TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【14】



  【14】


 平成も二年目、一九九〇年代に突入した。
 就職希望だが特に職種を問わない僕は、ただただのんびりとしていた。
 まだ一月だから、大丈夫。
 どうにかなる。なるようになる。
 学生感覚。

 その日も、貴子のアパートに行って、身体を重ねていた。
「もしも、だよ?」
「なに?」
「もし、赤ちゃんができたら、どうする?」
「嬉しいかな。結婚して、一緒にいられ……?」
 貴子は深刻な顔をしていた。もしもの話じゃない? 心あたりは……ある。
「高校卒業して、ちゃんと就職する! 結婚して一緒に暮らしたら――」
「きっとだめよ、許してもらえるなんて思えない」
 許し……? 年の差。
「結婚が許されないなら、今まで通りでもいい。許してもらえるまで頑張る」
 僕が何を言っても、貴子が表情を緩めることはなかった。

 これが、現実問題なのか。

 赤ちゃん? 僕との?

 好きな人と一緒にいたいから結婚するんじゃないの? なぜ許されない。



 それから、必死になっていろんな会社の面接を受けたが、手元にくるのは不採用の通知ばかり。
 今まではのんびりと構えていたが、貴子にあんなことを言われたせいか、さすがに焦りはじめた。


 毎週のように面接や採用試験を受け、ようやく一つの会社からの採用通知を担任から手渡された。
「頑張ったな」
「ありがとうございます」
 珍しく頑張ってきたかいがあった。


 そして真っ先に貴子に報告した。
「就職、決まった」
「ほんと? おめでとう」
 就職先が決まって、反対されるであろう理由の一つは消えた。
 あとは卒業試験。これが無事に終われば、高校を卒業できる。



 二月になった。就職が無事に決まったので、卒業試験のために勉強をしていた。案の定、母を筆頭に周りからは気持ち悪がられたけど、貴子だけは僕を応援し、励ましてくれた。
 そんな彼女から、決定的なことが伝えられる。
「私、妊娠してた」
「え、ほんとに?」
「うん。今日、病院に行ってきた。三ヶ月だって」
 そっと下腹に手を当てる貴子。しかし表情は……明るくない。
 僕は嬉しかったけど、貴子とは温度差があることに気付き、素直に喜べなかった。
 高校を卒業して、仕事が始まれば解決する問題だと思った。



 けど、現実は僕が思っていたほど甘くなく、冷たかった。



 夕食を終えて弟が部屋に戻ると、父がそれとなくこれからのことを聞いてきた。いずれ話さなければならないことなので、一応話してみようと思った。
 貴子のこと。
「一応、一通りの手続きは終わった。で、卒業したら……結婚、したいと、思ってる」
 突然の結婚宣言は、両親を絶句させた。しばらくして、皿洗いをしている母が手を止めて父の横に座ると、呆れたような口調で聞いてくる。
「結婚って、相手がいなきゃ成立しないでしょ?」
「一年以上付き合ってる人がいる」
「どこの誰よ、見たこともないのに……」
 その名を口にしていいか、少し悩んだ。でも、これからの人生を共にしたい人。父さんも、母さんも知ってる人だ。
「羽野貴子さん」
 更に驚く両親は顔を見合わす。
「羽野さんってあの……」
「看護師だろ、裕昭をケガさせた」
「年上ね。でも三十近いんじゃない?」
 当然、彼女のことは何も知らない。
「僕より二十歳上で……彼女は、妊娠してる」
 その瞬間、父の顔色が変わった。
「お前、何を……」
「僕は彼女と結婚する!」
 決意を、強く宣言したつもりだったが、理解されなかった。
「結婚は遊びじゃない! 恋愛ごっこの延長だと勘違いでもしているのか!」
 父にこれほど怒鳴られたのは初めてだった。でも、僕だってごっこ遊びで結婚しようなんて考えてない。
「僕は真剣に――」
「子供が軽々しく結婚などと口にするな!」
 こ、子供!? 就職も内定して、高校卒業しようってのに、まだ子供? じゃ、いつから大人なんだよ。成人したら?
「それでも、僕は――」
「歳が二十も上、お前はあの女にたぶらかされっ――」
 殴ってた。こぶしで、父さんを。許せなかった。
「何も知らないくせに、彼女を侮辱するな!」
「……何もできない子供が……」
「子供扱いするなっ!!」

 僕は大人だ。高校を卒業したら、大人と一緒だ。
 なのになぜ、大人じゃないんだ。

 家を飛び出して、無我夢中で走って、川土手で大の字になってた。

 思い描いていた未来が真っ黒に塗り潰され、何も見えなくなっていた。

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2012.02.09 UP