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  Graduation


 ――仰げば尊し、わが師の恩。
 三月一日。卒業証書授与式。
 長かったようで、あっという間だった三年間の高校生活が終わった。
 思い返せば……退屈しない、楽しい毎日だった。
 一部、例外は除く。あれは生きた心地がしなかった、継母(愛里)関連のごたごた事件。


 学年末考査が終わってすぐに大学へ出願。つい先日、二次試験が終わったばかりで、合格発表は卒業式の一週間後。
 まだ落ち着けない。落ち着かない、落ち着いていられない。
 合格したら向こうでアパート探しとか、部屋が決まったら引越ししなきゃならないし。

「アパート、隣同士になったらいいね。……なりたいな」
 いやん、もう、ばかん。
 咲良、かわいすぎるぞ、嬉しすぎるぞ。
 そんなことを言われた俺は、ついつい咲良のアタマをナデナデしていた。
「やめてよ、もぅ」
 と肩をすくめながらも嬉しそうなので、ぎゅっとしたくなったが……制御装置が働いて、我慢、我慢。

 もし受かってなかったら……なんて考えたり、無意識にそのことを漏らしてると、決まって咲良にどつかれていた。
「私は紘貴より成績良くないのよ。紘貴がダメなら、私なんて確実に落ちるでしょ!」
 って。
 そして、その場合は後期日程でどうにかしないと……という具合に展開していく。
 将来を掛けた結構辛い時期でもある。


 ああそうだ。センター試験は……俺も亮登も咲良も、いい結果だった。
 特に亮登は奇跡を起こしたというか、元々運がいいのか、初日は散々だったくせにそれでも結構点を稼いでいた。
 志望する大学が、センター試験のみで合否を決める学校だったので俺たちより早く大学が決まった。
 ずっと同じ学校に通ってきたが、それも高校卒業と共に終了らしい。


 東方天空。
 学年末考査から驚かされっぱなしだった。
 最後の最後で学年一位、大志くんの家庭教師……だけでは終わらなかったということ。
 『さよなら、グッバイ、またトゥモロー』と謎の逃亡を図った彼には次の日、きっちり理由を聞いてみた。誤魔化しきかないよう、大志くんを同席させて。
「大志くんのお姉さんが、何なのかな、ソラ」
「大志くんのお姉さんは、大志くんのお姉さんですが、何か?」
 亮登の質問に、天空は当たり前のことを言って誤魔化し、そっぽを向いた。
「じゃ、質問を変えよう。大志くんのお姉さんは天空と何か関係ある?」
 だから俺が大志くんに聞いてみると、授業中、突然当てられた時みたいに、慌てた様子で右に左に首を振った。
「えっと……」
「ダメだよ、大志くん」
 大志くんが天空に助けを求めるように目で訴えると、天空は喋るな、と彼に言う。爽やかな笑顔で、と言いたいが、少し余裕がなく焦りの混じった笑顔だった。
「大志くん?」
 笑顔の亮登がズイっと迫る。こちらの笑顔はちょっと怖い感じ。
「いや、あのぅ……」
 困った顔して後ずさりするものの、すぐ後ろが壁なので、張り付く格好になる。逃げ場はもはやない。それより、喋ってしまえ。
「大志くん、だーめ」
「あうあう」
「大志くん?」
「ぼ、ぼ、ぼくの姉は……」
 天空と亮登に交互に責められたあげく、もう楽になりたいと思ったのだろう。ついに大志くんの口から、衝撃的なことが!!
「ごめんなさい、天空センパイ!」
「あ゛――!! 大志くん!!」
 さすがの天空さんも耐え切れず、ムンクの叫びみたいになって大志くんに訴えた。が、無駄だった。
「ぼくの姉さんは、天空センパイとつきあってます!!」
「バカーっ!!」

 ――――はい?
 天空が?
 大志くんの姉さんと?

 大志くんは目を硬く閉じて小刻みにプルプルと震え、怯えた仔犬のようだった。
 天空は顔を歪めて頭を抱えていた。
 亮登の方を向くと、顔を見合わせることになり、再び視線を天空に向ける。
 そして、同時に声を発していた。
「「え゛え゛――――――――!!!!!」」


「オレだけ、オレだけ彼女がいないだなんて……不公平だよ、神様の、バッキャロー!!」
 亮登は頭上に広がる空に向かって叫んでいた。
 青春だ……な?
 そこが荒波打ち付ける断崖絶壁だったらかなり絵になる。そんな勢いだった。
 さてさて、すっかり機嫌を損ねてしまった(?)天空は、この場にいるもののそっぽ向いてらっしゃいます。
 なので、事情に詳しい大志くんから色々と話を聞いている次第であります。
 亮登は……まぁ、無視しておきたい。
「プールで泳いでやるぅぅぅ!! オレの勇姿をその目に焼き付けやがれ! どりゃぁぁ――あたたた!!」
 といった感じで見事にやけ起こしてますので。今まさにプールのフェンスをよじ登ってみたものの、有刺鉄線に引っかかっていた。
 どんな勇姿だよ。有刺鉄線に引っかかって……まさにギャグだ。お前は結局そういうキャラでしかないようだ。
 そろそろ話を戻そう。
「ぼくの姉はこの高校の卒業生で、今は大学一年です。在学中は野球部のマネージャーをしてまして……」
「そこで出会ったんだ」
「そうです」
「おかしいじゃん。なぜ野球部マネージャー」
 俺が知る限り、天空はサッカー部所属だし、野球部とどう関係あるってんだ。運動部という共通点しかないじゃん。
「グランド半分ずつ使ってますから……」
「あ、飛んでいったボールを取りに行って、運命の出会いを果たしたと……」
「たぶん……そこまで知らないですけど」
「……っていうか、年上? 天空が? まぁ、どっちかっていうと、ちょっと抜けてるからちょうどいいのかな」
「別に抜けてないって」
 ここでようやく、天空が口を挟んできた。
「今更どう言われようと、そういうキャラにしか見えないんだって」
 今まで、どれだけ俺たちを騙し、バカなキャラを演じてきたと思ってんだ。今更、実は優等生だなんて言われたって、テストで俺が負けてたって(がっくり)信じられるか、すぐに対応できるか! このOSには未対応だ! 対応できません。エラー、エラー。
「まぁ、深く気にするな。というか、今、聞いたことは忘れることをオススメする」
 うん、何となくそういう気もする。どうも俺らの知る天空とはかけ離れすぎてるから。
「よし、今日は大志くんの家に遊びに行こう!」
 亮登は有刺鉄線に引っ掛けてしまった手の甲を撫でながら、そんなことを……。
「来ないでください」
「行くな」
 天空だけならともかく、大志くんからも冷たく「来ないで」なんて言われてしまい、傷心の亮登は……その場に座り込み、指で砂にのの字を描いていた。

 その後、天空は採用試験を受けていた某企業に採用が決まったのだが、体育会系な天空が机で仕事するだなんて、想像できなかった。
 どっちかって言うと、工場で力仕事とか運送会社でバリバリ働いてる方が似合うと思うし。


 考査後、落ち着いてるヤツもいれば、落ち着きないヤツもいた。
 卒業式間際に、慌ててるヤツもいた。
 そういう俺も、行きたい学校は決まってても、確定はしていない。
 まだ、不安はつきまとっていた。
 でも、三年間通った高校で、卒業の日を迎え、卒業証書を手にした。
 亮登も、天空も、咲良も……クラスメイトの全員が無事に卒業証書を手にしていた。
 卒業式を終え、高校生活最後のホームルーム。
 まだ二十代の担任は、着慣れないスーツ姿で卒業生である三年一組の生徒に最後の言葉を送っていた。
「キミたちが在学中に、奥さんをもらえなくて非常に残念だ!」
 ……もっとマシなこと言えよ、最後なんだし。まぁ、それが担任らしくもあるけど。
「今ならまだ間に合う。俺と生涯を共にしようという女子はいないか?」
 いない、いない。それ、卒業する俺らに言う言葉か? 女子のみに向けてるけど。
「もれなく、卒業と同時に担任と結婚という肩書きが付いてくるぞ」
 いらん、いらん、そんなの。
 というか、一年世話になった担任――範囲が狭いぞ。
 ああ、俺が言うなって感じだな。俺も範囲が狭すぎるぐらいに狭いから。
「吉武!」
 何で俺!
「お義母さんの知り合い、どうにかならんか?」
「どうにもならん。それどころか、どうにかしようとも思わない」
 ここで教室内に笑いが立ち上がる。
 いつもこんな雰囲気の楽しいクラスだった。それは担任の……加辺達彦という人のおかげであり、このクラスの一人ひとりのキャラであり、そこに俺がいたからで……。
 愛里の件と進学の件で迷惑は掛けたけど、それを支えてくれた人がいて、今の俺がいる。

 ありがとう、先生。
 ありがとう、みんな。
 ありがとう、亮登。幼馴染みなだけに、よく世話もしてやった。
 ありがとう、天空。付き合いはそう長くはないけど、そのキャラは最強で最高だった。
 ありがとう、咲良。そして、これからもよろしく。

 明日はもう、この制服に袖を通すことはない。
 最後だった。
 このクラスメイト、同じ学年のヤツとこの学校で過ごす最後の時間。
 在校生に見守られて、最後の退場――卒業式に来てくれた父と継母。

 俺、吉武紘貴は、本日、三月一日、高等学校三年間の過程を終え、無事に卒業しました。

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2008.07.16 UP
2009.07.30 改稿
2011.11.21 改稿