TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【10】



  【10】


 エロ本当番のやつは責任重大すぎて挙動不審になることが多い。十七歳には少々荷の重い任務でもあるからな。まあ、次の朝になるといい顔をして次に回してるけど。

 そんなエロ本当番になった水曜日。ただひたすら、抜き打ちの所持品検査がありませんようにと願うだけ。とにかく、朝のホームルームは気が気じゃなかったし、学校が終わるまで平静を装うのに苦労した。
 しかし学校から解放されれば、そんなことはすっかり忘れ、一目散に公衆電話。自己最高タイムで貴子さんのアパートに到着する。

「ただいまっ!」
 思わずそう言って抱きついていた。
「おかえり」
 貴子さんもそう言って、僕の頭を撫でてくれた。
 今日も、ただ黙って抱きあって、たまにキスをした。
 ただそれだけなのに、心の奥が熱くなり、優しい気持ちになれる。今まで感じたことのない幸福感、二人でいることが幸せだった。

 ……ああ、そうだ。話しておきたいことがあった。
「僕が貴子さんの自転車に撥ねられた日、覚えてます?」
 腕の中の貴子さんがもぞもぞと動き、不思議そうな表情で僕の顔を見た。
「ええ、それが?」
「僕の、誕生日だったんです」
「十月八日?」
「覚えててくれたんですね、よかった」
「何かの偶然かしら。二日後の十日、私の誕生日なのよ」
 互いの誕生日が近い偶然。
「十日なんだ。絶対忘れない」
 それから、自分の家族のことを話した。三歳上に姉がいること、弟と仲が悪いこと。貴子さんも家族の話しをしてくれた。彼女には妹と弟がいて結婚もしてるから、家に帰るといつも結婚の話しをされて不快だと。
 そんなささいな会話から、話すことがたくさんあることに気づいた。
 今日だけじゃ時間が足りない。今までかなり時間をむだにしたな。……いや、あれはあれでよかった。

「また四日、仕事ですか?」
「ええ、六時には家にいるから」
 これ以上の確認はいらなかった。
 しばらく抱きあって、今日は別れた。

 からの、帰宅で鞄オープン。
「!!?」
 擦り切れて薄汚い茶封筒。すっかり存在を忘れていた回覧物。
 ……。いや、見ますよ。
 取り出した本は歴史を物語るよう随分よれていた。だけに、恐る恐る開きますよ。
 ――ぎゃっ!!

 夕食、風呂を終えたのちこっそりおかずで頂いた。
 ……ごちそうさまでした。



 木曜日。
「若林、確かに渡したぞ!」
 たぶん僕もいい顔をして渡したのだろう。

 さて、今日から四日は通常運転……いや、もう土曜には終業式で、今日は放課後に追試じゃないか。日曜はクリスマス。貴子さんの休みは二十六日、月曜。プレゼントとか考えといたほうがいいよな。帰りにどこかの店に寄ってみよう。
 いつの間にか、今年も残りわずか。
 ……という計算の前に、まずは追試を突破せねば。暗記、暗記。やり直しをしてある赤点テストとにらめっこ。
「お、今日は追試か。頑張れよ」
「おう!」
 だから、話し掛けないでくれ。自信のない暗記力と、興味のないことには一切発揮されない集中力を何とか駆使して……。


 放課後。終わっても次から次へと湧いて出てくるテストプリント。
 やってもやっても終わらないんじゃないかと錯覚し、何だか悲しくなってくる。
 各科目終了しだい即採点。険しい表情の教師たち。あまり点は稼げなかったか?
「どれも半分以上は点があるが……補習に来た方が……」
 そんなにひどいか。さらば冬休み?
「プリント作っとくから、冬休みに全部やってこい。だったら補習やらないから」
「わかりました。ありがとうございます」
 助かった……けど、量によってはその方が地獄かも。まあ、どうせ貴子さんが休みの日以外はすることないし、どうにかなるかな、内容にもよるけど。


「追試の結果もあまりよくなかったみたいで、大量の宿題が出そうです。まあ補習にならなかっただけいいんだけど……」
 午後六時、貴子さんに報告。
『いいじゃない、冬休みがあるだけ。私なんか、休日祝日、盆も正月も関係ない仕事なんだから……』
 そうですね。春休みがあるのも、夏休みが長いのも、学生のうちですよね。



 金曜日、一部科目の冬休み用プリントを渡された。……これは、多すぎはしないか? めくって中を見ると、拒絶反応がおきた。なにこの数字、なにこの日本語じゃない英文。しかし、所々赤ペンで解き方のアドバイスが書いてある。各担当科目の先生直筆。それに、プリントの半分は解答だ。これなら一人でも何とかなるかも。

 明日は終業式。学校も通常より早く終わったので、クリスマスプレゼントの参考に商店街をぶらぶらしてから帰宅。六時までけっこう時間があったので、少し宿題のプリントをやっておこう。……しかし多いなー。

 ……わからん。

 ……眠くなってきた。


 ……はっ!
 暗い、何で!? 何時?
 慌てて電気をつけて時計を確認。
 六時、過ぎてる!!
 慌てて財布を探して、慌てて家から飛び出した。

『いつも時間通りなのに、遅れたのは初めてね』
「宿題やってたはずが、眠くなって……」
 この調子であの宿題が休み中に終わるのか心配になってきた。


「裕昭、あんたいつも六時になると出ていって、そうたたないうちに戻ってくるけど、なにやってんの?」
 いつか聞かれると思ってはいたが……何て言おうか。やはり正直に、
「公衆電話で電話してるだけだよ」
「誰と? 電話なんて家からでもできるじゃない」
 ここで電話しろってか? 冗談じゃない。
「やだよ」
「誰と電話してるの!」
 しつこいなぁ。さっさと部屋に戻ろ。
「誰でもいいじゃん」
「裕昭!」
 あー、うるさい!
「彼女だよ、悪いか!!」
 一段飛ばしで階段を駆け上がり、自分の部屋のドアを力まかせに閉めると大きな音が出た。
 ドアにもたれ、しゃがみ込む。
 ……か、彼女、だなんて!! この僕に彼女がいるなんて! しかも母親に言っちゃうなんて!!
 顔が、熱くなってきたー!

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2012.02.09 UP