■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【19】
【19】
貴子が入院した。理由は聞いたけど、女の体のことは全然分からないけど、このままだと産まれてしまうという状態らしい。
予定日は九月七日だった。
まだ、八月になったばかりなのな……。
貴子が入院した次の日の朝、病院から電話があって、点滴でもどうにもならなかったから、救急車で総合病院に転院するというものだった。もし、このまま産まれることになっても、対応できる病院の方が安心だから、と。
僕はバイト先に今日は行けないと連絡し、総合病院の場所が分からなかったから、県道まで出てタクシーをつかまえた。
総合病院に到着して間もなく、けたたましいサイレンを鳴らしながら病院の救急入口に救急車が止まる。
救急車から見たことのあるナース服の女性が降りてきて、救急隊員によってストレッチャーが運ばれる。
あの看護師は産婦人科のスタッフだ。今運ばれたのは……!
走って追いかけて、エレベーター前で追いつく。
「貴子、大丈夫か?」
「裕昭……ごめんね、心配かけて」
そのまま二階の分娩室に運ばれる。
まさか、このまま産まれるんじゃ……。
実感もなければその意味も理解できない。
「とりあえず、今は点滴で進行を抑えてますが……」
昨日の産婦人科で言われたこととほとんど同じ。
貴子は分娩室内にある部屋のベッドに移った。しばらくここで様子を見ることになるらしいが、相変わらず起き上がることも許されない状態。
手を握って、話し相手になるだけしかできない僕。
しかしここの部屋には面会で長い時間いられないらしく、僕は帰宅した。
そして次の日、医師から伝えられた。
「もう、出しましょう」
陣痛を抑える点滴から別のものに取り替えられ、貴子は自由に歩いてもよくなった。
もうすぐ、会えるのかもしれない。
予定日より早いから小さく産まれるだろうけど、この病院にはNICU――新生児集中治療室がある。大丈夫、万全なはずだ。
「頑張るからね。もうちょっと待ってね」
ベッドで横になったまま、お腹を撫でる貴子は僕を見上げる。
「こんなことになっちゃったけど、元気な赤ちゃん、産まれるよね」
僕は頷いた。
「楽しみ。裕昭と、赤ちゃんと三人で暮らすの」
「そうだね。三人で、幸せになれるよね」
頑張って、とキスをした。
分娩室から出された僕は、ロビーで待った。その時を。
夕方、仕事を終えた杉山さんのご主人が結さんと亮登と一緒に病院に来てくれた。
「吉武さん、大丈夫?」
「杉山さん、わざわざすみません」
「何もできないけど……じっとしてられなくて。貴子さんは?」
僕は、ロビーからは見えない分娩室の方を見て、
「まだみたいです」
と言った。
どうなってるのかも分からない。
「今日も暑かったけど、病院は快適ね」
確かに暑くはないが、いて気分がいいもんじゃない。
座って待つのにもいい加減飽きた頃、お産が始まったと聞き、立ち会いを希望した。
僕もその瞬間を、貴子と共に喜びたかった。
八月三日金曜日、午後七時。苦しむ貴子を頭もとで必死にはげました。
しかし、どんどん反応が鈍くなってきた。
「貴子、頑張って!」
室内の空気が変わった。
訳の分からない専門用語で話してる病院の人。
何が起こってるのか、分からないまま、分娩室から追い出された。
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2012.02.09 UP