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  俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス


  【4】


「あ、あの……今、何て言った?」
 思わず聞き返した。
 もしかしたら、聞き間違いとか、実は冗談とか、その類だとも考えられるし。
「今晩、泊まってもいい?」
 言い方が変わって、理由が明確になってしまったじゃないか。
「いや、ちょ……待って。え? え? はぁ!?」
 冷静になれ、なるんだ。そんなイキナリ言われてもだな……そうだよな。マズいよな。
「無断外泊はダメだよ、うん」
「大丈夫よ。親にはちゃんと許可もらってるわ」
 ほ、保険付き!! もらってくんなよ! 前もって言ってくれよ! っていうか、
「女友達の家に泊まるという嘘とか?」
「嘘なんかつかないわよ。ちゃんと、吉武の家って言ったもの」
 それで許可が出るんかい! おかしくねーか?
「今、ありえないって思ったでしょ? ウチの親だって吉武のこと知ってるのよ? だからこそ、かもね」
 ……ああ、買い物とかでたまに響のお母さんに声掛けられるよな、未だに。
「吉武の人のよさ、知ってるのよ。信用されてるっていうか……お母さんには吉武とつきあってるって言ったし……」
 それ、嬉しいけど、素直に喜べないよな、ここは。
「だから、心配無用。あとね、勉強も教えてもらおうと思って……」
「ちょ、ちょっと待とう。俺んちはどーだか分かんないよ?」
「ダメって言われたら、素直に帰るわよ」
 強引じゃなくてよかった……。素直が一番。
 俺は素直に慌てて、戸惑って、取り乱してるだけだけど。
「どちらにしても、一度、吉武の家に行かなきゃね」
 え、え、え、え!!
「出る前に、荷物置いてきちゃったし」
 そうか! あの荷物はお泊りセットだったのか! あわあわあわ。
 準備よすぎ、あなたは。

 公園から俺の家に向かう道。
 普通に話しながらも俺の脳内はよからぬことでイッパイになり、決壊寸前だった。
 いくら俺が今まで苦労したからって、こう、短期間のうちにいいことばかり起こってたら、後が怖いんだけど。
 垂直上昇した次は、落ちるとこまで落ちるとか? それはカンベンだ。

 あーちょっと待て。家に帰って親父に「今日、響泊めてもいい?」なんて面と向かって聞いたりしたら……何だか俺的に屈辱な展開になりそうな予感が……。
 電話、携帯だ。
「やっぱ、電話してみる」
 ポケットに入れてある携帯を寒さで感覚の鈍った手で取り出し、開き、発信履歴から父の携帯番号を探す。しかし、指がうまく動かず焦る。たぶん、別のことで焦ってると思うけど。
 何とか発信しても、父が出るまでの間に心拍数が上昇。
 これ以上早くなったら、心臓が破裂する! さっさと出ろ、このやろう!
 で、出たら出たで体が硬直しちゃったけど。
『もしもし、どうしたの、ヒロくん』
「あ、あのさ……」
 いかん。口を開いたら、言葉と一緒に出ちゃならないものまで一緒に出そうだ。意識というか、魂。大袈裟な例えだけど。
『うん、何? 遠慮しないで言いなさい』
 とか親らしいいい言葉だけど、なぜ鼻で笑ってやがる!
「泊めても……いいかな?」
『誰を?』
 今、笑いながら言いやがった。絶対に気付いてる!
「いいのか、悪いのか、どっち!!」
『ああ、いいよ』
「分かった。もうすぐ帰るから」
 いうことをきかない指で乱暴に通話を切った。
 あのタヌキ親父!
「どうだった?」
 響が俺の顔を見ている。身長の関係で上目遣い。彼女の顔は少女と女性の間というか、両方を備えているが、今のは少女の顔だった。つーか、この角度はたまらん。
 話を戻せ。
「うん……いいって。オッケーだって」
 彼女の表情が笑顔に変わった。
 いや、ホントにいいのか、これで。


 親父がニヤニヤしながら出てきそうでやだな……と思いつつ、玄関を入り、ただいま、と家にいる人へ声を掛ける。
 リビングあたりから父と継母が「おかえり」と言うが、出てくる気配はない。
 それはそれで安心したが、どうも腑に落ちないというか……何か企んでたりしないよな?
 ああそうだ。夕飯のこともどうするか聞かないと……。
 自分からリビングに顔を出さなきゃならない状況は回避できそうにない。
「ねぇ、きょ……」
 ――パーン。
 リビングのドアを開けると、温かい空気が流れ出てくるのと同時に突然クラッカーが弾けた。持っていたのは父……いや、サンタ……どう見ても父でしかないけど。ちなみに、愛里は普通の格好だったが苦笑い。
「めぃりぃくりっすまっす♪」
「…………」
 かける言葉が、見つからなかった。
 少しの間、何をしにこの部屋へ入ろうとしたのか、思い出せなかった。

「夕飯、どうすんの? 作っていい?」
 とりあえず、親父はスルーだ。
「さっき、ヒロさんと買い物行ってきたので材料はあるのでお願いします。それと、ケーキも買ってきました」
「飲み物は?」
「シャンメリーと子供のビールです」
「よし」
 豪華な料理を作って、ささやかなパーティだ。
 ……いや、待て。
 どーして俺の思考はどこか一本しか開通してないんだ!
 親父のせいだな。そうだ。親父があんなカッコだから、断線しちゃったに違いない。
 寒い玄関に置いたままの響に謝って、俺の部屋へ行くように言った。今日、何回謝っただろうか。
 台所で温かい飲み物を二つ作って自室へと上がり、夕飯の支度を始める前に少し休憩を入れることにした。

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2008.06.23 UP
2011.11.21 改稿