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  2 サッカー部と桜井先輩と僕


 入部届 サッカー部 1年3組 東方天空

 次の日、状況を分かっていながら、とんでもないところに足を踏み込もうとしていた。
 根っからのサッカー少年なもので、どんな困難があろうとも、やっぱりサッカーがやりたいようです。あんな状況だからって簡単に諦められるほど、適当なかじり方はしてません。
 入部届けを提出したその日から、練習に出るよう言われ、
「西中の東方だろ? 期待してるぞ」
 なんて期待されてるし。
 昨日の腕の傷。冬服だから誰かに見つかってウザいほど聞かれたりというのはないんだけど、あれから痺れるように痛む。授業中はノートを取れないし、取る気はないけど。痛みでイライラするときもある。だけど特に問題はないだろうし、そのうち治る。


 放課後――サッカー部の部室。
 新入部員第一号の僕は、先輩方にあいさつをしていた。
「西中出身の東方天空です。よろしくお願いします」
「昨日は散々だったな」
「あははは」
 苦笑いで誤魔化してみた。できればそこは触れないで欲しい。忘れたい傷が鈍く痛む。
「それで分かったと思うけど、ウチの部は練習場所の関係で野球部と対立している」
 いや、そんなのでよく県大会で優勝できるなーって思うんだけど。満足できる練習は期待できないし、その分、団結力はものすごいものを感じるけど。
「とりあえず、野球部にはあまり関わらないこと。特に――桜井伊吹だな」
 え!? それってあの人……だよね?
「マネージャーの女……あれは……ぼふっ」
「あたしのこと、呼んだ?」
 突然、部室のドアが開き、その前に立ってた部長(だと思われる人)に思いっきり当たり、飛んで、顔面から床に倒れた。どんな怪力で勢いよく開けたんだか……。
 彼女は部室内にいる二十人ちょっとの中から僕を見つけ、何だか嬉しそうな顔をしながら指差してきた。
「お、とーぼーそらくんだ。そっちに行っちゃったんだね。キミなら坊主アタマが似合うと思ったのに……」
「やめてください」
 坊主アタマだなんてとんでもない。
 ふと桜井先輩の制服姿に違和を感じた。初めて見たのがジャージ姿だったから、というのではなく、どことなくウチの高校の制服と違うような気がした。
 まず、ネクタイ。女子はリボンのはずだが、彼女は男子用のネクタイを締めてるし、スカートが標準値より短くなっているのに、その分きっちりスパッツでカバーされている。
 とまぁ、ほんのちょこっと、誰もが見落とす程度のものだけど。
 いや、それはともかく、サッカー部の部長さんが……。
 そんな僕の視線を追い、ようやく気付いた桜井先輩。
「あら、新山センパイ、床に顔面突っ込んで寝てるんですか?」
「違いますって! 桜井先輩がドアを開けた時に当たって飛んじゃったんじゃないですか」
「え? そうなの? すみませーん。何だか呼ばれた気がしまして……お呼びでないなら失礼しまーす」
 僕の説明もさほど気にせず、何事もなかったように桜井先輩は軽く頭を下げてからドアを閉めた。
「東方……とにかく、アレには関わるな……」
 桜井先輩が「新山センパイ」と呼んでいた人物――ドアで吹っ飛ばされた人は僕に向かってそう忠告してきた。だけどもう、遅い気がしてならないんだけど……名前もフルネームで覚えられちゃったみたいだし。
「よし、とりあえず、野球部より先にグランドへ行こうじゃないか、諸君」
「おお!」「今日も頑張るぞ!」「打倒、野球部!」「めざせ、甲子園打破!」
 と、ぞろぞろ……新山先輩を筆頭に、部室からボールの入ったカゴを引きずりながら出て行く。僕、唖然。しばらくお待ち下さい。

 いや、あの、何か間違ってませんか、根本からして。目指すものを間違ってます!
 それより……僕だけ自己紹介して、先輩方の紹介ってのはないんですか? 部長は誰ですか? どこからどこが二年生で、誰が三年生で、どこのポジションなんですかー!!
 っは! お、置いて行くのか、この僕を!
「ま、待ってください!」
 まだ着替えてないのに、右も左もわからないのに、ヒドイよこの扱い。
 わたわたと、慌てすぎて、もつれ転びそうになりつつ、中学時代に使ってた練習スタイルに着替え、部室から飛び出す。
 と、まだ部室の前で練習に必要な道具を揃えている野球部員たちと目が合い、しこたま睨まれた。
 こ、こえー。おっかねー。関わりたくねぇー、けど、僕がサッカー部に入部を決めてしまった段階で、あちらを敵に回しているのであり、関わりたくなくても既に遅し。これから先、存分に関わることになるであろう。
 ユニフォーム姿だったからきっと上級生だ。変な因縁つけられて、拉致られ私刑にでもあったらたまったもんじゃない。
 だからとりあえず、軽く頭を下げてから、走ってグランドへ向かった。

 最初のうちは、僕の腕試しみたいな感じで、軽く試合形式のようなものをしていたのだが……野球部のボールがサッカー部ラインに入ってきた瞬間――僕以外のサッカー部員はグツグツと煮立った湯のごとく、沸騰してしまった。
 ここからは練習らしい練習ができなくなり、今日も野球部との口論などに当てられた時間の方が長かった。
 ……双方の顧問、どうにかしてください。
 この、無駄な争いにどうか、終止符を――。


 部活初日の帰り。
「お疲れ様でしたー」
 先輩方にあいさつして部室を出たとき、運悪くそれと同時に野球部部室から出てきた桜井先輩。
「おー、とーぼーそら。偶然ですなぁ」
 だから何でフルネームなんですか。
「偶然ついでに、途中まで送って帰りなさい。送って帰ることを許可するわ」
 なんで偉そうなんだか。っていうか、何で送らねばならんのだ。
「それ、辞退できますか?」
「無理ね。あたしが決めたことだもの」
 なんてメチャクチャな。
「マク○ナルド付き添い権も付けてあげるわ。お得でしょ?」
 お得もなにも、何でこの中途半端な時間にファーストフード店に誘うんだか……。まぁ、腹減ってるけど。
「……つべこべ言わずに、さっさと行くわよ! ポテトが食べたいんだから!」
 何も言ってないのに……腕を引っ張られ、駐輪場で徒歩から自転車にお乗換え。桜井強引ぐマイウェイ鉄道の二車両は、高校を定刻より五分遅れて次の駅――マク○ナルドへと向かうのだ。
 そして、学校から一番近い店舗に到着したのだが、ここでも彼女はとんでもないことをやらかしてくれた。
 僕はごく当たり前に自転車置き場に向かったが、彼女は自動車用の駐車場へ向かい……いや、ぐるりと回って、ドライブスルーへと入っていった。
「ちょ、何やってんすか!?」
 さすがに僕もそれを止めようと思ったのだが、
「あー、ちょっと待ってなさい」
 恥ずかしさとか慌てたりしてる僕なんかきにもせず、当たり前のように、落ち着いた声で答えた。
 自転車でドライブスルーに入ってもいいらしい。
 いいんだと思わせるような言い方だったじゃないか。
『申し訳ございません。店内でお願いします』
 断られてるじゃないか!
「なによ、ケチ! 店内で買うのが面倒だからここにいるんじゃない!」
 撤回しときます。自転車でドライブスルーは利用できません。むしろ、しないでください。罰ゲームにはもってこいですけど。
 なので結局――店内で注文し、店内でお召し上がりになっていた。
 つーか、この人と一緒に入ったら、僕がこの変人のツレだと思われる。イヤだ! イヤだった。僕も変人と同じ扱いじゃないか。
 店員の目が……少し冷たくて、スマイルなんて注文できなかった。
「ポテトのLサイズと、オレンジジュース。とーぼーそらは?」
 もう、ここには二度と来れない……。というか、来たくない。
 フルネームはやめろ。だけどその言い方だと、桜井先輩のおごりのように聞こえるのだが、彼女がそんないい人だろうか。容赦なく野球部員を蹴り飛ばす人だぞ? 僕は疑いつつ、一番安いセットを注文し、会計は、
「じゃ、払って、持ってきて。座ってるから」
 こんな人だ。わかっていたさ。こうなることぐらい。例えドライブスルーで買うことができてても、会計で僕を呼ぶんだろ?
 僕は仕方なく、二人分の支払いをしていた。さよなら、千円札。いらっしゃい、小銭たち。何でおごらされてんの? これ、かつあげ?
 商品が乗ったトレーを持って、知り合って二日目の先輩が座る窓際の席へ。
 薄暗くなってきた窓の外を、テーブルに肘をついて眺めている横顔――それだけなら別に構いはしないんだけど。黙ってじっとしていてくれれば、並以上……いや、美人と言っても過言ではない容姿。そう、黙っていれば……。
「遅い」
 黙っていれば……。なんでその口からは毒しか出てないんだ。
「遅いと言われましても、そんなに時間経ってないじゃないですか」
「座って三十秒も待ったわ」
 んな、メチャクチャな……。

 その口から発される毒から想定し、つまめるだけつまんで口の中に押し込む様子を僕は想像していたのだが、容姿に似合った食べ方をしていた。
 彼女が注文したポテトを一本ずつ、つまんで、ゆっくり食べていた。意外と上品らしい。
 一方、僕は――腹減りピークのせいで、ハンバーガーとポテトを押し込むようにむさぼり食い、あっという間に完食していた。
 イヤな予感がしたから、一番安いのにしたからなぁ……。いつもなら、最低でもセット三つにサイドメニュー三品だもんな。
 あー、まだ食いてぇ。腹イッパイになるまで食いてぇ……。でもそんなに金持ってねぇ。

 十分後、Lサイズのポテトを食べ終わった彼女の口から何が飛び出したかというと……。
「今日のLサイズは五本少なかったわ」
 いちーち数えてんのか!? それは何が基準なの?
 ホントに中身がどうなってんのか、よく分からない人だ。
「さて、本題に入るとするか……」
「え? 帰らせてもらえないんですか? だいたい、本題って何ですか? ポテトが食べたいだけじゃなかったんですか?」
「そうだけど。他にも用事があることにたった今、気付いたの」
 たった今かよ。前もって準備はせず、行き当たりばったりなんだな。あなたらしい気がするよ。
「で、何ですか、その本題というのは」
「野球部とサッカー部のことよ」
 これは……興味ある話題だ。僕はつばをごくりと飲み込んだ。
「仲が悪い原因……それは……」
「それは……」
 って、いきなりそこから入るのか。まぁ、長ったらしいいきさつを語られるよりはいい。早く帰ってご飯食べたいし。
「次回予告! 野球部とサッカー部、因縁の謎。前編」
「後編まであるんですか? いや、別に引っ張らなくていいですから。さっさと話してください」
「……そうね。暗くなってきたし、送り狼に襲われちゃたまんないわ」
「襲いませんよ」
 あなただけは、間違っても襲いません。誰も送るなんて一言も言ってないし。


 しかしページの関係で、本題は次回まで引っ張られる結果となる。
 恐るべし、桜井伊吹の暴走。

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2008.08.04 UP