TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【6】


  6 かてきょーサッカー少年 天空(不採用希望)


「この人、大志の家庭教師にしようと思って、連れてきたわ」
 住宅が増えたと思ったら、いつの間にか団地に入ってて、その中の一軒が桜井先輩宅で、玄関で待ってろと言われて待ってたら、一番近い部屋に入った先輩はお母さんと共に出てきた。話がどう展開したのか、いきなりそう紹介されたというか、説明されたというか……。
「えっと、はじめまして。東方天空です」
 決して、彼氏じゃありません。と、心の中ではきっちり補足。いや、親ってどうでもいいところで勘違いしちゃったりするからね。いえいえただの、先輩、後輩ですよ、健全で。
「どうも。伊吹の母です。……ごめんなさいね。きっと、伊吹が強引に連れてきたんでしょ?」
 仰るとおり。よくご存知で。さすがお母様。だてに先輩の母を十七年ぐらいしてるだけのことはある……?? 日本語、変じゃなかったか? いや、ここは気にしない方向で……。
「強引じゃないわ。ちゃんとその件の話はしたし、納得の上でついてきたんだから」
 それ、途中で逃げても良かったような言い方ですね。何だか……バカ正直な自分がバカだと思いました。まぁ、逃げた場合は、後日それなりの制裁を食らわせてくれるでしょうけど。
「じゃ、早速、二分後から家庭教師を始めてもらうわ」
 桜井先輩は頭を振った。家に上がって、正面にある階段を昇れ、と促すどころか命令してるような感じで。
 とても他人に家庭教師を頼む態度じゃない。とにかく偉そうだった。母親よりも。
「後でお茶お持ちしますね」
「はい、すみません、おじゃまします」
 ところがお母さんの好意に、
「あたし、オレンジ・ペコがいいわ」
 アンタの好みは聞いてねぇ! それじゃ好意の意味がねぇ! つーかアンタに関係ねぇ!
 と突っ込みたくてたまらなかったのは言うまでもなく……あまりの態度のデカさに、僕もただ、言う事をきくしかなかっただけに、僕もただの被害者にすぎないのだよ。
 お母さんも、こんな娘さんで大変そうですね……。


 二階へ続く階段は、未知なる領域へと続いているように思えた。あの先輩の弟だ。きっと、とんでもないのが出てきてもおかしくはないと思っていた。ある意味、覚悟というものをしていたのかもしれない。生きて帰れないかもしれない、と。
 二階にある二番目のドアまで案内され、先輩がノックした。
「大志、入るわよ」
 と言い終える頃にはドアは開けた後で、既に片足は部屋に踏み込んでいた辺りはご愛嬌。
「今日から、あたしの代わりに勉強教えてくれる子、連れてきたわ」
 勝手に入るのは悪いかな、と思いつつ、実はとんでもなくヤバ系な人物だった場合はさっさと逃げれるように……僕はまだ廊下にて、室内の様子を伺っていた。名前から想像すると、ゴツそうな感じだし。
 しかし、机に向かっていたのは……不良でもなければやたらデカくもなく、どっちかと言えば、小さくてかわいい感じの、とても桜井先輩の弟とは思えないような少年。姉の声を聞いてこっちを向いた弟くんは……毎日、先輩にイジメられてそうな、薄幸の美少年っつーか……小学生?
「あたしの弟、大志よ。あたしに似て、カワイイでしょ?」
 勉強中であろう弟くんを椅子ごと回し、僕の方に向けてくる。
 回答に困った。しかし、考えるのにあまり時間を取ると怪しいので、思ってもないことを吐き出すことで回避。
「そうですね。ところで何年生ですか?」
 棒読みだったかもしれないが、そこを突っ込まれる前に話題変更方向へ。
「うっふっふっふ、あたし、カワイイって」
 いや、違います。履き違えてます。確かに弟くんはかわいい感じです。あなたのことじゃないです。
 っていうか……話題変更方向に行かなかったじゃないか! くそっ……。何だかものすごく、悔しくてたまらなかった。思い通りにならないって、ストレスになるよね。特に相手が相手だから、そのストレスも通常より倍率高めに設定されてるんだけど。いつか胃に穴が開く。
「大志! あいさつは?」
「あ、はい。こんにちは……桜井大志です。中学二年です」
 はきはきとした先輩の声とは違い、弟くんはどこか落ち着くものを感じる。
「はじめまして。僕は東方天空。桜井先輩と同じ学校の一年です。よろしく」
 ここでようやく弟くんの部屋に入りまして、彼の前で握手を求めて手を差し出した。
「あ、はい。よろしくお願いします」
 と、彼も僕の手にそっと握手。ずっと勉強していたせいか、生暖かく少し湿った感触。
「じゃ、早速、今日から今からかてきょしてもらうわ」
「……苦手分野を集中してやるんですか?」
「……全科目。予習、復習、宿題をやるのよ」
「ぜ、全科目……ですか?」
 別にそこまでしなくても、苦手な部分だけでいいじゃないか。
「まぁ、それがなぜなのか、というのは五分以内に分かると思うけど……この子、あまりにもぽや〜っとしてるから、学校の授業、聞いてなさすぎるのよ。そのうえ運動もろくにできないし。学力、体力共に並以下。下から数えればトップクラス。ぼんやりさせたら右にも前にも後ろにも、出れる人なんていないわ!」
 と言ってる先から、弟くんはぽや〜っとしていた。しかも幸せそうな笑顔で、これは恨めない! 桜井先輩の話を聞くよりこっちを見てた方が和む。ああなんだか、僕も大志くんの顔を見ながらほや〜っとしていたい!
「とーぼーそら! もう大志の心理作戦にハマってるじゃない!」
 桜井先輩に横腹をどつかれて、我に返った。
「はっ!!」
 いかん。ついつい彼の表情で和んでしまった。別に変な趣味には目覚めてない。
「といった感じなの。とても女友達に家庭教師頼めなくてね。あたしももう、限界だし、面倒だし」
 おい、今、なんつーた? メンドウ??
「で、僕なんですか?」
「そ。成績いいし、後輩ならまず先輩には逆らえないでしょ?」
 ものすごく、逆らいたくなりますね。そう言われると。
「それに同じ男同士な方がいいかな、ってね。大志のぽや〜攻撃も効きづらいかと……」
 いや、見事にほんわかさせられました。そっちの趣味はないけど。きっと、桜井先輩とのギャップのせいだったと思われます。とてつもなく、和みたくなりましたから。
「とりあえず、宿題見てやって。あたしは部屋で横になってるから」
 と言って、後ろ手を振りつつ弟くんの部屋から退室。
 横かい! 僕に押し付けて、あなたはさっさと休んじゃうんですね? ああ、もう、なんだよ、ちくしょぅ!!
「……あの、天空さんはお姉ちゃんの彼氏ですか?」
「ちがぅわい!!」
 冗談じゃない。

 とりあえず、今日の宿題を見ていた。
 確か、僕がこの部屋に入った時に机に向かっていた弟くんだが……ノートには一問目の途中までしか書かれてないような状態。一体なにをやってたんだ。そうか、ぽや〜っとしてたのか!
 まず、ノートに数学の問題、一問目を写してもらった。
 机に置いてある、まだ新しい数学の教科書を手に取り、開いてみた。なつかしいな、これ――――??
 …………!!
「あの、大志くん、これはなに?」
 教科書をぱらぱらと逆からめくってたら、授業で使ったと思われるページに落書きがされていたので聞いてみた。いや、聞かずにはいられなかった。
「あ、何だか『x』がちょうちょに見えて、『y』がジュースの入ったグラスに見えたんです」
 ほんわかとした笑顔で僕を見つめる大志くん。つられて僕もへらっと笑ってしまう。憎めないな、その笑顔。
「楽しいですよね、数学」
 キミは別の意味で楽しんでるようだね。
 文字も数字も記号も、書き加えられて何だかメルヘンなものになっている。その中のひとつの『y』は、チョコレートパフェのようになっているし。
「…………」
「…………」
 ほわ〜ん。
 ほわわ〜ん。
 ……はっ! 大志くんペースに飲まれてる!
 僕は首を大きく横に振り、大志メルヘンワールドから脱出。
「手、止まってるよ」
「……あ、すみません!」
 まだ一問目、書き終ってない。
 大志くんの家庭教師としてやっていけるのか、不安になってきた。
 そして、彼が相当なぽんやりさんなのもよくわかった。桜井先輩の性格があんなんだから……彼女はイラついてたまんないだろうな。
 教科書や筆記用具、とにかく手にとって投げれるものは全て、一度は宙を舞ったに違いない、と容易にそんな想像ができる。

 問題の解き方について説明の最中も、大志くんはどこかに旅立っていて……、
「聞いてた?」
「……はい?」
 全く持って聞いてないんですね、キミは。
 もし先輩の弟じゃなかったら、軽くどつきまわしたいです。


 何とか数学の宿題を終了させた頃には……十時。午後十時。ふざけんな! ふざけんなぁぁぁあああああ!!!
 まぁ、八時頃に夕飯をご馳走になりましたけど、ここでも桜井姉弟の妙なやりとりを見てしまった。
 食事中にぽやーっとしはじめた大志くんのご飯を、ささっと奪い取り、何事もなかったように食べている先輩。取られたことに全く気付かない大志くん。
 大志くんが小さいのは、先輩のせいだと思います。
 正反対で面白くはあるのだが……これ以上、深入りしたくないのが僕の本音でもあるのだが……。
「じゃ、大志くん、また……」
 と言って、また、がありませんように、とも願う。
「ありがとうございました」
 大志くんの部屋を出て、ようやく現実世界に戻ったような気がした。彼の部屋は……どこか別の世界と繋がってるに違いない。例えばネバーランドとか。
 はぁ――と溜め息が漏れる。そして、階段を降りて、お母さんに挨拶して、さっさと帰ろうとしたとき……謎だった二階の一番目のドアが開き、桜井先輩が顔を出した。
 とてつもなくイヤな予感がする。
 どうして大志くんと部屋が逆じゃなかったんだ! 先輩の部屋の前を通らなければ、階段には辿り着けないじゃないか!
 今日の家庭教師としての役割を終えても、避けて通れない、色々なものがあるようです。
「ちょっと来て」
 手招きして僕を呼んでる。他に誰かがいればいいのに、と意味もなく後ろを確認したが、誰もいないし壁しかない。
「とーぼーそらだってば」
「……やっぱり」
 もう、何も言わずに帰してください。
 また溜め息が漏れ、疲れがどっと押し寄せてくる。
 仕方なく……いや、どうしても通らねばならない先輩の部屋のドアの前まで行き「何ですか?」と聞くと、腕を引かれた。
 反射的に脚を踏ん張り、何とか室内に入ることだけは避けた。
「な、なんのつもりですか!」
「そっちこそ、なに構えてんのよ!」
「いや、今、先輩は僕を部屋に連れ込もうとしたでしょ!」
「そうよ! 何が悪いの!」
 開き直られた? というより、まさにその通り。いや……何が悪いんでしょ?
「いいから……とっととはいんなさいよっ!」
「うぉあ!!」
 火事場のバカ力というか、先輩の本気の力なのか、それとも僕の油断か……とにかく、先輩は手が抜けそうなほど引っ張ってきた。腕がどうにかなったらたまんない! 防衛本能ゆえに彼女の部屋へと踏み込んでしまうのだった。
 あ゛あ゛あ゛あ゛……。
「素直じゃないんだから、ホントに……」
 僕は自分には正直ですよ。素直に拒否してたんですから。
 何もできずにあわあわしてたら、廊下と繋がっていたドアが閉められてしまった。
 も、もう、あかん。きっと先輩に意味不明なことで勝手に弱み作らされて、一生先輩の言いなりになる運命なのか……。
 きっとそうに違いない。
 だって何がなんだか、わかんないうちに、先輩が、僕に、抱きついて、んだから!
 は、は、はひぃぃぃぃ!!!
 写真撮られてばら撒かれるのか!?
「思ったとおり……いい体してるよね」
「へ?」
 何だか溜め息まじりにそんなことを言ってる先輩に、思いっきり拍子抜け。
「……きもちい……」
 な、何で!?
 僕は固まったように身動きひとつせず、突っ立っていた。
 先輩はしばらく、黙ったまま僕に抱きついていた。
 かなり喋るし、すぐ手が出そうなイメージがあるだけに、後々なにかありそうで怖かった。
 ただ抱きついてるだけで満足したのか、先輩は用が済むとさっさと部屋から僕を追い出した。
 もぅ、一体なんなんだよ!
 とりあえず、一階のダイニングに顔を出し、桜井先輩のお母さんにあいさつしてから帰る――んだけど、とてつもなく、家までの距離が遠かった。
 少し肌寒いし。ずっとマナーモードにしてた携帯は、僕が気付かなかっただけで自宅からかなりの着信が入っていた。
 恐る恐る電話を掛けてみると……、

「こんな時間までなにやってんのー!!」

 と、母はかなりお怒りの模様。
 正直に先輩の弟の家庭教師をやってたことを話したものの、やはり怒り治まらず……、
「それでも、電話の一本ぐらいよこしなさい! 何のための携帯なの! ま、後は帰ってから話ましょ」
 と、一方的に切られた。
 それから四十分ぐらい掛けて自宅まで帰り――十一時過ぎ。
 説教と言い訳と説明に十五分。
 風呂に入って自室に戻ると、十二時前。
 時計を見てどっと疲れが出てきて、布団にばったり倒れると、そのまま目を閉じた。

 ――なんで抱きつかれた?

 ……あ!
 僕は布団から体を起こした。
「しまった……せめて口止めしとくべきだったか……」
 独り言、ぼそり。

 ――とーぼーそらはいい体してるぞ〜w
 とか、
 ――襲われた〜!!
 とか言われたらたまったもんじゃない!
 明日の朝でも間に合うか……変なウワサがたつ前に、先輩は黙っていてくれるだろうか。とてつもなく不安になってきた。
 けど……疲れの勝ち。
 どうにもならないことを考えたって無駄。さっさと寝る。
 明日――何も起こらないことを願って。

 NEXT→ 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【7】

 義理の母は16歳☆ TOP




2008.08.31 UP