■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【5】
5 かてきょーサッカー少年 天空(仮)
――二年三組の教室にて、休み時間の他愛ない女子生徒同士の会話。
「一年の推薦で入った子、スゴイらしいよ」
「何が?」
「成績。中学時代、常にトップ。あげくサッカーで得点王」
「え? ホント? サッカー部、見に行こうかな」
「背も高くて、見た目もかわいくて……」
「あら、それ、誰だか教えてくれる?」
「えっと……ひがしかた、てんくう?」
「えー、違うよ。とうほうてんくう、でしょ?」
何とも曖昧な情報だけど、あたしはすぐにその人物だと分かった。
ひがし――東。
かた――方。
てん――天。
くう――空。
「とうぼう……そら」
思わず口元が緩んだ。
バカで天然すぎて手の付けようのない弟の、家庭教師、みーつけたw
□□□
「ふぇーっくし!」
急に鼻の奥がムズっとして、くしゃみ出ちゃった。
別に風邪なんてひいてないのに、反射的に鼻をすすって、鼻を指でつまんでいた。意味のない行動。
「ソラちゃん、ソラちゃん」
馴れ馴れしく僕の名を呼ぶのは――入学式当日に話しかけてきたクラスメイト、杉山亮登。そんなに仲いいわけじゃないけど、というより、名前以外知らないんだけど、その馴れっぷりに何だかこっちもフル開放させられてしまう。
いや、女の子じゃないのがとても残念なんですけど。女の子だったら「ウチ、来る?」なんて言ってくれたらその気で行きます、もちろん。ウチ、無理なんで。
という部分が似たもの同士らしく、類は友を呼んでいた。というか、杉山の方から勝手に来たんだけど。
「同じ中学出身でオススメの女の子、いたら紹介してよ」
と、こっそり言うならまだしも、声、デカいって。
「いやぁ、オススメはちょっと……」
みんな他校生になってしまいました。だからココに普通にいられるとも言う。とても紹介とかできるどころじゃない。むしろ気まずいぐらいだし。
「じゃ、女子高に進学した美少女A子あたりを……」
「だから、いないって、そういうの」
えらく食い下がってきて……それじゃ、モテないよ。僕も女だったら杉山は遠慮したい。
「ちぃー、つまんねーのー。いいもん、いいもん。センパイにかわいがられる下級生目指して頑張るもーん」
いや、お前には無理だ。エロオーラが全開すぎる。
まぁ、そんなことはどうでもいいとして……今日も部活があると思ったら……楽しみなのに、気が重いな。
部活を終え、桜井先輩に言われた通り駐輪場で、自分の自転車の後ろで、彼女を待っていた。
「東方、彼女待ち?」
「いや、まさか……」
「もしそうだったら、ぶちのめす〜」
「先輩の俺らを差し置いて、先に彼女を作るような奴じゃないよな〜?」
同じサッカー部の先輩たちが僕の姿を見ては声をかけてくる。
さっさと来てください。ここで待ってるのも色々辛い。だからといって、人がいる時に来られるのもイヤだ。とにかく、誰もいないスキにさっさと――。
「さ、行くわよ」
わ! 急に現れないでください!
それに、待たせておいて、何にもなしですか?
まぁ、ちょうど誰もいないタイミングで来たというところは評価しておきます。
で――さっさと自転車にまたがって先に行くんかい!
「どこ行くんですか?」
目的地も告げられずいきなり、行くわよ、じゃ意味わかんないって。
「あたしんち」
桜井先輩は振り返ることもなければ止まることもなく、そのまま普通に自転車を漕いでいた。僕との距離は開くばかり。とりあえず、彼女を追いかけてから考えた。すぐに思考はフリーズしかけたパソコンのごとく、処理がやたら遅かったり、反応なしになったり……。エラー報告、送信。
――――は……へ?
ブルースクリーン――再起動。
ちょ、待って。それはあまりにもいきなりすぎて、突然すぎて、とてもあなたには欲情できないというか……ものすごく、い・た・ぶ・ら・れ・そ・う・で、いやだ!
「中学時代、成績が常にトップだったらしいわね」
なんですかそれは。これからのことに何の関係があるというのですか。それに、どこからそんな情報を入手してくるんだか……。
「そして、スポーツも万能。言うことないわ」
――この身体の締まり具合……って、と、とって食われるんですか、やっぱり!
「詳しい話は――ウチでするから」
「いや、ここでしてください!」
危険だと思ったら、すぐに逃げるから。
「……せっかちね」
せっかちもなにも、身の安全第一!
「できの悪い弟の家庭教師を頼みたいの」
「……だったら普通に申し出てください」
変に心配して損した……強張って構えてた体から、急に力が抜けた。とりあえず、変な方向に予想してしまった部分、消去、抹消、とにかく取り消してくれ。僕の脳内から排除! バックアップはいりません。そのままささっと初期化しちゃいましょう。むしろしてくれ。
「なに赤い顔してんの」
「別に。夕陽のせいじゃないですか?」
話をしてる間、全くこちらに向かなかったくせに、悪いタイミングでこっち見るな! 心の中では青い顔なんですよ。
我が家からはどんどん離れていく。目的地がどこかは最初に聞いたけど、それが学校からどっちの方向にどのくらいの場所なのか、というのを聞き忘れていた。
要は僕の家とは逆方向。しかも学校から三十分以上という距離。
周りの家はどんどん少なくなり、真っ暗だったら危険な場所じゃないかとさえ思う、市内の端に位置する田舎な地域。
桜井先輩の弟って、姉を見て育っただけに、不良さんとかじゃないよね? その辺りがかなり引っかかるんですけど……もし、完全にアウトな場合は断っていいのか? というか、誰もやるだなんて言ってないんだけど――今ならまだ、間に合うか!?
「すみません、やっぱ僕、家庭教師って器じゃ……」
もう、これ以上桜井先輩に付き合うのも危険な気がしすぎて……。
「あらぁ……月、三万も出るのよ?」
つき、さん、まん、えん!!!
「ま、まぁ、とりあえず、今日一回やってから考えます」
大真面目にそんなことを言い出す僕。先輩は満面の笑みをこちらに向けて、またすぐ正面、進行方向を向いた。
負けた――三万円に負けた……僕の意思、三万以下。意味は違っても、安っぽい男なのは現在も進行形なのか。
毎日、帰りに、買い食い! ああっ!! ――よだれ、よだれ。
くそっ、育ち盛りめ……。月に三万と僕の小遣いで、いったいどれだけ食べれるか! 毎日おにぎり一個は確定! 一日一〇五円程度でも毎日食える。ヒャホーw でもしかし、イヤでも桜井先輩と顔を合わせねばならなくなるんだよなぁ……彼女の自宅でカテキョって、はぁぁぁ。何考えてんだ、僕は。目先の金イコール食い物に目がくらんだか。そうです、それでしかありません。……バカか、僕は。バカだよどーせ。バカチンですよ。いやいや、まだ断れる。よし。とりあえず今日、その弟くんに会ってみようじゃないか。それからでも遅くない。断れれば……いや、断る! 三万が何だ! くそっ……。
何だか色々……心の中でケンカしていた。
自転車、運転中なのに。目の前に桜井先輩がいるというのに。
何だか周り――田植え前の田んぼばっかりになってきました。一面、茶色い。時々、緑(草)。ところによって一時、桜井伊吹。強引をともなうでしょう。
NEXT→ 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【6】
義理の母は16歳☆ TOP
2008.08.26 UP