■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【11】
【11】
土曜日。終業式でクリスマス・イヴ。
学校は掃除と終業式、ホームルームだけで昼前には下校。
僕は残りの宿題をどっさり持たされ、どんどん悪くなっている成績表を持って帰宅。
言うまでもなく、成績の件で母親にひどく注意されたが、今回も右から左へと聞き流しておいた。言われてできるようになるなら、誰も苦労はしない。
弟の浩輔は……相変わらず成績順位は一桁。あっちが先に帰ってただけに、「浩輔は頑張ってるのに」とか「浩輔はできるのに」とか言われて具合悪い。
でも、アイツだけは見習いたくない。頭はよくても、性格が悪い。考えややり方が正反対だから兄弟関係も破綻してる。
自分失ってまで親の期待に応えて何の意味がある。僕は、自分らしくいられたらいい。成績なんかで順番を決められたくない。
さて、今日も宿題プリントを……明日からでもいいかな、だめだ。絶対やらないまま冬休みが終わる。
……もう、いやだ。
一枚も終わらないうちにこれだ。先が思いやられる。
ああ、僕は天才だ。スラスラ解けるよ。
答えを写しているだけだが、これもこれで重労働だ。
およそ四分の一ほど答えを写せたところで六時前。よし、今日はこの辺にして……公衆電話へゴー。
弟と成績を比べられていやだったと話した。
『裕昭くんは、そのままで充分、いい子のにね』
褒められてるのか、子供扱いされてるのか……ちょっと複雑。
退屈な日曜日。今日もむだにごろごろと過ごすのだと思っていたが、クリスマスだということを思い出し、プレゼント探しに出掛けた。もちろん、母に見つからないようにこっそり家を出た。
さて、問題は財布の中身と何をプレゼントするか。貴子さんは大人の女性だから……余計に悩むんだよなー。いいものを選びたいが、そんな大金持ってない。
うーん、一緒にショートケーキ食べるのでいっぱいいっぱい? でも、びっくりさせて、喜ばせたいよな。
適当な店に入って、いろいろ見て回ってたらそのうち「これだ!」ってものが……これだ!
だが……金が足りん!!
買える範囲で選んだら、幼稚なものになってしまった。……ちゃんと渡せるかな。
日課になった電話。明日はいよいよ貴子さんが休みの日。
「明日、朝から行っていい?」
『ええ。あ、だったら買い物行かなきゃ。お昼ご飯、いるでしょ?』
おお! 念願の手料理がこのタイミングで食べれるなんて!
「いります、なんでも食べます!」
大興奮。
電話が終わっても興奮が冷めず、スキップで帰宅。いつもなら黙ってこっそり家に入るのだが、あまりの上機嫌に、
「たっだいまー」
と、ご機嫌な声で、って、あれ?
「呼乃羽(このは)ちゃん、帰ってきたの?」
普段はいないこの家の住人。三つ上の姉。今回もひょろりと帰ってきた感じ。
「わ、ワタシはお姉ちゃんではない、サンタコノーハだ」
「……無理ねぇか?」
姉は頭を抱えてうーん、と唸った。
「母さん、呼乃羽ちゃん、帰ってきたよー」
「うわあ、裕昭っ!」
飛んできた母に捕獲された姉は、父さんの前につまみ出され、こっぴどく叱られていた。
普段、子供のことに関して口出ししない父なのに……職に就かずにふらふらしてる姉は許せなかったか。
久しぶりに五人揃っての夕食。クリスマスだからか、豪華だった。
「裕昭、覚えてろよ!」
「だったら帰ってくるなよ」
「あ、じゃあ裕昭にはお土産あげない。東京のお土産なのになぁ〜」
な、なに!? 憧れの大都会、東京だと!!
「新幹線乗った?」
「当然さ」
「東京タワーは?」
「首と財布が痛かったねぇ」
「ディズニーランド!」
「……高くて入れなかったけど、入口とかお城の写真は撮ってきたよ!」
おお、すごい。いいな、大人。呼乃羽ちゃん、すげーなー。
「で、成人式、どうするの?」
いきなり話を現実に戻す母。そうか、呼乃羽ちゃんはもうハタチなのか。ますます羨ましい。
「えー、出るよ」
「何を着て行くの? 着物なら予約とか……」
「面倒だから、持ってるスーツでいいわ」
僕と似た性格の姉は軽くそう言うが、そんな姉に食いつく母。しかしそれを聞き流す。
「呼乃羽といい裕昭といい、何でいちいち反抗するようなことするのかしら!」
母はすっかり機嫌を損ねていた。
けど、さすが呼乃羽ちゃん。やってやったと満足げな表情の姉と目が合う。思わず互いにブイサイン。しかし弟は……悪い顔をしていた。
食事を終えて自室に戻ると、呼乃羽ちゃんが部屋に来た。
「はい、お土産だよ〜」
薄く、小さい袋。中身は期待できない……が、
「おお!!」
東京タワーのテレホンカード! テレカかなり必需品。
「ありがとう、呼乃羽ちゃん」
「いいってことよ〜」
「ついでに、宿題手伝って」
上機嫌だった姉の表情が曇ってきた。
「いや、勉強はちょっと……どころか、嫌い」
さすが、姉。どこまでも気が合うはずだ。
「浩輔、相変わらずだね」
「ああ、でも高専の推薦落ちた時は大暴れしたよ」
「へぇ、やっぱりバクハツしちゃったか。やめればいいにね」
たぶん、僕や呼乃羽ちゃん見て育ってるから、無理だ。アイツはああいう生き方しかできない。
クリスマスの次の日、九時を少し過ぎた頃、こっそり家を出た。昨日買った幼稚なプレゼントを持って。
まずは公衆電話から連絡してから、アパートに向かい、玄関が開くと、まっさきに貴子さんを抱きしめた。
あまり後回しにすると、渡しそびれそうなので、勢いでプレゼントを渡した。
突然で驚いていたけど、包装を開けた貴子さんは、柔らかい笑みを浮かべ、それをそっと取り出した。
小さな猫のぬいぐるみ。僕の頭を撫でるときみたいに、ぬいぐるみの頭を優しく撫でた。
「そっか……裕昭くんは猫に似てるんだ」
「ネコ!?」
猫に例えられたのは初めてだ。
「だって、最初はそっけなかったのに、黙って傍にいるようになって、今は擦り寄ってくるから」
ああ、まさしく猫ですね。鳴いてみましょうか。
「にゃ〜ん」
「ありがとう。大事にするね」
気に入ってもらえてよかった。
「でも私、日にちの感覚がおかしいから何も準備してなかった」」
「別にいいですよ。一緒にいられるだけで、充分です」
初めてじゃないかな、長い時間一緒にいるの。
食事を作る後ろ姿。一緒に食卓を囲み、同じものを食べる。他愛ない会話で笑いあった。
それから、貴子さんのひざで猫のように撫でられていた。たまに、にゃ〜と甘えた声を出すと、ぎゅっと抱きしめてくれた。
……このままずっと、一緒にいられないだろうか、なんて考えてしまう。そうすることができたら、どれだけ幸せだろう。
でも、暗くなってきたから、帰らないと。
「明日から、夜勤だよね?」
「ええ、三十一日の朝まで」
「明日の朝、来ちゃ、だめだよね」
「……」
珍しく貴子さんが悩んでいた。
だめだ。寝不足にでもなったら仕事が……。
「ごめん、明日は来ないから、えっと……電話、三時ぐらいで」
貴子さんは二度頷いた。
「うん、じゃ、三時ね」
……。こっそり帰宅。こっそり家に入り、こっそり階段を上がる。
ちょろいね。
部屋に入ってしまえば、「え? ずっといましたよ」って顔して、
「おかえり。朝からどこ行ってたの?」
「!!?」
こ、こ、こ、呼乃羽ちゃん!!
「あれ? 何かヨソの家の匂いがする」
そういえば、今日はいつも以上に貴子さんと密着しすぎた。
寄るな、嗅ぐな、寄るなー!!
「裕昭、どこ行ってたの?」
「外」
「……。呼乃羽も、家の手伝いぐらいしなさい」
「やだ。寒い」
「この二人は……」
よく似てるよね。母としては気に入らないだろうけど。
「浩輔、手伝ってあげてよ」
「浩輔はいいの」
姉と目が合う。思ってることはたぶん同じ、えこひいき。
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2012.02.09 UP