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俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス
【6】
「いただきまーす」
「うわぁ、おいしそうですね〜。特にシチューが」
「アンタが作ったんだろ!」
「あれ? 何でバレたかな……」
「ウチで料理が作れるのは、男だけなんだよ!」
「その言い方、さりげにショックです」
今までにない、楽しい食卓だった。
小さい頃、父さんが仕事で遅い日は、亮登んちで夕食を一緒に食べていた。楽しいのに、楽しくなかった。父さんが迎えに来て家に帰ると、虚しくなった。
どうして俺には母さんがいないの?
俺を生んで死んだことは知っていた。
だから俺のせいなんだって、自分を責めてた時期もあった。
俺は母さんの顔すら知らない。写真でしか見たことがない。どんなに聞いても、父さんは母さんのことをあまり教えてくれなかった。そして、母のことを聞いたとき、父はとても辛い顔をするから、いつしか聞けなくなってしまった。
名前ぐらいしかまともに知らない、もういない母。
父さんと、ずっと二人で暮らしてきた。
俺の誕生日……母さんの命日に、父さんが一人の少女を連れてきて、家族が増えた。
それから、ずいぶん楽しくなったよ。
慣れたと思ってたんだけどな……。
生まれてからずっと、それが当たり前だったのに……。
俺を生んでくれた母さんがいないって、やっぱり悲しい。
だけど……楽しいよ、今日は。なのに、気を抜いたら泣きそうになるんだ。
あーもぅ、自分でも何だか意味わかんないぐらい複雑なんだよ、今の心境!
「よーし。では、紘貴くん、祝、初彼女! かんぱー」
「やめい!!」
「メリークリスマース」
「カンパーイ」
よし、女性陣、ナイスフォロー?
持つべきものは、バカを平気でやる親より、それをカバーできる人だな。
未成年者は子供のビール(見た目はビールにかなり似ている)、大人(中身は一番低レベル)はアルコール入りを注いだグラスを全員で合わせてまずは乾杯。
んー、何がめでたいんだ? 気にするな、だな。とにかく、パーティだ。
今までにない、女性二人を加えて。
今まで? ……寂しいものでした。父と二人で、ちょっと豪勢な食事をつついて……思い出しても泣けてくる。
今年は、とにかく華やかで賑やかだ。
調子に乗って、父さんが人前で俺の恥ずかしい過去話を始めたのは頂けないけど。
「うわーもー!! それ以上言うなぁぁあああ!!!」
もぅ、みんな大爆笑ですよ。
仕返しを開始してみたいが、父さんのって思いつかないな。とりあえず、よそにかわせ。斜め前の愛里さん、笑ってられるのは今のうちだぞ。
「笑ってるけど、愛里は初日に洗濯機で俺の携帯水没させたじゃないか」
「いや〜ん、もぅ、やめてください、その話! っていうか、紘貴くん、雷に怯えてたじゃないですか!」
「なっ……オマエもだろ! つーか、違う! あれは、服がなくてだな……」
「え? 裸で家の中うろついちゃったわけ〜? 若い奥様がいるのに……ヤダわ、ヒロくんw」
「いや、だから……あれは、雨で濡れて……、着替え忘れただけで……」
愛里に抱きつかれてなんとかかんとかで、混乱してたと思ったら突如キレて……なんて言えないよな、さすがに。
吹っかけて、結局、負けてんの俺じゃん。
響! 笑ってんじゃねーよー。俺は泣きそうだ。惨めすぎて。
そんな楽しい食事も終わり、父さんと愛里はさっさとリビングへ。俺と響はもちろん後片付け。
俺がスポンジでざっと皿の汚れを落とすと、響がそれを丁寧に食洗機へ並べる。見事な連携プレイで、いつもより多い食器は短時間で片付いた。
次は風呂だ。
もう、特にすることもないので、響に入るよう勧めた。
「じゃ、二階に着替え取りにいくね」
「うん」
テーブルを拭き終え、調理台をフキンで拭いていると、響が降りてきた。
「あの、タオルは?」
「洗濯機の上にあるよ」
「じゃ、お借りします」
「洗濯物、洗濯機に放り込んどいていいから。みんなが風呂に入り終えたら洗濯始めるし」
「え!?」
……え?
……あ!
「いや、今の洗濯係り、俺じゃないから。愛里だから、大丈夫」
「……そうなんだ。うん、分かった」
と言って、洗面所のドアは閉じられた。
でも、思いっきり今、勘違いしたよね。俺、そこまで変態じゃないし。
……。
いやっ、何も想像してないぞ、何も……。
……あ、しまった。二階に戻るって言っとけば良かったかな。まぁ、用事済ませたら降りてきたらいいか。女は風呂が長いらしいからな。
二階の自室で、自分の着替えを出し、布団を敷いて――。
ふ、ふと……。
…………。
一組ってのは、マズいよな。とはいっても、二組敷くのもどうよ?
……隣の部屋、物置みたいになってるけど、布団ぐらい敷けるよな?
よし、思い立ったら即行動! 血迷う前に。
しかし、いつから使ってないのか不明なその物体、というか布団なんだけどね。
「うぇっ、げほ、げほ……っくしょん」
カビ臭い、埃スゴい、ハウスダストで咳が出る、鼻水が出る、涙が出る、くしゃみが出る、何だかかゆい。
使い物にならん! つーか、変な菌で死ぬ。
さりげなく部屋の窓を開けて退散。ドアはきっちり閉めたけど、なかなか諸症状は治まらなかった。
着替えを持って降り、一度リビングに顔を出して聞いてみることにした。ちょっとどころかかなりイヤな予感はしてたけど。
「父さん、布団、もう一組ない?」
鼻をすすり、涙がなかなか止まらない目をこすりつつ聞いてみたが、
「……ない。一緒に寝なさい」
「ちょ、待て! 親が言うことか、それ――っくし!」
ハウスダストめ……。
「じゃ、こたつでヒロくんが寝る」
「いや、はみ出るし。それより、同じ部屋なのはどうかと思うんだけど……」
「……細かいなぁ。響さんはヒロくんの彼女で、泊まりに来てるんでしょ? 分かってるよ、そういうの」
ど、どういうの?? 何を分かってんの??
「あーもぅ、あっち行け! 愛里さんとのラブラブ時間を邪魔しないで。子供(ガキ)がうつる」
そんなに邪魔かい、俺。
まぁ、万が一の場合は、リビングで寝るとしよう。
無言でリビングのドア、バタン。
子供なのは父さんの方が上だと思うんだけど……考え方がまだまだ子供だとでも言いたかったのかな。
なんて言われてもなぁ……。
まぁ、帰らないみたいなことを言い出したのは響だけど……ああん、いやん、もぅ!!
「何で、廊下で悶えてるの?」
――ぎゃっ!! 響さん!!
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2008.06.27 UP
2011.11.21 改稿