TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【8】


  8 なにがどうしてどうなったらそうなるんだ


 えー、給料を頂きました。かてきょーの分、月額の三万円。
 何だか相変わらず、帰ろうとしたら、桜井先輩の部屋に連れ込まれて抱き疲れております。誤変換ですか? いえいえ、抱きつかれては何だか疲れがどっと押し寄せてくるんです。
 そのうえ、なぜか分からないが、僕に抱きついておとなしくなった先輩に、
「あさって……一緒にモール行こうね」
 とか言われて、勝手に約束されてたり。
 いや、分からないわけではない。きっと僕の給料をたかるんだ。たかってるんだ。何かを買わされるに違いないんだ。分かっていながら、断れるような人じゃないことぐらい分かってるんだ。
 ただ、首を縦に振るしかないということ。
「ふゃーっくしゅ!」
 モールどころじゃない! 先に病院だ。内科へ行こう。
 風邪、ひいてます。いたわれ、コラ!
 あさって――土曜日。今日は、木曜日。


 次の日――部活を終えてすぐに掛かりつけの内科へと受付時間ギリギリで駆け込んだ。
 ご丁寧に採血までされまして、特に異常らしきものはなく、ただの風邪だと診断された。
 処方された薬は――子供ではないのに飲み薬と、錠剤を二種類。
 飲み薬は甘そうな感じの明るい色ではなく、何だかこげ茶色の液体で、苦くはないものの妙な味のするものだった。
 市販薬とは違い、症状やら体質に合ったものを処方してもらったせいで、僕は土曜、万全の体勢で挑めたじゃないか、こんちくしょー!
 まぁ、長く風邪に付き合わずに済んだだけいいのか、桜井先輩に付き合わなきゃならなくなったことが悪いのか……果たしてどっちが楽なのか。
 イマイチ乗れない土曜日が参り、参りました。もう降参。僕まだ高一。……オモシロクナイッ!


 約束の時間は土曜の午前十一時、モールの中央に位置する入り口だったよな? ここでいい? どこが中央だかよく分かりませんよ、入り口多いし。
 たぶんここだと思った入り口には、私服姿の桜井先輩が待っていた。なぜか洋服店のものと思われる袋を抱えて。
 ……もしかして、時間間違えた? と不安になっていると、先輩が相変わらず容姿に似合わない言葉を吐き出す。
「このあたしを三分も待たせるとは、いい度胸だわ!」
 三分って……特に待ち合わせ時間を間違ったわけでもないのに、こっちも五分前には来たっていうのにひどいものだ。
「すみません……」
 自分は悪くないと分かってるのに、この人とうまく付き合うにはそう言うしかなかった。
「あたし、一通り買い物は終えてるから……あ、雑貨屋覘くの忘れてたわ。行くわよ」
 これぞ、とんとん拍子。さっさと向き変え、とっとと歩いていく桜井先輩――あの、別に僕はいなくても、来なくても、誘わなくても良かったんじゃないですか?
 僕も向きを一八〇度変えて逃げたかったのだが、
「とーぼーそら、早くしなさい!」
 心でも読めるんですか、あなたは! と言いたくなるような絶妙なタイミングで、僕に突き刺さる先輩のセリフ。
「っていうか、フルネームはいいかげんやめてください!」
 先輩を早足で追いながら何度か言ったようなことを今回も言ってみた。
「だったら何て呼ばれてみたいの?」
 ここで立ち止まり、僕の方に振り返ってくる桜井先輩は、いつものように鋭さのある表情。瞳がキツいからな、この人。こんな顔で見られたら、構えてしまう。
「……そら」
 ……。ちょ――。
「まめ?」
 ……。ぴしっ。
「てんくう」
 ……。はぃ?
「てんぷら」
 ……。あの……。
「てんかす」
 ……。叩く。
「からちゃん」
 ……殴る!
「どれがいい? 選び放題よ」
「通常営業のままで結構でございます」
「あらそう。『そらまめ』とか『てんかす』とか、傑作なのに……」
「結構です!」
 僕の名前で遊んでくれるな!
「まぁいいわ。行くわよ、おまめちゃん」
「誰が豆ですか!!」
 ここでクスっと笑ってくれりゃ、冗談で言ってると解釈できて、さらっと流してやろうと思えるんだけど、この人の場合、本気でそこまで言ってるから、妙にアタマにきたり、引っかかったりしてしまう。おのれ桜井伊吹……。と言った感じで根に持つ。
 つーか、僕はそらまめが嫌いなんだよ!

 先輩について行くこと数分、雑貨屋前。
 かわいらしいものがところ狭しと並んでいる。それこそ色んなものが。一度は見たことある人気キャラクターがわんさか。見たことなくても、忘れられなくする何かを秘めたもの。……いかん。この店からは人を惹きつける何かが出てるんだ!
 分かっていながらもう目が離せなくなってしまってる僕は……二〇センチぐらいの白いクマのぬいぐるみとみつめあっていた。
 も……もふもふしたい。つーか、むしろ変人。
 ほっぺたつねってムギューって横に引っ張ったり、あっちょんぶりけー(手塚治虫氏のブラックジャックを参照のこと)ってやりたい!
 アタマをなでなでしてみたい。
 人気キャラクターの魅力――おそるべし!
 いえいえ、じっと見つめてはいたけれど、決して手は伸ばさなかったっすよ。
 とりあえず、このぬいぐるみから視線を逸らすべきだ。
 視線ごと顔を四十五度ぐらい右に動かすと、何かを真剣に見て、物色する桜井先輩の姿が飛び込んできた。
 ……この人も、ほっぺたつねってみたいよな。後で殴られると思うけど。
 アタマなでたらどうなるんだろ? やっぱ殴られるのかな? 喜ばれても気持ち悪いけど。
 ……むしろ、抱きついた日には、全開出力で殴られんのか? 抱きつかれてんのはこっちだけど。
 再び視線をぬいぐるみに戻す。
 ……癒される。無表情なのに。特に笑ってるわけでもないくせに。目は釣りあがってんのに。
 ……あ、似てる。
 癒しはないけど、先輩に似てる気がした。
「あら? おまめちゃんはそれがお好み?」
 ……だ〜か〜らぁ。豆はやめい!
 僕の視線の先にある白くまを手に取る桜井先輩。
「これ、触りごこちが最高なのよね。見ちゃうとついつい触って帰るの」
 触るだけで買わないところがどうなんだか……。しかし、ホントによく似てる。先輩とぬいぐるみ。
「あの……それ、先輩にプレゼントしてみていいですか?」
「ってことはおごり? 自分で買うにはちょっと抵抗ある値段なのよ」
 そこ、素直に喜んどけよ。かわいくないな、ホントに。
「プレゼントするフリして買って、自分のものにするのはナシだからね。もう、あたしのもんだからね」
 ……子供か!
 初めてのバイト(?)――家庭教師のお給料で最初に買ったものが、先輩へのプレゼントってのは、自分でもどうなんだ? と後で考えてしまうのは言うまでもない。
 そして昼食も、なぜかおごってしまった。
 大金を持ってると、どうもいいことないらしい。
 まぁ、久しぶりに食べたメガバーガーは食べ応えがあり、母曰く奈落の底へと繋がっているという胃も大満足である。で、相変わらずポテトの本数を数えながら黙々と食べる先輩。時刻はいつの間にか十二時半を過ぎていた。
 マズいな、これは……。
「先輩、僕、そろそろ帰らないと、一時半から部活が……」
「おかまいなく。野球部は明日の朝だから」
 いや、あなたの都合なんてどーでもいいです。
「帰って、いいっすかね?」
「そうね……サッカーやめて、野球部に入れば、その点は問題解決するんじゃない?」
「だから、入らないし、辞める気もないし、帰りますって言ってんです」
「……甲子園、連れてってくれないのね?」
 は? またそれかよ。
「僕は国立競技場を目指してるので、すみませんがそれはできません」
「……でしょうね。とーぼーそらがどれだけサッカー好きか、あたしだって分かってるつもりよ」
 分かってても聞くのが先輩らしいけど。ま、すんなり帰れそうなので一安心。
「せっかく誘ってくださったのにすみません、中途半端にしかつきあえなくて」
「いいわよ別に。何かとおごってもらってるし、またつきあってもらうし」
 ま、また!?
「ほ、程ほどにお願いしときます。では……」
 僕は席を立つと軽く頭を下げ、先輩を残して店を後にした。

 まっすぐ自宅に戻って準備をし、学校に向かって自転車を漕ぐ。その足取りは、先輩との待ち合わせに向かう時よりはるかに軽がるとしていた。部活――サッカー、大好き人間です。

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2008.09.24 UP