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  【12】


「ねーねー、どこ行ってたのー? お姉ちゃんにも言えないのー?」
 夕食を終えて部屋に戻っても、呼乃羽ちゃんはしつこく聞いてきた。
「軽々しく言えません」
「……そうか、彼女んとこか」
 !!?
「んな……」
 姉、僕の反応にニヤリ。しまった。
「そうだよね。裕昭、もう高校生だもんね」
「……そうですよ。僕、高校生ですもん」
 まぁ、呼乃羽ちゃんならいいか。そのぐらい知られても。
「どんな子? どこの学校? 年上、年下、同学年?」
 すごいきれいな人。脳外科の看護師さんで、言えないほど年上。
「それはノーコメントで」
「えー、ケチー」
 とても言えん。



 今年もあと五日、火曜日。
 貴子さんの出勤は四時なのに、会いに行けなくて、電話は三時。
 ……やだー、会いたいー。
 駄々っ子みたいに布団の上でじたばたしてたら、隣の部屋から壁を殴る音。
 ……うるさいか。すまんな、弟。朝からご苦労。さて、もう一眠り。


 ――ねーねー、今日は彼女に会いに行かないの?
「……行かない」
「えー、大事にしてあげないと、嫌われるわよ」
「そんなにぬるい付き合いしてな……な!?」
 誰かが話し掛けてくるから反射的に返してたけど、何か変だなと思って起きたら、部屋に姉がいた。
「おはよう、裕昭。せっかく早く起きたのに、残念」
 あとをつけてくるつもりだったか。呼乃羽ちゃんには気をつけねば。
「早く起きたついでに、勉強手伝っていかないか?」
「いえ、遠慮して、また寝ま〜す」
 と、僕の部屋から出ていった。

 ……去った眠気を返せ。
 仕方ない、宿題の答え写しでもしとくか。


 手が痛い。もうだめだー。
 宿題を放り出し、布団に倒れ込む。
 ふと、貴子さんが見舞いに来ていた頃を思い出した。出会ってから最初の一ヶ月。
 この部屋に来ていたのに、うっとうしく思ってた。今思えば、もったいない。
 会えないのは、やはりつらい。でも、そのつらさがあるから、電話がたまに会えることが嬉しいけど、会いたいときに会いたいのが本音。
 貴子さんの姿を思い浮かべ、目を閉じた。


 午後三時の電話。
 水曜日、木曜日、金曜日……そして土曜日、午前八時半。
 アパートの前で貴子さんの帰りを待っていた。
 耳が痛い。鼻も。手と足の先が冷えすぎて痛い。
 ……さむい。
「ちょっと、何してるの!」
 驚いた声。
「貴子さん待ってただけ」
「待ってたって……頭に雪が積もるまで待たなくても」
 頭や肩の雪を払ってくれてる。
「早く部屋に入って。風邪ひいちゃう」
 引っ張って部屋に連れていかれ、毛布で包まれた。貴子さんはまだ慌ただしく部屋の中を動き回ってる。
 今度はスープの入ったカップを渡される。
「お風呂、沸かしてるからちょっと待ってね」
「……僕が入るんですか?」
「……その方が早いでしょ。電気ストーブであたたまるより」
「……ですね」
 あまりにも頼りない電気ストーブ。手足をかざしているのに、表面ばかり熱くなって、芯まであたたまらない。

「はい、タオル」
「あ、どうも」
「脱衣所ないから、閉めとくね」
 キッチンと部屋を隔てるドアを閉める。
「あの……」
「なぁに?」
 ドアごしに返事がかえってくる。
「一緒に入りませんか?」
 ガタガタとたてつけの悪い音を出しながらドアが開く。
「む、無理。狭いから、無理!」
 まだガタガタと音をたてながら閉まる。
「すみません。言ってみただけで、そんな度胸ないです」
 貴子さん、顔真っ赤だった。たぶん、僕も。
 言われた通り、狭い浴槽だった。でも熱めの湯に体育座りで入ってたら、芯までじわじわあたたまってきた。


 僕が風呂から出た頃、貴子さんは毛布にくるまったまま眠っていた。
 さすがにこのまま寝たら風邪をひいてしまう。悪いと思ったが押し入れを開く。ひんやりとした空気が押し込まれてたみたいに冷たい空間から布団を出して適当な場所で敷いた。
 次は貴子さんを布団まで運ぶ。起こさないようにそっと抱き上げて、そっと布団に降ろして、上の布団を掛ける。
「ひろあき……」
 突然呼ばれて驚いたけど、空いてい場所の布団を少し持ち上げ……これは、入れということか?
 頼りない電気ストーブで暖をとるのは難しい。
 厚意に甘えて入ると、まだ冷たい布団の中に僕の大好きな匂いがあった。



 いつのまにか眠っていて、起きた瞬間はさすがに驚いた。
 目の前に貴子さんが寝てるんだから。
 しばらくは寝顔を見ていたけど、次第に飽きてきた。
 時計を探すと、正午を過ぎたところ。
 もう起こしても、大丈夫だよね。起きてくれないかな……。
 頬を突っついてみた。
「ん……」
 迷惑そうな顔をして身じろぎした。このぐらいじゃ起きないか。
 頬を撫でて、唇を重ねてみた。眠り姫は……お目覚めのようだ。まだ眠そうに、目を細めている。
「おはよう、貴子」
 無反応、しばらくするとしがみついてきた。
「んー、まだ眠い」
 やれやれ、困りましたな。こちらとしては、寝かせたくないのだが。
「寝ちゃうなら、帰るよ?」
「……やだー……だめー」
 お、この状況でありながら、だめなのか。何だか嬉しい。
「だったら、起きてくださーい。ネコは気まぐれだから帰っちゃうよ」
「やだ!」
 押し返され……押し倒された? 貴子さんは真剣な顔で僕を上からのぞきき込んでた。
「ごめん、帰らない。一緒にいたい」
 貴子さんは一瞬、不安から解放されたような顔して、僕の胸に顔をうずめた。僕はそっと頭を撫でたあと、包み込むように抱きしめた。

 布団の中で寒さをしのぎ、ごろごろと過ごした大晦日。

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2012.02.09 UP