■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜【1】
十七歳の誕生日の日、その人は突然、僕にぶち当たってきた。衝撃の凄まじい出会いだった。
十八歳と十ヶ月頃、その人は新たな命を生み、命を落とした。
まるで突風のように過ぎていった幸せな日々。
出会いも、別れも、突然だった。
【番外編1】606日〜お父さんは18歳〜
【1】
十七歳になった当日――十月八日。誕生日の祝いで貰った金を持って、本屋、CD屋、洋服店などを一人で回っていた。
特に欲しいと思うものが見つからないまま辺りはすっかり暗くなり、自宅へ歩いて帰ろうとしていた時……曲がり角で自転車にはねられた。
反射的に避けようと体は勝手に左回りで一回転。壁にぶつかり、よろけ、バランスを失った体は後ろへ倒れた。しかも運悪く電柱に後頭部をしこたまぶつけてしまい、その瞬間は本当に目の前に星が出たし、ものすごく痛くてしばらく動けなかった。
「ごめんなさい、大丈夫?」
という女性の声が何度も聞こえたが返事をする気力もなく、ただ、痛みに耐えることを優先した。
「救急車、呼んだ方がいいかしら……」
いや、そこまで大事にされたくない。僕は何とか声を絞り出した。
「だ、いじょうぶ、ちょっと、痛みに耐えるので、いっぱいいっぱい……」
「ホントに大丈夫? どこか折れてる? 痛いなら我慢しないで、病院へ行った方がいいわ」
「か、カンベンしてください。ホントに、痛みが引けば、なんともないと思うから」
自転車にはねられて救急車だなんて、大袈裟にも程がある。
「ダメよ! とりあえず……そこの喫茶店にでも入りましょう」
何で! 帰らせろ!
意味も分からないまま、事故現場付近にあった喫茶店へ入ることになった。
街灯の灯りだけではよく見えなかった女性の姿。喫茶店に入って、その人が僕よりオバサンであることに気付いた。まぁ、この頃の基準といえば、二十歳以上はみんなオジサン、オバサンだったけど、彼女は二十代後半だと僕は思った。
「ホントにごめんなさい。私、羽野貴子(はの たかこ)っていいます」
何で自己紹介してんだか分からないけど、僕も一応しておいた。
「吉武裕昭(よしたけ ひろあき)、です」
「高校生?」
「二年です。十七歳」
になったばかりなので、何となく年齢まで言っていた。
「うっそ……やだ……若い」
……いや、高校生って聞かなくても、見た目でそれは明らかだろ。
「あら……ちょっと、前髪上げてくれる?」
今度は何だよ。と思いながら手ぐしで前髪をかきあげようとしたら、額に痛みと指先に濡れた感じがあったので、手を離して指を見ると……半分固まりかけた血が付着していた。
視線は血のついた指先から、女性の方へ。
「ぶつかった時に擦りむいたのね。ごめんなさい」
彼女はそう言いながらカバンを漁り、花柄のハンカチを差し出してきた。
「ティッシュ持ってなくて……ハンカチ、使って」
「いや、ペーパーナプキンでいいじゃん」
各テーブルに設置されている、真っ白でツルツルのやつ。
「ダメよ。硬いし」
質なんてどーでもいいじゃん。まぁ、吸収率は微妙だし、痛そうだとは思うけど。
考えた結果、彼女の好意を尊重。ハンカチを受け取って傷口に当てた。
「まぁ、お詫びと言っては何だけど、好きなものを頼んで」
で、何でそうなるの。まぁいいか。遅く帰ったっていくらでも言い訳できる。特に今日はホントにはねられてるし。
「……じゃ、コーラで」
彼女は笑顔で頷き、店員に飲み物を注文した。
しばらくして、テーブルにコーラとコーヒーが並んだ。
僕はいただきます、と言ってからそれに口をつけた。冷えた液体でこめかみがキンと痛んだ。かき氷でよく起こるあの現象。
それが治まるまで、僕は彼女の様子をさりげなく窺った。コーヒーにミルクと砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜてからゆっくり口をつけていた。
ふと目が合ったので、僕は勢いよく顔ごと逸らしたら、彼女はクスクスと笑い出してしまった。
……僕はアホか。まぁいいや。まんざら間違いでもないんだし。僕はアホだ。成績は中の下。
っていうか何だよ、この展開は。意味わかんねーよ。
はぁ……さっさと帰りてぇ。
けど、何か……頭、いてぇ。かなりひどく打ったからな……しばらく痛そうだ。
きのせいか、気持ちわるい?
僕は肘を突いて額の傷を押さえている手に頭を預けた。
何か……吐きそう。
やば……。
「ちょっ、トイレ」
短時間で急激に気分が悪くなっていた。足元はフラつき、手でテーブルや椅子を突いて歩かないと倒れそうなほどに。
トイレの個室に入ると、我慢も限界を迎えた。
今までに体験したことのない、何とも言えない気持ち悪さ。この世のものとは思えない。
冗談抜きで死ぬかも……なんて思えるぐらい。
何だよこれ。
ホントに死ぬのかな……。
まだ、十七歳になったばっかなのに……。
「吐き気? 頭痛? 気分悪いんでしょ?」
いつの間にか、彼女が僕の側に来ていて、背中をさすってくれていた。
「頭、思いっきりぶつけてるでしょ? たぶん脳震盪。私、近くの病院で看護師してるの。先生に連絡するから、すぐに病院へ行きましょう」
は?
何が、何だって?
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2012.02.09 UP