■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【3】
【3】
自転車で学校へ向かうというごく普通のことをしているというのに、どうも額の絆創膏に視線が突き刺さる。
校内に入れば尚更。わざわざ振り返ってまで見るヤツと、覗き込んでくる友人。顔見知り程度の人でさえも声を掛けてくる。それも全部男子。男子校なので当然。
……何だか急に有名人。しかも嬉しくない方向で。
教室に入るまでもクラスメイトに取り囲まれ、席につけばそれが更に増える。
「どーしたんだ、それ」
って聞かれすぎてもう、答える気力もない。
「適当に声掛けた女に彼氏がいて、ボコられたとか?」
それは適当に言いすぎた。さすがにこれは反論してやろうと思ったのだが、嫌な痛みが頭に響いたのでその気力さえも失せた。
「昨日、チャリにはねられたんだってさ」
「んで、脳震盪起こして大変だったらしいよ」
僕が答えなくても、最初に聞いてきたやつらが代わりに返答している。
「へー。大変だな」
「もう、大丈夫なん?」
「……まぁ……」
特に言うこともないので、そんな返事をするだけ。
授業中も時々走る傷の痛みで集中できずボーっとしてると、先生に「大丈夫か?」と何度も声を掛けられ続けること四時限目。
朝より悪くなってるような気がしたので、弁当も食べずに早退した。
不安定な意識を何とか保ちつつ家に帰って、自分の部屋に入った途端、緊張が緩み、布団に倒れこんだ。
何でこんなに眠いんだろ……。
検査でどっか、見落としてたとか……。
もしかして、このまま寝たら二度と目覚めなかったりして……。
でも……この眠気には勝てんわ……。
異常ないって言ったじゃん……ヤブ……。
くそ……あの看護師め……。
僕の人生はたったの十七年で幕を閉じるのか……。
――……あき?
誰かが呼んでる。
――裕昭くん?
誰だよ、眠いのに……。
「起きなさい、裕昭! チコクするわよ!」
「うえぇぇ!!」
僕は飛び起きた。
うっかり寝坊してしまった! と思っていたら、どうも様子がおかしい。
部屋への陽の入り方が朝のものではない。それに、母の後ろで心配そうな表情で僕を見ている例の看護師がいるんだから。
「気分悪くて早退したんだって?」
「あー」
そんなこともあったような。
「うん」
「ちょうど羽野さんがいらしたことだし、ついでに診てもらいなさい」
はぁ? ホントに来たんだ、この人。律儀なヤツだな。
それに母。この人は医者じゃないんだけど。
「すみません、お母様。体温計貸していただけますか?」
やることはやるだろうけど。
その後、脈をとられ、体温を測られた。それから傷の処置を少々。
特に異常と思われる部分はないと言ってたが、
「私は医者じゃないから断定できないわ。少しでもおかしいと思ったら、すぐに病院に行ってね」
「はいはい」
僕は空返事。
とにかく、事故のことも、彼女とのかかわりも、さっさと忘れて終わりにしたいと、この時には思っていた。
しかし次の日も彼女は訪れた。
その次の日はこなくて、ようやく解放されたかと思えば、その次の日にはケーキを片手にやってきて、また次は来なくて、来て……という二日に一度の訪問も、一ヶ月に及んだ。
体の不調もなく、傷もうっすらと痕を残したもののきれいに治っていた。
この頃には、彼女が来ることが当たり前になっていて、だからこそ自分の異常に気付くのに遅れてしまったのだ。
十一月に二度、我が家へ訪れた彼女は、それ以来、僕の様子を見に来ることはなかった。
毎晩、明日には来るかも、なんて期待をし、叶わなくて落ち込む日々。
「あーもー、くそっ!!」
相手はどう考えたって十歳は年上だろ! 僕なんか彼女から見たらただのガキだし、事故のことがあったからウチに来てただけじゃないか。いつかは来なくなるって分かってたことだし、来なくてもいいのになんて思ってたはずなのに……。
会えなくなって、逢いたくなるなんて……。
明日――いやいやいや、どうせ、ちょっと……寂しくなっただけだっ!
そのうち治る。いや、そのうち慣れる!
そうだ、そうだと自分に言い聞かせ、彼女に会う前と同じ生活を繰り返すけど、ずっと何かが物足りなかった。
彼女の存在を知ってしまったから……。
日に日に、気持ちは大きくなっていった。
たいして知らないくせに、僕の勝手な想像と理想でできた彼女を愛しはじめていた。
逢いたいという気持ちを、いつまで抑えられるだろう。
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2012.02.09 UP