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俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス
【8】
お、俺も男だ。男なんだ。男なんです!
そ、そのぐらい、どうにでも――できるもんと、できんもんがあるんじゃー!
小心者ですよ。何かと損な性格ですよ。でもさ……何で、キ……。
うわぁ――――!!
アタマに両手を絡み付けるような格好で、俺は止まっていた。
まばたき回数も最小限。
見事に止まっていた。
というより、動けなくなってた。
その要求――心の準備ができてません。
「……イヤ?」
イヤじゃない。イヤな訳じゃないんだよ。むしろ、びっくり仰天なんですよ。
アタマのロックを解除した手を前に突き出して横に振りながら、首を思いっきり横に振って、それをアピール。
「じゃ、ダメ?」
あの、ダメって訳でもないんだよ。何と言うか、ちょっと……。
俺は手と首を横に振るのをやめて、ちょっぴり悲しげな表情の彼女を見た。
「あの、ね。なんと言いましょうか……」
何て言ったらいいんだろうね、ホントに。まぁ、何を言ってもいい訳にしかならないか。
「……プレゼント」
「ごめんなさい」
咲良、かなり拗ねぎみ。参ったなぁ、マジで。
かなりの慎重派さんなのは俺が一番よく知っている。
やってできないことは二度とやらない。同じ失敗は繰り返したくないからな。
で、悪い参考資料が近くにいたもんで……亮登。女遊びのプロフェッショナルとでも言おうか? 言い過ぎか。ただ、年中無休で彼女募集中で捜索中なだけだけど。でも、手が早い。
そんなアイツの身にいいことあったか? 全くない。むしろ悪い方向にしか行ってない。
いや、そうやって自分を正統派しようとしてるだけか? そうかも。
ただ、思ってることはひとつだけ。結局、それでしかない。
臆病なだけかもしれないけど、
「でも、あの、早すぎません?」
何日目でこの展開? 片手で足りるよ。
しかし、何を基準に早いとか言ってるのか、自分でも分かってないんだけど。
「……ケチっ!」
思いっきり拗ねた!! 顔を背けてぷいって。
ああもぅ。
ものの数秒の行為に何を躊躇う!
俺も俺だ! 亮登みたいなのもよくないけど、俺みたいなのもよくない!
したことなくても、分かってるだろ。
そっと頬を撫でてみるだの、肩をつかんでみたりして、顔はちょこっとずらして。鼻が当たるからな。呼吸はどうだか分からんが、ゆっくり距離を縮めて、そっと、触れる程度で……。
やればできるじゃないか、俺。
掛け布団を膝にかけ、壁に背を預けて敷布団の上に座っていた。
落ち着きなく目は泳ぎまくってるけど、かなり近い距離で、肩が触れる距離で並んで座り、話していた。
さっき、聞きそびれたことを。
「二学期から、話せるようになったじゃない? それで印象ががらっと変わったというか……自分でもよく分からないんだけど、文化祭ので自覚した。私、紘貴が好きなんだなーって」
「……おかえりなさいませ、お嬢様、って言うはずだったんだけど、あれ。緊張しすぎて誰だか分からず、とにかく言ってみた」
「わ! 悶えちゃう! でも、誰でもよかったの? 何だかショック」
咲良は身じろぎしながらそんなことを言う。
「悶えるな。でも、咲良でよかったと思うよ、今は。あんな恥ずかしいセリフを吐いたことを後悔せずにすむから」
人生の恥から、彼女を射止めた(?)セリフにランクアップで。……それでもしっくりこないな。俺は執事か?
「文化祭終わってからすぐぐらいに、愛里ちゃんの件で変なウワサが蔓延したじゃない? 正直あれ、ショックだったなー。紘貴にただならぬ関係の彼女発覚! みたいな感じで」
「こっちも迷惑だったよ、あれ。危うく退学させられるところだったし。あれは亮登のおかげで……」
あ……。
「そういえば、俺が校長室に呼ばれて教室を出た後、クラスのみんなを説得しようとしてたよね」
――吉武はそんなことする人じゃない! 彼女の必死の訴え。俺にも届いていた。ウチの事情も知らないのに信じてくれて、ものすごく心強かった。
本人は聞こえてなかったつもりだったらしく、俺が聞いてたことにひどく驚いた。
「やだ! 聞こえてたの!?」
「うん、聞こえてたよ。あれ……すっごく嬉しかった。そういうのがあったからだろうね。咲良の印象とか変わったの」
告られてから意識しはじめたくせに、好きだと認識するのと、その後の行動は早かったな。まぁ、次の日が終業式だったってこともあるけど。
でも、何で突然、好きになったものか……その辺りのメカニズムがよく分からないよな。
ふと、隣に座る彼女の表情を確認すると……口に手を当て、あくびをしていた。
「眠い?」
そう聞くと咲良は頷き、目を擦りながら「少し」と言った。
「じゃ、もう電気消すよ」
「うん……」
俺が電気を消しに立つと、彼女はのそのそと布団に潜り込んだ。
「おやすみ」
「おやすみ〜」
こたつの位置を確認し、電気を消した。
とりあえず、こたつで寝よう。どうにも眠れないようなら、リビングにでも行こう。
そう考え、狭いこたつに入って寝転び、布団を引き上げると……。
「こちら、空いてますよ?」
ちょ、待って。ご冗談……。
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2009.07.25 改稿