■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【20】
【20】
「出血量が――」
「先生、血圧が――」
――頑張るからね。
――もうちょっと待ってね。
――元気な赤ちゃん、産まれるよね。
――楽しみ。裕昭と、赤ちゃんと三人で暮らすの。
「吉武さん、ロビーでお待ちください」
いやだ、貴子!!
「――停止」
「――マッサージ」
「――切開、準備」
「吉武さん!」
「……杉山さん……もう、だめだ」
諦めたら、目の前が真っ暗になった。
「男の子です。小さく産まれたので、しばらくNICUに入ります」
看護師と保育器は足早に去っていく。
「吉武さん、手は尽くしましたが――」
僕は分娩室に向かって駆けていた。
「吉武さん、待ってください、まだ……」
血が、真っ赤で、
現実が受け入れられず、狂ったように叫んだ。
結さんが泣いていた。
杉山さんのご主人も、亮登を抱いたまま、俯いていた。
僕は、涙が止まらなかった。
喉が痛くて、声も出そうにない。
貴子は家の布団で寝ていたけど、何度起こしても起きなくて、青白く冷たかった。
セミが、鳴いている。
気付くと、家には近所の人が入れ替わりたちかわり訪れていた。
黒い服を着て、ハンカチで目頭を押さえる者もいる。
僕に向かってお辞儀して、涙まじりに何かを言ってくる。
「ご主人、まだ若いのに……」
「奥さんもまだ若かったでしょ? どうしてこんなことに……」
年齢的にはまだ若い範囲なのかもしれないけど……。
「綺麗な顔して……」
どうでもよかった。
一人にしてほしかった。
貴子と二人きりにしてほしかった。
坊さんのお経は、続いていた。
紐がついたうずまき線香の煙が、静かに立ち昇っている。
家中が線香の煙と匂いでいっぱいだった。
「明日の十時から葬儀で、十二時には出棺だって」
何もかも、春斗さんと結さんがやってくれて、僕はただ、第三者のようにその様子をみていただけだった。
「大丈夫? 裕昭くん……って、大丈夫なわけないか」
「……何で、僕がこんなめに遭わなきゃいけないんですか」
「裕昭……」
「親に結婚を反対されて、ここに逃げてきたのがいけなかったんですか? 僕が貴子を妊娠させたからいけなかったんですか。僕は……貴子の親に、どう謝ったらいいんですか! 僕は……」
涙がどんどん溢れてくる。自分でも何を言ってるのか分からなくなっていた。何もかも、僕が悪いとしか思えなくなっていた。
だけど誰も僕を責めてはくれない。優しく声を掛けてくれるだけ。それさえも辛いとしか思えない。
何かを差し出してきた。顔を上げると、涙で歪んだ視界に、なんとも言えない表情の結さんが僕に封筒を差し出していた。
「貴子さんから預かってたの。自分にもしものことがあったら、裕昭に渡してって……」
僕はそれを受け取った。
ただの茶封筒。封がしてある。
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2012.02.09 UP