TOP > 義理の母は16歳☆ > 家を出る前に俺ができること【2】


  家を出る前に俺ができること


  【2】


 ちょっとおいしくなかった……いや、まぁまぁおいしかった夕飯を終えた俺は、思い立ったように引越しの荷物まとめを始めることにした。
 とにかく、いらないものはどんどん捨てて……ってここで貧乏性モード発動。もったいない、もったいないでちっとも捨てられない。いやいや、ここは心を鬼にして、使いそうにないけどもったいないから、というものは捨て、捨て。もったいない!! くっそぅ!
 ほんの少し前まで最前線で活躍していた問題集や参考書、教科書などは紐でまとめてくくってポイ。欲張ってまとめすぎたせいか、運ぶ時に紐が指に食い込んで痛いのなんの。無駄に重いぞこのやろう。
 いや、いらないものを探そうとするからいけないんだな。持っていくものを探そうじゃないか。これからの生活に支障をきたさない程度に。
 洋服――そう、ないんだよな。それこそ、プラケースに入れてある夏服に、引越し当日にでもちょいちょいっと冬服と下着類を詰めてやれば終わりじゃん。洋服終了。
 調理道具なんかは向こうで買えばいいし。布団もわざわざ持っていく必要もないし、帰ったときのことを考えて――向こうで新しいものを買う。
 クローゼットがついてるアパートだったからタンスはいらない。テーブルも部屋にあるのを持っていくより、買ったほうが――って、どんだけの出費になるんだこれ。
 というか、引越しで持っていくものが洋服だけってどんだけ?
 これが、無趣味で特にこれといったこだわりのない主夫のサダメなのか!!
 引越し業者いらず。小包で送っといて、だな。
 ……やっぱ、テレビぐらい持って行こうかな。あまり見ないけど。
 それでも、安上がりだな。引越し費用だけは。向こうで新たに買うものに関しては鬼のような出費を叩き出せそうな気がするけど……ウチの家計が破綻しないだろうか、父さんに聞いておかねば。


 一階に降りると、台所には誰もいなかった。リビングでは……テレビの音がするけど、愛里はソファーで居眠りしていた。父さんはまだ帰ってきてない。
 夫婦の寝室にある押入れからどっちが使ってるのか分からない毛布を一枚取り出すとリビングに戻り、それを愛里に掛けようとしたとき……彼女の指にたくさんカットバンが貼ってあることに気付いた。
 ――頑張ってんだな、コイツも。
 不器用なりに、頑張ってる。俺がいなくなるから?
 そっと毛布を掛けてやると、気持ちよさそうに身じろぎして、ムニャムニャと訳のわからないことを言った。
 とても、幸せそうな寝顔だった。
 ふいにそのアタマを撫でてやりたくなって、手を伸ばし――触れるか触れないかってところで、
「ど、どろぼう!!」
 と背後から言われ、慌てて手を引っ込めて振り返ると……何だかものすごく悔しそうな表情の父さんが立っていた。
 ど、泥棒ってアンタ……。
「愛里さんは僕のだからね! 絶対にあげないんだからね!」
 いらん、いらん。そんなにムキにならなくてもいいのに……。


 愛里をリビングで寝かせたまま、俺は話を、父さんは食事をすべく台所へと移動した。
 味噌汁を温めて味見してみると……だしが追加投入してあり、ちぐはぐしてた味が調っていた。ご飯ばかりはどうしようもないのでそのままだったけど。
 それらを器に入れて父さんに出してやった。
「びっくりすんなよ。今日の夕飯を作ったの、愛里なんだ」
「……え!?」
 驚いてるじゃなくて、がっかりしていた。何で? 最愛の妻の手料理だろ? 喜べよ。
「疲れてるときぐらい、ヒロくんのおいしい料理がよかった……」
 俺としては嬉しいが、それって失礼だぞ。
「大丈夫。全然普通に食べれるから。ちょっとご飯の洗いが足りなくてヌカ臭い気がするけど、食べるのに支障はない」
「ホントに?」
「俺が先に食って、そう言ってんだから間違いない。それに、俺のときは味噌汁にだしが入ってなかったんだぞ? それにはちゃんと入ってる」
 父さんは恐る恐る目の前に並ぶ料理を一口ずつ口に運び、問題ないことを確認。
「ヒロくんも最初の頃はこんなもんだったよね」
「うるせぇ!」
 さて、とりあえず俺の話を聞いてもらうとしよう。
「今日、アパート探しに行ってたんだけどさ」
「んー」
「引越しと言ってもウチから持っていくものってのが特にないんだよ」
「んー」
「しかし、向こうで買うものが結構あって……」
「……例えば、何?」
「調理道具一式に食器も必要だろ。それから、テーブルとか布団……今思いつくのはそれだけだけど、向こうに住み始めたらもっと他にもいるものとかあると思うから……」
「要は、金の心配してるってことでしょ?」
「まぁ……なんというか、その通りです」
 ご飯のほうに目を落としたまま、ズバリそこを突いてきた。
「いいよ。必要なものを好きなだけ買えるぐらい金はあるから」
 嘘っ!
「僕が仕事始めてからは一切手をつけてない通帳に、まだ四千万ぐらいあるはずだから」
 よ、よ、よ、四千万!? さらっとこんな所でメシ食いながら言うセリフか!? ケタが違う、ケタが!!

 とまぁ、向こうでの生活に困ることはないのは分かったが、俺が知らなくてもいいことを知ってしまったから落ち着かなかった。
 ウチ、四千万も貯金があったのかよ!!

 NEXT→  家を出る前に俺ができること 【3】

 義理の母は16歳☆ TOP




2008.07.17 UP
2009.07.30 改稿