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  俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス


  【7】


 濡れた髪。紅く火照った肌。寝巻き姿。
 目撃ドキュン――ばたり。
「あーもう上がったんだ。飲み物いるなら冷蔵庫。どうぞ、勝手にどうぞ。そういうことで、次は俺が風呂に入ってくるので、まぁ、適当に、二階にでも上がっといて」
 なに喋ってんだ、コイツ。って、俺。
「何で泣いてるの?」
「な、泣いてねぇよ! ハウスダストのせいだ――ぁっくしょん!!」
 ずるずる。


 ――ブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク……。
 口まで浴槽の湯に没していた。
 ……さっきまで――シャットアウト!
 ……ひび――断線!
 ……風呂に――切り刻んで、捨ててしまえ!
 ……あ、髪のk――どぅあらぁあああああ!!!
 この、変態! ド変態、超変態、もう大変。
 思考回路に欠陥があるようです。リコールできますか? ああ、無理だよね。分かってますよ。欠陥じゃないもんね。俺がそういうの、好きなん――好きじゃねぇ。いや、キライなわけでも……。
 そうさ、どうせ、変態さ。父さん譲りの変態だ。遺伝子のせいなんだ。
 ――チーン。
 脳内に響いたリンの音と共に、がくり。
 今の俺、どこの誰? 別人だよね。昔に比べると。
 俺って……こんなヤツだったのか……。


「長かったね」
「そ、そーっすかー?」
 何とか自分の部屋まで戻ってきたが、長湯しすぎてのぼせて、ふらっふらだけど。
「で、何やってんの?」
「問題集」
 狭いこたつの上に、けっこう厚い本を広げ、なにやら問題を解いている。
「数学?」
「うん」
 俺が部屋に戻ってから、響はこちらを見ることなく問題に取り組んでいる。あまり話しかけて邪魔するのも悪いな。しばらく黙っとこう。
 ……俺も問題集でもやるか。どうせすることないし。
 問題集を取りに行こうと思ったら、下から声を掛けられた。

「ヒロくーん。ケーキ食べようよー」

 ……。
 はい。
 勉強、中断してください。

 リビングでケーキをつついて、何だかんだで一時間も笑い話で盛り上がった。
「文化祭の時、仮装喫茶で紘貴くんね……」
 ……まさか!! 響さん、それ以上は……!!
「私に向かって、いらっしゃいませ、お嬢様! って言ったんですよ」
 あぎゃー! 赤面ものの取り消したい過去、ついこないだ。
「え、ホントに?」
 驚く愛里。父はにんまり笑って、これまた嬉しそう。何も言わないで欲しいんだけど。
「そういう趣味があったのかー!」
 そういう趣味はない! 亮登が、だな……。
 俺はとにかく、首を思いっきり横に振り続けるしかなかった。
「いやっ、もう、勉強するから。こちら、一応、受験生なので」
「はいはい。またゆっくり聞かせてもらうよ」
 聞かせたくない! 取り消して! 記憶の彼方に葬り去って!
 俺は逃げるように響を連れてリビングを出た。

「言うか? こんな時に……」
 階段を昇りながら、俺はぼそっと不満げに言った。
「……怒った?」
「いや、別に怒ってはないけど……」
 うん、怒ってはないんだけど……嬉しくはない。
「ごめんなさい。でも、あれがなかったら、私、ここにはいなかったかも」
 え?
 階段を昇りきった俺は、止まって振り返り、数歩遅れて上がってくる彼女を見た。響きも立ち止まって、俺を見上げていた。
「あれがトドメだったの。ある意味」
 へ、へぇ……。響ってそういう趣味だったんだ。何だか、意外だね。
 っていうか、詳しく聞かせてよ、その辺り(どの辺り?)。俺の部屋で。
「こんな所で止まらないで。寒いわ」
「ああ、ごめん……」
 謝って隅に避けると、彼女は残り数段を昇り、俺の横を通りぬけて部屋へ入っていったので、慌ててその後を追った。

「どこまでやってたっけ……」
 彼女はすでに、問題集を開き、続きを開始しようとしてた。
 ……しまった。聞くタイミング逃した!
 俺も仕方なく、勉強を始めることにした。

 狭いこたつで向き合って座っているが、向き合っているのは問題集の方。
 俺が何問目かの問題を解き終わると、
「ね、これ、どうやって解くの?」
 と響が聞いてきた。
「これは……」
 俺のやり方でその問題を教えて解いていく。
「あ、そっか。うん。ありがとう」
 彼女は次の問題へ。
 次に質問されたときも、問題を解き終えた直後だった。
 俺が問題を解き終わるまで待ってるのかな? 別にそこまで気を遣わなくてもいいのに。

 特に会話もなく集中して問題集をやっていたが、そろそろ勉強するのにも飽きてきたので時計を確認すると、時間は深夜12時を回っていた。
 このまま黙ってたら、いつまでやってるか分からないよな。
「もう、十二時過ぎたから、そろそろ……」
 寝ないか? なんて言えねぇ!!
「え? わ! もうこんな時間だったんだ……あまり遅い時間まで起きてたら、サンタさん来ないからね」
 サンタねぇ……そういう歳でもないと思うけど、
「そうだね」
 と、笑いながら相槌を打った。
 彼女は「バカにしてるの?」なんて言いながら、カバンに問題集と筆記用具をなおし、
「サンタさんじゃないけど、プレゼントがあるの」
 カバンから、クリスマス仕様のラッピングが施してあるものを取り出して、俺に差し出してきた。
「ただのお揃いの携帯ストラップだけど……良かったら使ってね」
 開ける楽しみ、奪われた!!
 開けてからのお楽しみが良かった!!
 でも……嬉しかった。受け取る前から、顔が緩みっぱなしだ、このやろう。
「ありがとう」
「開けてみて」
 とても嬉しそうな彼女にそう言われるがまま、包装を丁寧に開けて中身のご登場。
 ストラップだ。くり抜きクロスで、黒い紐がついたもの。
「ちなみに、私のは……」
 と、携帯を見せてくる。すでに使い始めているそれは、俺のクロスの中にすっぽりと入りそうな大きさの十字架がついた、白い紐のストラップ。基本、同じデザイン。
 ペアストラップ?
 ……やば。嬉しすぎ。
 携帯についている、今じゃついてこない純正ストラップとはおさらば。外してさっそく、貰ったものを取り付けてみた。
 ……俺の携帯じゃないみたい。
 響は嬉しそうに、ウフフと小さく笑った。
 ……洗濯されないようにしよ。携帯の管理は、あれから厳重にしてる――というか、部屋に置きっぱなしが多いけど。ここ最近、手放せなくなってきたから気をつけなければ。
 しかし、困ったなー。クリスマスにプレゼント貰うだなんて、予想もしてなかったからなー。何もプレゼントを買ってない。
 だからといって、俺が愛用している何かをあげるという手もあると思ったが、そういう愛用品もない。
「ごめん。せっかく貰ったのに、俺、何も用意してなくて……」
 彼女の顔から笑顔がなくなり、きょとんとした表情になった。
「じゃ、私のお願い事、聞いてもらえる?」
 と、薄く微笑みを浮かべた。
「願い? 何? 俺にできるんだったら……」
「吉武にしか、できないことよ」
 え!? 何だかちょっと、怖いな、それも。俺限定って……。
「まず、私のこと、名前で呼んで欲しいわ」
 な、名前!!
 いきなりだと、ものすごく恥ずかしいんですけど!
 でも、プレゼント用意してなかったんだし……。
「苗字で呼び合ってるのも、何だか……って思うの。だから私も……これからはできるだけ、紘貴って呼ぶようにするから」
 どっかーん。
「ヒロかもしれないけど」
 ちゅどーん。
 なんだここは! 地雷でも埋まってんのか!
 次は、頭がバクハツする!! もぅ、顔がもんのすっごく熱いです。
「ね?」
「う、うん、そうだね。さ、さ、さ……」
「ん?」
「さ、さ……」

 以下、しばらく同文につき、省略。
 五分後の様子をお送りします。

「さ…………咲良……」
 俺、どんだけー。
 みっともねぇ。
 つい数日前同様、肩落としてがっくり。
 進歩ねぇ、俺。
 赤かった顔も、きっと真っ青よ、今頃。
「もう一つ……」
 よし。どんとこい! 次はうろたえねぇ!
 響――いや、咲良の顔をまっすぐ見つめ、言葉を待った。
 しかし、なかなか口にしてくれず、待つ事二十秒ぐらい。
「キス、して」
 ひゆるるるるるる……どどーん。ぱっぱっぱらっぱ……。
 その花火で俺も一緒に打ち上げてw
 というか、すでに魂(意識)のみ打ち上げられてた。そんな気分。

 き、き、キ――――!!!

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2008.06.30 UP
2011.11.21 改稿