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  俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス


  【3】


 ファーストフード店での遅い昼食。
 俺たちはさっさと食事を終え、ショッピングモールを出た。
 先ほど見かけた亮登と天空はモールの入り口に向かっていたと思われるので、これ以上モール内にいるのは危険だと思ったからだ。
 しかし、やっぱり、寒い。
 雪は降ってないけど、身が切れそうなほどの寒さなんだ、外は。
 そのうえ、
「どこ、行こうか……」
 危険回避のためとはいえ、
「……うん、どうしようか……」
 行き先がない。無駄に外を歩くだけ。寒さを凌げない。
「吉武はどこか、行きたいところとか、オススメの場所とかない?」
「オススメ?」
 寒い、と感じることで脳の八十パーセントを使用しているので、考えるのも一苦労。
 とりあえず、普段よく行くとことか……。
 ――スーパー、ドラッグストア、百円ショップ、ホームセンター、以上。
 …………。
「ごめん、ない。主夫だし……」
 自分に失望しちゃうよ。気が利かねぇなぁ、俺は。
「ああ、スーパーが行き着け、みたいな?」
 そんな、半分笑いながら言うなよ。益々、惨めだよ。
「んーそっかー。そうだよね。休日も遊んでられないんだよね」
「主夫だからな」
 いや待て。主夫って表現おかしくねぇか? 今更だけど。まぁいいか。気にしたって、ネーミングが変わったって、内容は変わらない。

 結局、次に行く場所も決まらず、自宅方面に歩いていた。
 このまま、解散、帰宅という流れになりそう。それはそれで仕方ないかもしれないけど、がっかりだよな。
 せっかく、一緒にいるのに……。
 俺んちという手だけは使いたくないんだよな、特に今日は。親父が休みだし、家族がいるってのが恥ずかしいし。
 ――あー、夕飯……。
 くっ、習慣が……。
「あ、公園……。ね、寒いけど、少しここで話さない? 歩きながらだと、全然話しができてないし……」
 そう切り出されて周りを見ると、二つぐらい隣にある町内の児童公園の前。ショッピングモールと自宅の中間あたりの場所だ。
 小学生の頃はたまにこの辺りまで遊びに来ることがあったよな、なんて思い出にもひたりつつ公園へと入った。
 あの頃に比べると、遊具が多少変わっていたけど懐かしい。時間的に子供たちで溢れてそうな気がしてたけど、今は子供が一人も遊んでなくて、好都合ではあるが寂しい。
 前を歩く響が先にベンチに腰を降ろしたので、俺も少し距離をおいて同じベンチに座った。
 ……うわぉ!!!
 響がいきなり距離詰めてきて、寄り添ってきたからものすごく焦ってる。心の中だけ。とりあえず、涼しい顔をしている……つもり。なので、緊張と寒さで顔が強張っているが正解。
「ねぇ、吉武はどこの大学に進学するの?」
 響きの言葉で、急に迫りつつある卒業と進学に焦りを感じた。
 俺はまだ進学について何も考えがまとまってないし、まとまったとしても響とは離れることになるかもしれない。
 そんな不安を押し殺しながら、同じ質問を響にした。
「響は……どうなの?」
「私? 質問スルーかよ」
 まぁ、答えられないんで、スルーしました。
「私は、薬剤師になりたいから、薬学部がある隣の県の国立大学よ。第一志望はね」
 県外――。
 ずしっと重かった。
 三月には卒業……これじゃ、すぐに離れ離れじゃないか。
「私は答えたわよ。次は吉武の番」
 俺? 俺は……。
「したいことも、なりたいものも、今はないから……大学に進学希望ではあるけど、何も決めてない。決められないんだ……」
 そう、口に出してしまうと余計に将来が不安になってくる。
 ホントに……何がしたいんだ、俺は。何気なく毎日を過ごしてばかりもいられないんだぞ。
「あ、そうなんだ。だったら同じ大学行こうよ」
 え――!?
「いや、学部まで同じじゃなくていいんだよ。えっと、まぁ、ね……」
 響は俯いて、少しモゴモゴ言ってから、聞き落としそうなほど小さな声で言った。
「離れたく、ないし……」
 そして俺の腕にそっとしがみついてきた。
 俺も同じ……離れたくない。
 いや、ここは思ってるだけじゃだめだ。ちゃんと言葉にして、彼女に言わないと……。
「俺も、離れたくないな……」
「だったら、同じ学校、行こうよ」
「……うん」
 でも、県外だということが引っかかる。家を出なきゃならなくなるだろ?
 大丈夫かな、あの二人を置いて俺が家を出て……。
 いや、人のことより、自分のことを考えろって。
 響はもう、夢に向かって歩き出してんだぞ。
 俺は……どうしたいんだ!
 今は……これからも、響と一緒にいたい。
 その理由だけでも十分じゃん。
 彼女のために、俺がしたいことをする。まずはそれから。


 時間も忘れて、寒さも忘れて――。
 俺たちは話をした。
 昔のこと、学校のこと、自分のこと……たくさん話して、知らなかった響を知った。
 彼女も、俺のことを知ってくれただろうか……。
 ベンチに座る二人の影は、東に向かって長く伸び、公園はいつの間にか、紅く染まっていた。
 夕暮れが近い。帰らないと……。
「響、そろそろ帰ろうか……送るよ」
 俺はゆっくりとベンチから腰を上げた。そして、彼女の方を向いて、手を差し伸べようとした瞬間――
「今日は、帰りたくないわ」
 彼女がとんでもないことを口にしたので、俺は勢い良く振り返って響の顔を捉えた。
 いや、何で笑顔なんですかね。
 か、帰りたくない!?
 え、え、ええええ――!!!

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2008.06.20 UP
2009.07.25 改稿