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センター試験と腰抜けあっきー。
体調、万全。
受験票、カバンにイン。
筆記用具、よし。
時間ギリまでの復習用問題集、よし。
あとは……金。昼食代。
携帯は受験会場に到着後、速やかに電源オフ。
俺、よし?
センター試験一日目。
起床後からどうも落ち着かない。
何度もカバンの中身をチェックし、勉強しようにもそわそわしてできないし、意味もなく部屋の中をうろうろして、またカバンに戻り――の繰り返し。
時間の流れがやけに早く感じる。だから余計に落ち着かない。
「ひ、ろ、き……」
部屋の扉が開き、押し出すような声で俺を呼ぶのは誰だ!
ドアの方を見ても、人の姿はない。でも、開いてる。
ゆ、幽霊!? まさか、母さんのおばけ!?
「たす、けて……」
這いつくばってる人物発見。
「……えっと、どちら様でしょうか?」
父さんでなければ、愛里でもないその人は……分かってるけど、一応お決まりなので聞いてみる。朝っぱらからこんな姿を見れるというレア度の高さ。何だかちょっとおかしく見える。
「あ、き、と、だってば」
「何やってんの? 床掃除?」
いつも無駄に時間と整髪料を使用している亮登が全く髪をセットせずに家から出るなんて日中ならまずありえない話だ。そのうえ、匍匐前進で俺に寄ってくる。何でかよく分からないけど。
「あまりの緊張に……腰が抜けた!!」
本番に弱いな、ホントに。確か、自動車学校の時もそうだったな。目立つことなら大好きで、本番だろうと練習だろうと関係ないくせに。
腰が抜けてるわりにはよくここまで来たものだ。
俺は亮登の目の前に座り込み、
「はいはい、大丈夫だよ〜亮登」
いつもは硬くて触りたくない頭を撫でてみた。ものすごいネコ毛なんだけどな、コイツ。子供の頃から変わらない、モフモフで、ツルツルで、サラサラ。寝癖知らずの髪だ。
「やめろ、やめろってば!」
あまりにもしつこく触られるものだから、亮登は俺の手を払いのけようと、手を振り回していた。腹ばいのままで。
いやー、面白いなー、ホントに。
「おーい、愛里―。面白いものが――もがが」
「シー!!」
亮登が俺の口を塞いでくる。起き上がって。
「んーんー?」
「あ……」
自分の腰がシャキっと反応してることに、ここで気付く亮登。ゆっくり俺の口を塞いだ手を離した。
「ショック療法ってやつだな」
「いや、それにしてもヒドいよ」
「呼びましたかー?」
一階からそんな愛里の声。
「いや、何でもない」
「はーい」
きっと、愛里は首を傾げながら台所へ戻ったことだろう。
時計を確認――少し早いが、余裕を持って出たほうがいいだろう。
「亮登、そろそろ……」
「え? 早くない?」
「行く途中で何があるか分からないんだから、ギリギリよりは早い方がいいだろ」
「あー、何だか緊張して、腰が笑ってるよ、あっはっは。つーか、恥ずかしぃ」
亮登は髪型を気にしつつ、ずっと一人で喋ってた。
「え? スギ? あはははは。これがノーマルモードなんだ、へぇ……」
「見るな、そんなにじっと見るな!」
「十六歳でも通用しそうね」
「きぃ! 童顔だとか言うな!」
言ってない。そう言われてるように聞こえただけ。
そんなやりとりもあり、亮登の緊張はピーク時に比べるとずいぶんほぐれたのではないだろうか――いや。
試験が始まる前から、彼は席で小刻みに震えていた。
大丈夫かな、アレ。
そんな亮登のせいなのか、おかげなのか、俺の緊張は気になるほどのものではなかった。
あ、しまった。亮登は誉めると過剰にやる気を出す男だということを忘れていた。しっかり誉め殺しとけばよかったかな……。
一日目、試験終了。
亮登は散々だったらしく、帰るときも無言で、なぜか勝手についてきて俺の部屋に入った途端、抑えていた何かがぷつりと切れた。
「もう、ダメだ……。アタマがゴチャゴチャになって全然分からないし、マークシートを塗るだけなのにはみ出る、ずれる、ああもぅ、なんだよー」
アタマを掻き毟り、今にも泣き出しそうな勢いで膝を折り、のた打ち回った。
「まぁまぁ、明日もあるんだし、まだ大丈夫だって……」
「大丈夫なもんか! もう、ダメだ。絶望的だ。オレの夢は絶たれた……」
「二週間も頑張ってきたんだから、絶対に大丈夫だって。たった二週間で遊んで過ごした三年分の勉強をやったじゃないか。やればできる。高校受験のときだってそうだったじゃないか」
俺なりに誉めてみた……つもり?
「そ、うか?」
「そうだ。お前にならできる! いや、お前にしかできない!」
二週間で三年分マスターなんて。どうせ忘れることが前提だとしても。
「そうだよな。オレって天才だもんな。できるよな。あーもぅ、心配することなんて何にもねーじゃん。オレってば天才なんだからーぁっはっはっはっはっは!」
亮登もおだてりゃ有頂天。
俺は一言も天才とは言ってないんだがな。
「よーし、帰ってもうひと頑張りといきますか。ってことで、今日は家でじっくり勉強することにする」
「あ、ああ」
「じゃ、また明日、頑張ろうなー」
さっきまで泣きそうなぐらい失望してたくせに、帰るときは自信過剰に満ち溢れまくった表情で、彼はめずらしく自宅で勉強すると帰っていった。
あの素早い立ち直りはマネできんわ。
センター試験二日目。日曜日なのに、日曜日なのに……なのに……なのに……のに……(しつこくエコーが掛かる)。
「はっはっは、おはよう、紘貴くん。迎えに来てやったぞ」
わざわざ俺の部屋までやってきた亮登は、時間と整髪料を無駄に使用した髪型だった。
単純というか、天性のバカなのか。まぁ、この方が亮登って感じでいいんだけど、
「受験票は持ったか? 筆記用具は大丈夫か? それから――」
「ええい、やかましい! 黙ってろ!」
やっぱりうるさい。
「おっはよー。紘貴、スギ。相変わらず一緒ね」
試験会場である大学前の交差点で、咲良に声を掛けられた。
「おはよう。相変わらずもなにも、亮登が勝手に来るんだから仕方ないだろ」
「どーもー、紘貴のおさななじみ、杉山でーす」
「あ、スギが普通に戻ってる。つまんない」
「つまらんとは何だー!」
「だってさー、ぷぷっ」
咲良、昨日の亮登を脳内でリプレイして笑ってる。
あんな亮登はそう見れるもんじゃないからな。
もう、見れそうにないし。
今日の亮登は――試験会場内の自分の席で、えらそうに仰け反っていた。
自信ありすぎなのも大問題だ。態度わるいぞ、デカすぎるぞ、そこ!
試験が開始されても、亮登は震えることなく、スラスラと問題を解いているように見え――って、見てたら自分の手がお留守になってた! やべぇ!!
試験に集中せねば……って思うほど、今日は俺が緊張しまくっていたような気がする。
「ヤバい……ヤバいかも」
今度は俺が、自分の結果に不完全燃焼していた。
大学受験組がセンター試験を受けているとき、東方天空は就職先の採用試験を受けていたとその日の夜、知ることになる。
試験を終え、夕食も終え、久しぶりにのんびりゆったりと時間を過ごしていたとき、こんなメールが届いた。
件名:試験、どーだったー?
発信者:東方天空
本文:京、就職先の試験と面接、浮けてきたぞー。
そ、それだけか!
どこを受けたんだ。どうだったんだ。手ごたえはあるのか、ないのか……。
まぁ、聞くだけ無駄だと思う。
返信はあまりどころかほぼしてくれないから。
明日、学校で聞いた方がいいだろう。
つーか、何でこんな文面ごときで誤字るんだよ。
で、聞いて驚かされた。
月曜の朝。登校して来た天空を、俺と亮登は囲んで捕獲した。
「就職先? まだ採用されたわけじゃないし……」
嬉しいんだけどちょっと困った表情で、なぜか言い渋る天空。それに食って掛かる亮登。
「いいから言え!」
「落ちたら恥じゃん」
まぁ、そうだな。
「でも、どこ受けてきたかぐらい教えてよ」
俺がやさしく聞いてみると、天空は困った顔をして頭を掻いた。
「株式会社……」
語尾は小さくボソボソ。でも、何となく分かった。聞いたことがある社名だ。
……って、ええええ!!
「おま、それ、一流企業じゃね?」
俺は天空が言ったことを疑いもせず、ただただ驚いた。
「やだなぁ、聞こえないように言ったつもりなのに、聞こえちゃった?」
「ソラ……冗談ならもう少しランク下げたほうが事実に聞こえると思うぞ」
亮登は冗談だと解釈し、冷静にそう言った。
……確かに、嘘だとしたら大袈裟すぎるし、本当でも信じがたい。ありえない。
そんな思いなんて関係なく、天空は曇りのない爽やかな笑顔で俺たちに言った。
「ま、採用決まったら改めて」
ということで、うやむやにされ、俺たちから天空の就職先のことなんて忘れ去られることになる。就職には無縁そうなキャラだし、自分でも、もうすぐ卒業って気がしてないし。
センター試験を無事に終えたせいか、むしろ緩んでいた。
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2008.07.14 UP
2009.07.30 改稿