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  俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス


  【10】


「ねぇ、何で!? 何でここでインスタントが出るかなぁ。アリエネーよ」
 確かにアリエネー。俺が食事を担当するようになって、インスタント月一ぐらいでしか見たことない。疲れて作る気力がないとき限定のありがたいアイテムだから。
 しかし、今、食卓に並んでいるにはラーメンだった。即席の袋麺。
「スギ? 言いすぎよ。ここで帰ってもらっても構わないんだけどね」
「いえいえ、別に、そんなつもりじゃ……」
 だったら黙ってろってことだな。喋らなくてよかった。
 でも……俺の無駄に終わってしまった期待を返して欲しい。
「具だって乗ってるでしょ? もやし、キャベツ、ニンジン、かまぼこを炒めたものが!」
 まぁ、そうなんだけど……でも、やっぱり、それでも、ただの、即席ラーメンだよ!!
 カップじゃなかっただけ、ありがたく思おう。
 お湯、沸かしました! なんて自信満々に言われたら、たまったもんじゃない。


「いっただっきまーす」
「いただきます」
「たくさん食べてね。なんてね。あはは」
 本日の昼食――ご飯、具入り即席ラーメン、たぶん玉子焼き。
 たぶんなのは……見た目がちょっとアレだから。
 モザイク入れとこうよ、ココは。というか、無理せずスクランブルにしとくべきだったと思うよ。
 どちらが作ったか、怖くて聞けないけど。
「卵はプレーンだから、好きなものをつけて食べてください」
 と、ケチャップ、粉チーズ、マヨネーズ、醤油が出てきた。
 ……この卵料理は愛里か!! しかも、プレーンときたか……無難だな。
 でも……量を考えろよ。いったい何個、卵を使ったんだ!
 中皿に、たぶん玉子焼きは、三本分も盛られてる。およそ卵六個分? コレステロールが……。
 味は――それに恐る恐る箸を伸ばし、何もつけずにパクリ。
 ……卵だった。何の味にも誤魔化されていない、ただ火を通しただけの卵にすぎなかった。
「無味じゃないです?」
「卵の味はする」
 無味って、自分でも分かってんのか、愛里。
 でも……それでも、食事中、終始嬉しそうな顔をしていた。
 咲良が手伝ったとはいえ、いや、逆か? 自分で作った料理だもんな。
 人に食べてもらって、喜んでもらえることが嬉しいって、俺だって分かってることじゃん。当たり前になりすぎて、忘れかけていたけど、思い出した。
 亮登の母さんに料理教えてもらって、父さんに作ってあげて、喜ばれたことを。
 ラーメンだって、卵料理だって、愛里にすればものすごい進歩ではないか。ここは素直に誉めてやるべきかな。
 でも……ラーメン、ちょっと伸びてる? 火にかけすぎかな。俺の好みと比較すると、だけど。
 それとも時間差の関係ではずれくじ? 硬め希望、でした。いまや過去形。
 四人分作るのに、どういう工程だったかでかなり変わると思うんだけどね。麺の状態。
 ならば、相手の口に入るまでの時間を計算して――って、いきなり難易度高いか。
 まぁ、亮登が満足げを超えた「悦」な顔をしてるので……何も言うまい。
 でも、それ、即席めんでしかないんだけど。
 俺だって嬉しいはずなのに、ものすごく虚しい気分なのはなんでだろう。
 やはりラーメンのせいだ。せめて棒ラーメン。
 そう考えれば考えるほど、虚しさ倍増。もう、考えるな。
 退化したんじゃなくて、進歩してるんだから、これでも。


 質素な昼食を終えると、女性陣は片付けをすると言って男達を台所から追い出した。
 そうなって行く場所と言えば……俺の部屋でしかない。
「せめて、チャーハンとか出てきて欲しかった!」
 亮登はまだそんなことを言っている。
「まぁあれが普通なんじゃない? 料理始めたばかりって感じで」
「紘貴なんかアレじゃん。ウチのオカンに料理教えてもらった当日には、魚の刺身作ってたじゃないか!」
「いや、あれは……」
 パックのものを盛り付けただけでもなく、刺身用のブロックを切っただけでもないけど、あれは師匠が悪かっただけ。いきなり、難易度高かったからな、亮登の母さんの指導は。
「後から聞いてショックだったけど、あれ、亮登の母さんが、手が魚臭くなるのがイヤだっただけらしいけど……」
 要は押し付けられたとも言う。
 散々褒めちぎられて、料理人にでもなれ、って言われたような……。
 まぁ、その結果、料理を作るのが好きになったとも言える。
「それでも……」
「素質のある、ない、かもな」
 愛里は、やればできるとは思うけど……やっぱり初日の火事未遂が原因でできないって決め付けてしまう。
 やっぱり、きっかけが大事かな。
 ――ガチャ。
 ドアが開き、戻ってきたのは咲良。
「さ、勉強の続き、しましょ」


 俺と咲良は黙々と問題を解いていた。
 たまに咲良が俺に質問をした。
 昨日の夜とたいして変わらない状況。
 まぁ、亮登がいることを除けば。
 で、亮登は……俺のノートを覗き込んで、「んー」とか「んん?」とか「お!」とか言う程度。自ら勉強するのはイヤでも、俺が解くのを見て、覚えているつもりなんだろう。亮登にしては静かにしているし、すぐ飽きるくせにやけに真剣に見ている。
 喋ったり騒いだり、勉強の邪魔になる行動をとったら咲良に怒られるからな。さっきみたいに。
 俺でも普段、ここまで勉強しないのに……だから飽きる。もう、昨日から勉強ばかりで飽きてきた。科目変えてもやりたくない。
 あー、ダメだ、ダメだ! もう、ダメ!
 俺はシャーペンをノートの上に置いた。
「すまん、リタイア」
 同じ体制でじっとしてたから、背中が何だか気持ち悪い。飽きたというより、このせいで集中もできない。とにかく、体を動かしたい。
 立ち上がって体を伸ばし、グルグル回し、背中あたりの言い表せられない気持ち悪さは少しなくなった。
「あーちょっと待って。この問題で最後にするから……」
 と、咲良は開いているページ、最後の問題を解き始めた。

「いやぁ、よく黙って勉強してられるなぁ」
「お前も受験生だろ。亮登の場合、四倍ぐらいやんないと間に合わないぞ」
「あれ、マークシートなんでしょ? 何とかなるなる」
 運で何とかするな。俺は知らないからな。今のうちに就職先でも探しとけ。
「で、決まった? どの学部にするか」
「あ、いや……」
「サクラはどうなの?」
「私? 薬学部志望。一応、第二希望は医学部かな」
 ――い、
「「医学部――!?」」
「別に医者になろうってんじゃないのよ。看護学。第二希望が、だよ」
 あー、びっくりしたー。
「願書に第二志望まで書かなきゃいけないから、紘貴もちゃんと決めといた方がいいよ」
 まだ、第一も決まってないってのに……。
「えーっと……とりあえず、俺も薬学部あたりにしとこうかな……」
「うわ、ヒロちゃんってば!」
 そういう呼び方すんな、亮登。
「え? いいのそんなんで」
「だって……よく分からんし……」
「薬学部、今は六年制課程だけど、ホントにいいの?」
「え゛!?」
 ろ、六年!?
「四年制課程だと、国家試験受けれないのよ」
「よし、分かった。俺は医者になる。だから咲良は薬を調合できる看護師になれ」
「あははは。おもしろいかもね、それ。でも、冗談でしょ?」
「当たり前だ。本気でそんなことが言えるか!!」
 ちょっと、混乱気味です。

 とまぁ、悩んでたわりにあっさり決めて、後悔している俺がいた。
 でも、言ったからには、目指すは薬学部! 国家試験で薬剤師だ!


「へぇ〜、薬学部。この辺りの大学にはないよね」
「うん、県外――近くても隣の県みたい」
「なるほど……」
 仕事から帰ってきた父さんを捕まえ、ようやく決まった進学先について話をした。
「でもまぁ、これって……血なのかな?」
 血?
「まさか医療に関係あるところとは……僕が何も言わなくても、どこかで知ってるんだね」
「何の事だよ」
 さっぱり意味不明だ。一人で納得してないで、教えろよ。
「貴子さん……ヒロくんのお母さん、看護師だったから。そういう所に行きたくなるのかなーって」
 ……母さんが? 看護師。初めて聞いた。
「ま、何はともあれ、ヒロくんが自分で決めたことだから、父さんはそれをバックアップしていくよ」
「うん、ありがとう」


 センター試験まであと……三週間ちょっと。
 その前に正月が来る。
 インフルエンザも猛威を振いはじめる。
 とにかく、体調管理だけはちゃんとしとかないとな。

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2008.07.02 UP
2009.07.25 改稿
2011.11.21 改稿