■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【4】
4 東方天空と桜井伊吹の何かとめんどくさくなってきた関係
「ただいまぁ〜」
「おかえり。遅かったじゃないの」
「まぁねぇ〜」
「さっさとご飯食べて、大志の勉強見てくれる?」
「えー」
だるい。面倒。どうでもいい。
何で弟の勉強を見て、教えねばならんのだ。
まぁその分、小遣いは多めに頂いてますけど……やっぱり面倒なものは面倒で、そんなの実際どうでもいい。
「ねぇ、あたしの変わりに大志に勉強教える人、探してきたらいくら出す?」
「家庭教師ってこと?」
「まぁ、そうなるわね」
「そうね……三万ぐらい出してもいいかしら。心当たりでもあるの?」
「……全然」
「だったら、伊吹が大志を見てくれるしかないじゃない」
三万も出すぐらいならあたしにそれだけ払うか、ケチらないで家庭教師を正式に雇えよ。こっちもこっちで色々あるんだから。
桜井大志、中学二年生。
何だかぽや〜っとしてて、アホでドジでマヌケでグズでバカでおっちょこちょいでチビで小学生みたいで、見てるとホントに腹がたつ、かわいいかわいいあたしの弟。
ぽや〜っとしてる性格のせいか、勉強がイマイチ。そして運動もダメ。ダメ。何をやってもダメっぽい。
だからできのいいあたしに、母が弟を頼むのも分かる。わかりますよ、そんなの。だってあたし、容姿端麗、成績優秀、何をさせてもパーフェクトですもの。きっとあたしが完璧すぎて、弟があんなのになっちゃったのね……。ホント、あたしって罪な女だわ。
――と、自己評価はこの程度にしておいて、面倒なことから解放されて、自分の時間をもっと確保して有効に使うには、他の誰かに大志を任せるのが一番なんだけど……適任者、出て来い!
今なら漏れなく、三万円出るわよ。らしいわよ。出なかったら知らないわ。
アタマがよさそうな一年でも一人、かっさらってこようかしら。
□□□
あたしが言うことは絶対よ! 文句は……言わせないわ!
なオーラが出ていたせいか、僕は部活中、ボールの行方を誰よりも真剣に、誰よりも神経をすり減らしつつ追いかけていた。
――ボールは僕の友達だ!
とある有名な漫画の影響を受けてサッカーを始めたせいもあり、夢中になってしまえばそんな約束を忘れて無我夢中にボールを蹴って追いかけてたさ。
よし、ゴール目前! 一発キメてレギュラー確定、きぃぃぃぃっく!!
しかし、僕のシュートはあっさりキャッチされていた。
ブランクのせいか。それともこれが高校サッカーレベルで、僕は所詮、中学生程度の技術でしかないのか。
どちらにしても悔しい。僕はこれでも、中学時代は得点王と呼ばれていたこともあったような、なかったような……。空耳だったのかも。
くそっ、次は――!!
「どうだい、東方。ウチのキーパー」
僕の近くにいた上級生(相変わらず名前が不明な者が多い)がそんなことを言ってくる。
「いや……入る自信あったんですけど……」
口にしてしまうと余計に悔しさ倍増。
「アレに止められないボールはないよ。一年のときからそう特訓されてる完璧キーパーだから」
完璧キーパー?
「ウチのサッカー部が全国大会に出られるのも、あのキーパー……青木あってこそ。相手に絶対得点を許さないからね」
キーパーである彼(何年生かは不明)は猛特訓の末レギュラーキーパーになり、今まで一点も入れられたことがないらしい。さっき僕が蹴ったのも見事軌道を読み、ボールに喜んで飛びつかれていた。
「もう一回やってみ。フェイントも効かないから」
まさか、そこまで……。たった一回ガードされたぐらいで……。
僕は先輩に言われるがまま、渡されたボールでもう一度ゴールに向かって……蹴ろうとしてやめ、蹴った。
右上の角。ギリギリ入るはず。
しかし、
「うっきょ〜!」
と、コイツヤバい! と思うような奇声を発しながら飛ぶ――ものすごい跳躍力。そして伸ばした両手でがっちりボールをキャッチ。僕のボールは阻止された。
あれをキャッチするか!? ボールに触れて軌道を変えて入らないようにするならまだしも、彼はボールを取っているのだ。そして、
「あっまーい!」
と言いながら、ボールを思いっきり相手ゴール側へと投げるのだ。
……いやまて。そっちは普通なら相手ゴールであり、何も考えずに思いっきり投げられて困る事もあれば、困らない場合もある。だけど今はあっちの相手は野球部で、見えないフェンスがあって、何だか対立してて、ヤバげな感じがします。
いや、マズいですそれ。
「と、と、飛ばしすぎです!!」
誰もそこにいません! むしろ、野球部員がいます。天敵です。戦争が起こります!
僕はとにかく、そっちに飛んでいくボールを全力疾走で追いかけた。
中三の夏に部活を引退してからろくに動いた形跡のない僕はただの運動不足部員。思うように脚は動かない。もっと早く走れたはずなのに……。野球部エリアに向かって飛んでいくボールにはとても追いつけそうになかった。
いや、ボールを見ながら追うからいけないんだ。前だけ見て――って!!!
前方およそ二十メートルのところに、バットを構えたジャージ姿の華奢な人発見。
まさか、サッカーボールをバットで打ち返すとか……さすがにしないですよね?
明らかにその人物、桜井伊吹。ボールを睨みつける真剣な眼差し――これは、本気で打ち返されるかもしれない!!
サッカーボールは彼女の方に向かって飛んでいる。
「いいコースね。だけど……」
バットの構えがぐっと深くなり、その反動で一気に打ちの体勢に入った。
彼女はボールを確実に捉えていた。しかし、大きさの関係上、思いっきり打ったら手首がイカレるんじゃ……!!
「桜井先輩!」
「あまいわぁぁぁぁああああああ!!!!」
ボン! という聞いたことのない音がして間もなく、
「――――――?!」
僕の腹に、桜井先輩が打ち返したサッカーボールが食い込んで、息ができなくなって、声も出なかった。走ってボールを追いかけてたはずだけど、地面に倒れてた。
「……あ、あれぇ?」
「が……がぶぶ……」
「ご、ごめん、とーぼー! そんなつもりは全くなくて……」
そうですよね。わざとだったら訴えます。訴えたいです。
野球部エリアに程近い、サッカー部エリア内で、僕が蹴ったボールはキーパーにキャッチされたあげくとんでもない方に思いっきり投げられ、それを桜井先輩が打って、僕の腹に食い込んでまで戻ってきた。
……僕がこの学校を選んで推薦で来た意味がどうもイマイチ、未だに分からない。
この扱い……何?
「ああっ、いかん。とーぼー、白目だよ!」
「伊吹さ〜ん、さすがにマズいって」
「ごめんなさい。こんなことするつもりはなかったんだけど……とりあえず、保健室に連行しときまっす。あたしがいない間に、好都合だと言わんばかりに乱闘起こさないでくださいね!」
それは念押しするんですね……。ああ、息がまともにできねぇよ。マジヤバイ。ここで僕の人生、終わりってことはないよね?
何で二日に一回の割合で保健室に通ってんだか……。
「ひっひっふー」
「それはラマーズ法」
――出産の時のやつですよね?
「とーぼー、肺は潰れてないぞー」
まだ声を出すどころじゃないので、右手を軽く上げて合図だけ送る。相手がどう解釈するかはもうどうでもいい。
――じゃなきゃ死んでます。
心の中で突っ込みをいれつつ、呼吸はまだ苦しいが何とかできていて、窒息死だけはしたくないな、って思うほどに苦しかったピークは何とかかんとか過ぎた後。
「ああもぅ! こんな時に保健医はなにやってんだ!」
そんな今回も前回同様、保健医不在。ホントに、なにやってんですかね。
腹はまだ痛いけど、息苦しさが治まったので部活に戻ろうとしたころになって戻ってくるし。
「あら? あなたたち、なにやってるの?」
なにやってるの? はこっちのセリフだ! なにしてやがった、保健医!
「ちょっと腹にサッカーボールが食い込んで……もうよくなったから部活に戻ります」
「あら? そう。呼びにきてくれたらよかったのに……ごめんなさいね」
もう過ぎたことだ。今後はちゃんと、保健室で待機しておいて欲しい。じゃないと……保健室の備品や薬品が、とてつもないスピードで消費されたり、けが人であるはずの僕が被害にあったりします。
そんな僕のティーシャツに隠れた腹には……外傷は全くないというのに無駄に消毒液をぶっかけられたあげく、クリーム状の経皮鎮痛消炎剤をたっぷり塗られたあげく、湿布を隙間なく、腹全体にぎっしりと一袋分。きっと、冷えすぎて腹の中が……きっと、下す。
言うまでもなく、クリーム状の薬のせいで湿布が剥げるものだから、大量のテープで止められ、大袈裟に三本分の包帯がきっちりギューギューに巻かれていて……取るのもまた一苦労な状態。ハサミが入るだろうか……。できるだけ出さないようにしてるけど実際かなり息苦しいし。
何でここまで後先考えずにできるものか、不思議でならない。
そして、グランドに戻ればイヤな状況。
睨みあってる。睨みあって、今にも飛びかかりそうな……。
ああもぅ、確か保健室に行く前に釘刺したはずなのに、やっぱダメですか、この人たちは。
乱闘寸前。
「とーぼーそら!」
「は、はい!!」
勢いのいい桜井先輩の声に僕はビビって裏返った声で返事した。
「部活終わったら……駐輪場で待ってなさい。話がある」
そういい残すと、桜井先輩は両部を隔てる見えないフェンスへと勢いよく駆け出していた。
「くぉぉぉらぁぁあああああああ!!!! オマエらぁぁぁあああああ!!!!」
何だかイヤなヨカーンを感じてしまった僕は、その場で立ち止まり、身震いしていた。
今日は何だ!?
ポテトが辛くてなぜおいしい!?
ハンバーガーは三口で食べます。
Sサイズのポテトは一つかみで頬張れます。
コーラの一気飲みは鼻から出そうで怖いです。
……えっと……まぁ……ですから……なんで……僕をいちーち指名しますか、あなたは!!
時間よ――止まれ!
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2008.08.19 UP