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俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス
【9】
「父さん見て。あのおじいさん、サンタさんかな?」
真っ白なヒゲを蓄えたじいさんを見つけた俺は、一緒にいた父の服を引っ張りながらそんなことを聞いた。
「あれはサンタさんじゃないよ。ヨンタさんだ」
「ヨンタさん? なにそれ」
「サンタじゃないってことだ」
「ふーん」
その時の俺には意味が分からなかった。
でも、今思い返せば……からかわれてたのか、バカにされてたとか、そんな風に思えたりもするが、懐かしい思い出だ。
今年のクリスマス……響咲良というサンタがやってきた。
彼女は、俺にとって欠けていたもの、今までに感じたことのないたくさんの想い――幸せをくれた。
俺にとって、今までにない最高のプレゼントだった。
もうすぐ受験という時期になって、ようやく見え始めた将来の希望。
とにかく俺は、咲良と一緒にいたい!
それだけでも、道が見えてきた気がするんだ。
□□□
夜遅くまで話していたせいか、目が覚めたのは七時。思わず飛び起きて、危うくこたつをひっくり返しかけた。
慌てて一階へ降りて台所へ行くと、食事の最中な父と継母。
二人の前にある皿にはトーストとベーコンエッグ、ウインナー。父はコーヒー、愛里は紅茶が並んでいるという状態。
でも、誰が作ったんだ?
「おはよう、ヒロくん。朝ごはんはできてるからいいよ」
「ん、うん。ごめん……」
「寝坊するほど頑張らなくても……ププ」
……何もしてねぇよ、このやろぅ。何考えてやがる、こんちくしょう。
「勉強しすぎも、体に毒だよ……ククク」
からかってんな、親父。
いや、こんなのに付き合ってる場合じゃない。
「誰が作ったの?」
「僕――」
なんだ、やっぱり。愛里のためなら作るんだな。俺と咲良の分はないみたいだけど。
「と言いたいところだけど、愛里さんです」
「うそっ!!」
反射的にそんな言葉が口から出たせいで、愛里は眉をひそめ、ちょっと機嫌悪そうな顔。「あたしにだって、このぐらいできます!」とでも言いたげだ。
ウチに来た頃は危うく火事にしかけた女が、よくぞここまで進化した……というか、言いすぎた。すまん。
「だから、ゆっくりしといていいよ」
「あ、ああ……」
自分の食事だけ作ったって仕方ないし、ここは部屋に戻るしかないよな。
でも、どうも、しっくりこねぇなぁ。
階段を昇りながら、首をひねっていた。
楽なはずだろ? 朝食を作ることから開放されつつあるんだぞ?
しかし、どうも、落ち着かないというか……職業病かな――って、どんな!
朝、早く起きて食事を作るのが俺の習慣だったからなぁ。
これからどーしよう。二度寝するにも、もう目が覚めちゃったし。
いつものように自分の部屋ドアを開けると、そこはいつもの風景ではなかった。
これ、愛里でもやったことないんだけど。俺が愛里に見られそうになって慌てたことはあるけど。
「…………っ! ごめっ!!」
勢いよくドアを閉めて背を預け、少し考えたが……やはりとんでもないことをしてしまった! とアタマを抱えてその場に座り込んだ。
――なにやってんだ、俺。
さっきまで寝てたじゃん。何で着替えてんだよ……。
いや、あんまりみてないよ。少し、ちょっぴり、ちらっと、見えただけだから、下着姿。
…………。
必死になって思い出してんじゃねぇ! あーもぅ、バカ。
ここで突然ドアが開いて縋るものがなくなった。体勢が保てず、後ろに転がって、見下ろす咲良と目が合った。
「……すみません」
「これはまぁ、仕方ないとは思うんだけど……何してるの?」
「何って、縋ってたドアが突然開いたから、そのまま転げたというか……」
そのまんまです。
「朝食、作らなくていいの?」
「いや、それが……」
と、経緯(?)を説明。
すると咲良は、何か知ってそうな表情。
「それ、私が教えたの」
なに――!?
いつ、どこで? 何で?
「ほら、終業式の日。紘貴寝てたからすっかり忘れてたと思うけど、愛里ちゃんの昼食がなくてね。まぁ、私もなんだけど。スギと東方もお腹すいた〜って騒ぎだしそうな勢いだったから、台所と材料借りたの。返してないけど」
「亮登は帰ればいいだけなのに?」
「私もそう言ったけど、寒くて凍死する! って駄々こねて」
……アホだ、アイツ。
「その時、愛里ちゃんが料理できないって知ったから、教えながら一緒に作ったの」
「へぇ……。で、目玉焼き?」
「そうそう。特に手間も掛からないし、簡単じゃない。……ちゃんと一人で作れるようになったんだ。よかった」
よかったような、悪いような。楽になった分、火事になる確率も上がった気がするよ。
「料理、愛里ちゃんにちゃんと教えとかないと! 今まで、全然やらせてないんでしょ?」
「初日に火事にされるかと思ったから……。でも、トーストの焼き方なら……」
「それだけ? あの子、やればきっとできるはずだから、ちゃんと教えてあげてよ?」
「……はい」
「私と同じ大学へ行くつもりなら、特に」
あ、そうか。
だいたい、家から通える範囲で探そうとしてたのに、いきなり県外の大学に決めちゃったもんな。
そうなると、俺は家から出て一人暮らし。俺は大丈夫でも、父さんと愛里は……。父さんが料理できるけど、仕事してるんだから、それまで任せるわけにはいかない。
俺が家を出るまでの期間に、愛里に最低限の料理を教えておかなければ……。
でも、受験勉強もしなきゃならないし、まだ、どの学部にするか考えないといけないのに……。
父が出勤した後に、俺たちは朝食を取り、
「やーもぅ、どーゆーこと、これ!!」
九時過ぎた頃になぜかやってきた亮登が、咲良がウチにいることをピーピー言っていた。
「お前も一応、センター受けるんだろ? 受験勉強というものをしたらどうだ?」
俺と咲良は、することが特になかったこともあり、受験勉強の最中なんだから。
「マジメぶっちゃって! もう、課外授業とか終わった後なんでしょ! キィー、うらやましっ!」
課外授業って……何だよ。
亮登の口から発されたものだから、あっちの方だとは思うけど。
「邪魔するなら帰れ」
「帰ってやんない。ココ、暖かいから」
エアコンのせいで居座られちゃ、気が散ってたまんねぇ。せめて黙ってろ!
「黙ってろよ。ならまだ許せる」
「あーもぅ! 分かんなくなっちゃったじゃないのー!!」
「ごめんなさい」「すみません」
亮登と俺が、咲良へ同時に謝った。
十一時半ぐらい――俺は昼食を作ろうと思い、その旨を咲良に伝えて立とうとしたら、
「私と愛里ちゃんでやるから、ゆっくりしてて」
って……マジで!? 何だか嬉しいけど、不安も付きまとう。
まぁ、ココは好意に甘えて……。
「亮登、昼には帰るんだろ? もちろん」
「まさか。ご馳走になりたいに決まってんじゃん。アイリちゃんの手料理……」
……目玉焼きとトーストでもか?
何だか、気分は良くない。咲良の手料理でもあるし、愛里だって作るものを、亮登が食うなんて、何だか……嫉妬、なのか? これ。
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2008.07.02 UP
2009.07.25 改稿
2011.11.21 改稿