■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【17】
【17】
一人で、自転車に乗っていろんなところを走った。
一日中走って、少しだけこの街に詳しくなった気がした。
家に帰ると、玄関までいい匂いが広がっていた。
まず台所に立つ貴子にただいまと言ってから、リビングに行って意味もなくテレビをつける。
床に直置きされているものが朝より多い。……電話が増えていた。
次の日も自転車で出た。
ただ、仕事の探し方がわからなくて、走り回ってた。
何も収穫なく、今日も終わる。
「おかえりなさい」
家の前で、自宅とは反対から声を掛けられた。声がした方を見ると、お腹の大きな女性がこちらを見ていた。杉山さんの奥さんだ。
しかし、子供の頃から思っていたが、他人に「おかえり」と言われたらどう答えればいいのか悩んでしまう。「ただいま」と言うには変な気がするし。
「こんにちは」
僕はこちらのあいさつを選んだ。
ここでちょうど車が通って僕と杉山さんを遮る。
杉山さんは僕に色々と聞いてきそうな気がしたから、助かったと思った。
その車は杉山さんちの駐車場に入り、運転席から男性が出てきた。短髪なのにスーツが似合う、落ち着いた大人の男性って印象。
「おかえり、春くん。早かったね」
奥さんはもう、ご主人にしか視界に入ってない様子。しかしご主人は僕に気付き会釈をしてきたので、僕も会釈で返し、家に入った。
ハルくんか……いいな、車。
どうせ免許もってないけど。さすがに免許取りたいとは言えないな。早く仕事見つけて、自分で何とかしないと。
また次の朝。なぜか新聞があった。
「昨日、ちょうど勧誘の人が来て。洗剤とかタオル、いっぱいもらっちゃった」
僕は新聞、番組欄しか見ないんだけどな……。まぁ、この辺りのことを知るのにはちょうどいい。見たことも聞いたこともない店の広告は少し面白く見える。その中の一枚に、求人情報が載っていたので、食いついて見た。
一件、条件が合うものあった。
宅配の荷物仕分け。アルバイトだけど、十八歳以上で、必要な資格もない。電話連絡の上、履歴書持参……履歴書、買いに行かねば。
「今日は街探険しないの?」
「うん。履歴書買いに行って書かないと」
近くのスーパーは十時からの営業だ。
自分の金で履歴書と、筆記用具を購入。この時初めて筆記用具さえなかったことに気付いた。ほんとに、必要最低限で出てきたんだな……いやいや。
かけおちっていうんじゃないの、こういうの。いやいやいや。
「貴子、配偶者って何?」
「裕昭から見たら私のことよ! 妻、もしくは夫がいるかってこと」
「へぇー」
配偶者、有にマル。
「扶養義務は?」
「養わないといけない人がいるなら有り」
……有り、になるよな。
そして最後の欄。
保護者……本人が未成年者の場合のみ記入。
……しまった。実年齢で履歴書を書いてた。二歳ごまかさないと……で、いいのか?
「履歴書に嘘の年齢書いちゃダメ、だよね?」
「当たり前じゃない」
「僕、未成年だから、保護者のとこ、書かないと」
「……書くの?」
「マズいよね」
ということ空欄。何か言われたら、口答しよう。
昼からは、履歴書に貼る写真を……。
「履歴書の写真、どこで撮るの?」
「……写真は写真屋さん」
そういえば高校の時、面接に行く会社に出す書類に写真を貼ったな。確かに写真屋で撮った。
「商店街に写真屋さん、あったわよ」
ということで、昼からは商店街に写真を撮りに行った。
カメラの前に座らされ、撮られて待つこと二十分。
四枚の履歴書用写真と引き換えに、財布から千円札が消えた。
さっさと仕事して、取り戻してやる!
帰りに、会社のある場所を探しに行った。
帰宅して履歴書に写真を貼り準備万端。
広告にあった宅配会社に電話し、明日の十時に面接の約束をした。履歴書と保険証を持参とのこと。保険証持参じゃ年齢詐称は無理だ。
面接に行く会社は街外れにあった。自転車で四十分ぐらい掛かる。
持ってる服の中で一番良さそうなものを着て、九時前に出て、約束の時間十分前に受付らしいところに声を掛けた。
「すみません、十時に面接の約束をしている吉武です」
すると、応接室に通され、しばらくすると、少し太ってるメガネのおじさんがやってきた。
面接にそう時間は掛からなかった。
採用、不採用はまた電話ですると言われた。
二日後、採用の連絡があり、面接から三日後、朝八時半から仕事になった。
六時半に起きると、貴子が朝食を準備していた。
「おはよう裕昭。もうすぐできるから」
何も言ってなかったのに、弁当まで作ってくれた。
動きやすい格好でと言われたから、普段着ている服で、リュックに弁当と水筒を入れて背負って七時半に家を出た。
ちょうど、杉山さんのご主人も出勤の時間らしく、見送りに奥さんも外に出ていた。
「おはよう、これから学校?」
!!?
な、な!?
杉山のご主人のとんでもないあいさつに、僕は唖然。奥さんは大爆笑。
「ち、違うよ春くん。あの人、吉武さんのご主人だよ」
「嘘っ! 大学生の息子じゃないの? ごめーん」
「べ、別にいいですよー」
わ、笑えない。これは笑えないよ。
この場から逃げるように自転車で走り出す。
「いってらっしゃーい」
後ろから杉山さんの奥さんの声。
やっぱり、僕は子供っぽいのかな。
NEXT→【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜 【18】
義理の母は16歳☆ TOP
2012.02.09 UP