く帰れる、ということは、妹と弟にまとわりつかれる時間も長くなってしまうじゃないか!
 ちょっと待て。中学校もそろそろ中間テストの時期じゃないか?
 ここは、無料奉仕でいいからかてきょを――って、それもそれで問題があるな。姉の方に。
 なんと言っても、先輩のせいで帰る時間が予定より三十分程度遅くなってるからなぁ。
 でも、今週も二回、桜井家に行かなければならない。

「……はぁ」

 溜め息漏らしてたら、火曜日になってて、授業も終わってて、だいたいかてきょに行くのが火曜、金曜に定着しはじめてて、だから今日は……かてきょの日なんです。部活ないのに、六時からなのか? そして帰りは九時過ぎるのか。
 でも文句言えないんだよなー。金貰ってるし、桜井先輩だし。

「……はぁ」
「どうしました?」
「え? あ、いやぁ……」
 いつもぽや〜っとしてる大志くんに溜め息を突っ込まれるとは思いもしなかった。
 桜井先輩と話した結果、学校終了後にそのまま桜井家に直行。いつもより早い時間から大志くんの勉強を見ている。
「天空さん、お姉ちゃんにぬいぐるみ買ってあげたんでしょ? 白いくまの」
 ……どこまで喋りやがった、あの女。
「もふもふしてて、なんだか見てたら、ぽわ〜んとしてくるんですよね」
「いや、キミはいつもぽわ〜んとしてるじゃないか」
「……もふもふしてませんよ」
「そんなこたぁ言ってない」
「見たら、だっこしたくなりますよね」
「なるなる。大志くんなら違和感なさそうだ」
「天空さんだったらキモいですね」
「よぅ言うた」
「でもあのくまの表情……誰かに似てるんです。こう……恐怖の大王的な誰かに……」
 それはきっと、身近な人――大志くんの姉のことだと思うよ。
「たぶん、伊吹さんじゃない?」
「――!! そうです、それです、お姉ちゃんそのものだ!」
 大志くん覚醒! そんな勢いで喋りだした。
 ――バン!
「呼んだ?」
 突然開いた大志くんの部屋のドア。そこに立つのは桜井伊吹。まさに仁王立ちという言葉がよく似合う、偉そうな態度。
 呼んでない、呼んでない、と言葉にならないが首を何度も横に振る。しかしそんなことで桜井伊吹は立ち去らない!
「だっこして、もふもふしてもいいわよ。あたし、結構筋肉質だけど」
 どこからどこまで立ち聞きしてたんだ、アンタは!
 しません、しません、だっこしません。更に首振る、横に振る。
「おこりっくまに似てるんでしょ?」
「確かに似てます」
 無言で何かを企む表情が特に。いや、素で黙ってても十分に。
「だったらもふもふしなさいよ!」
「……辞退させてください」
「じゃ、だっこさせなさい!」
「……いやだと言ったら?」
「無理矢理にでもするわ」
 いつもと変わらないじゃないか!
「お姉ちゃんに抱きつかれたら、バックドロップされますよ」
「ま、マジで!?」
 技を掛けられたことはないけど、気をつけよう。
「ぼく、何度も星が見えたことが……」
 マズいって!! 暴力、虐待、反対!
 っていうか、
「あの、勉強の邪魔になるので、退室を要求したいのですが」
「……そうね。また終わったら呼ぶわ」
 呼ぶな。
 ささっと部屋を出て、ドアを閉める先輩。
 最後にどうだよそれ的なセリフを残していったことがどうだよそれ。
「……お姉ちゃんに……」
「何もされてねぇよ!」
 いやいや、ムキになったら益々怪しいって。ここは冷静になるんだ。冷静に……いえいえ、僕はいたって冷静ですよ。
「……もう、何か起こった後なんですね」
 おい、そこの弟くん! なぜ僕を哀れみに満ちた表情で見つめるんだ!
 そんなに酷いことをするのか、桜井先輩って。
「大丈夫ですよ! 天空さんなら、きっとお姉ちゃんを倒せます!」
「……倒していいんかい?」
 絶対無理。別の意味の方だと、ちょっと抵抗が……黙ってくれてれば、まぁ……あー、いや、ちょっとまて。それはどうでもいい。
 先輩がまるで悪の組織の一員みたいな扱いになってるけど……遠からず、近からず? かなり特殊な人だということは確かだ。
 さて……。
「大志くん、手が止まってる」
「あ……はい。すみません」
 相変わらず、勉強に掛かる時間は常人の倍以上。これだけ時間があったら、僕なら倍の勉強ができそうなんだけど、このまったりさんはホントに……一日が四十八時間ぐらいないと足りないんじゃないかと思うぐらい、のんびりとしている。
 せっかく早い時間から来たというのに、帰る時間が普段とたいして変わらなかった理由には、桜井姉が深く関係しているというかなんというか……僕と桜井先輩の関係に、ちょっとした変化というものがあったような、なかったような……。

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2008.10.06 UP