■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【7】
【7】
ただ、黙って同じ空間にいるだけで、日が傾いた。
それだけで幸せを感じる子供な僕に対し、大人の貴子さんは退屈そうで、何も喋らない僕に痺れを切らしたように喋り始めた。
「裕昭くんの高校、私立の男子高でしょ」
「なんで分かったんですか?」
「……制服」
あ、そうか、制服だった。この辺りで藍色の学ランはうちの学校だけだ。
「部活とか、してるの?」
「帰宅部で。特にやりたいこともないので」
「……若いのに、もったいない子ね」
「すみません」
「学校、楽しい?」
「男ばっかで花がなく、汗くささとエロ話の吹き溜まりです」
「……そ、そう。それが青春なのよ、多分」
……思ってもないことを。
でもまあ、そんな花のない学校のおかげで、貴子さんという素晴らしい方に出会えたと思えば、あの学校も悪くない。ただ、受けた県立高を落ちただけだが。
「若さ故の暴走とか、しないものなのね」
「え、何がですか?」
「……別に」
なぜか貴子さんはばつが悪そうによそを向いた。
結局、ろくに話もせず、その日は帰ることになる。
「次はいつ会えますか? 電話も、いつしたらいいですか?」
これは聞いとかねば、明日から困る。
「しばらく会えないかもね。明日から四日、日勤だから……六時ぐらいには家にいるわ」
「え、明日は日曜なのに仕事ですか?」
「入院施設のある病院だから、夜勤はあるし、休みは不定なの」
「……大変なんですね。じゃ、明日の六時頃に電話します」
「……私からはさすがに掛けないわよ?」
「掛けないで下さい。居間で家族に会話を聞かれたら、恥ずかしい。ちゃんと公衆電話から掛けます」
「ええ、じゃ、早めに帰って待ってる」
……喫茶店で握手したきり、手も握れなかったな。次は頑張ろう。
まだ実感はないけど、彼女ができたんだよな?
……初めての彼女。
……!!
「うわっ、どうしよう……」
突然、いろいろな感情がどっと押し寄せてきた。
どどどど、どうしよう。どうしたらいいんだろう。
思わず近くの電柱にしがみついた。
……いや、落ち着け。落ちついて、まずは家に帰ろう。
しかし、帰ったら母さんに怒られた。
「学校終わって何時間経ってると思ってんの!」
今日は午前中だったから、
「えっと、六時間ぐらい?」
「遊んでる暇があるなら……」
ここからはいつもの、聞き飽きたセリフ。遊ぶ暇があったら、勉強しなさい。成績もいい方とは言えない。進学か、就職か考えているのか。勉強はしすぎて損はない。というやつ。聞き飽きてるから、右から左に聞き流すだけ。
「聞いてるの?」
「聞いてます。気をつけます」
せっかくのいい気分は台なしだ。
勉強は嫌い。進学か就職なんて、その時になればどうにかする。
そんな母と僕のやりとりを見ていた弟の視線。また言われてる、とか、自分はできるんだと、自信ありげな上から目線。
いちいちカンに障る視線を向けてくるな。
日曜日なのに、退屈だった。ただごろごろして過ごし、午後六時になると母の制止を振り切って家を飛び出す。目指すはボックス公衆電話。
テレホンカードを入れ、一晩で暗記した電話番号をプッシュ。
電話ごしの貴子さんの声に、胸が高鳴る。
一緒にいてもろくに話し相手になれないから、電話でもすぐに会話が途切れる。
だけど、苦痛ではなかった。すごく、会いたくなった。想いが溢れる。
「……好きです、会いたいです」
『だめよ。いけないわ……』
また明日電話すると約束して、電話を切った。テレホンカードの残り度数は……まだ大丈夫だ。
いい気分で家に帰ると、また母さんに怒られた。ちょっとぐらい黙っててほしい。
あと四日。
月曜日。起きて台所へ行くと、かしこそうに見えるブレザーの制服を着た弟が、入れ替わりに出ていった。いつも早くに家を出て、学校でなにやってんだか。よほど勉強が好きなのか。
母にせかされながら、もそもそと朝食をとり、黒より少し青い学ランを着て、弁当を持って学校へ向かう。朝からのんびりしすぎで、いつも遅刻ギリギリ。
つまらない授業を聞き流し、たいして面白くもない友達の話に愛想笑い。
頭の片隅では、貴子さんのことばかり考えてて、六時が待ち遠しかった。
やはりろくに話せなかった電話。
あと三日。
火曜日、なぜか心が苦しかった。
気がつくと学校にいて、気がつくとぼんやり遠くを見つめている。
考えてることは、貴子さんのことだけ。
電話だけじゃ物足りなく思えた。
ああ、早く会いてぇー!
あと二日。
水曜日。……。
自分でもかなり重症だとわかった。
昨日までは貴子さんのことを考えて何も手につかない状態だったけど、今日はあまりの禁断症状に叫びたくてたまらなかった。
次は手を握ろうなんて甘ったるいことで足りるか! 会ったら抱きついて離れてやらねぇ!
今日は電話で、三倍喋った。
「もう、我慢もいっぱいいっぱいです。今すぐ行っていいですか!」
『ダメ!』
即答。
「なぜですか。……ホントは僕のこと、何とも思ってなくて、反応を楽しんで――」
『そんなことないよ。私だって、辛いのよ本当は夢で、いつか覚めるんじゃないかって、不安なのよ。裕昭くんは若いのよ。まだ出会いのチャンスもある。私なんかより……歳の近い、いい人だって見つかるかもしれないのに』
聞いてて冷静になり、胸が痛くなった。僕がガキだから……。
「……ごめんなさい、言い過ぎました」
『いいのよ。ごめんね、我慢させて。明日、私休みだけど、どこかで待ち合わせする?』
「学校終わったらすぐアパートに行きたいんですが、いいですか?」
いよいよ明日!
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2012.02.09 UP