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俺にとって初めて彼女と過ごす……クリスマス
【2】
緊張しつつも浮かれまくったという、どういう状態なのさ、俺! みたいなテンションのせいで、失敗の連続だった。
一人でズカズカと歩いて、響を忘れてしまい――「ああ、ごめん!!」
呼ばれて、振り返って、謝る。ってのを三回もやってしまい、
――あぁ、もぅ、これ……恥ずかしいっス。
寒いからコートに突っ込んだままの腕に響が手を引っ掛けてるというか、何と言うか……腕組み歩くカップルとやらじゃないですか、これ。
まぁ、回りを見れば、そういうのは結構いるんだけど、自分たちもその中に紛れる一組って、やっぱ、恥ずかしいなぁ。
でも、それも、とりあえずは映画館までの辛抱。目の前に見えているショッピングモールに入ってしまえばすぐだ。
モールの二階、角に七つもスクリーンを持つ大型映画館。シネマコンプレックス、略してシネコンと呼ばれるものだが。
そのフロアは店内のどこよりも薄暗く、ちょっとただならぬ雰囲気にも見えたりする。お年頃なもので、すみません。
スクリーンが七つもあるだけに、上映されている作品も多く、あらかじめ決めて来ているのに目移りしてしまう。
あれは話題の映画、シリーズ第二弾じゃないか。一作目はDVDをレンタルして見たが……いやいやいや。
「吉武、こっちこっち」
その声でようやく我に返り、声がした方を向くと、響はすでにチケット売り場に並んでいて、ポスターやテレビ画面に流れている映像を立ち止まって見ていた俺を手招きした。
「あ、ごめん」
また謝って、響の横に並んだ。
「他の作品が良かった?」
「え、いや……色々やってんだなって思って。映画はだいたいDVDをレンタルして見るぐらいだから、見に来ることって数えるほどしかないし……」
だいたい半年待てばDVDが発売されるし、見に行くこともないかな、って。
「う〜ん、確かに。一回の鑑賞料金、けっこう痛いもんね」
かなり痛いです。それだけあれば、安いステーキが……。それは置いといて!
「別の場所の方が良かった?」
何となく、映画に誘ってしまったような気がするし。無理して合わせてくれたのだったら申し訳ない。
「ううん、そんなことないよ。吉武と一緒に、見たかったから」
……ちょっと、待ってよ。こんなにさりげなく、そういう嬉しいこと言うなよ。
ココは薄暗いから恥かかずに済んだけど……きっと、顔が真っ赤だよ、俺。
チケット購入。財布の中から、野口さんが二枚も出て行ったのは非常に痛々しく見えた。まぁ、小銭がいくらか戻ってきたが、これも虫の息。
売店で飲み物と菓子を買ってしまえば、さよならだ。
ポップコーンがだね。ちっさいの買うと、本編始まるまでの待ち時間とCMの間になくなっちゃうわけよ。だから……一番でっかいやつを片手で大事に抱え、もう片方の手には大きめの飲み物を持っている。
なぜ飲み物まで大きいか、それは、ポップコーンの塩気でやたら喉が渇くからだ。
まんまと戦略にハマってるよ、俺。
響は飲み物だけを購入し、嬉しそうに俺のポップコーンを一つずつつまんで食べている。
……い、いかん。その仕草に萌えた。
え? どこに、何が、どーして!!
あーちくしょう。かわいいぞ、響。
そういえば、私服見るの初めてかも。今更だな。淡いピンクのピーコート、白いタートルネックセーター……うわっ! スカートの丈、みじかっ。制服より更に。気を取り直せ、俺。それから、靴は……膝ちかくまであるブーツ。紐、解くのがめんどそうだね。ああ、横にチャックついてんのか。
つーか、寒いだろ。脚が露出してると。個人的には、もーちょっと、ガード固めが良かったかも。
目のやり場に困る。
ってか、困るような見方すんな。
…………。
ええぃ! この、バカバカバカバカ、俺のバカ!
その後も葛藤は無駄に続く。薄暗い館内、四番スクリーンの真ん中あたりの席に座っても容赦なく続く。
横からポップコーンをつままれるとき、俺も食ってるんだからまれ〜に手が触れてしまうわけだ。
その度に俺はいちーちビクっとして、目が合って、にこっと笑われて、ドキューンってなって……何回撃ち殺されたよ、マジで。
映画の内容? 覚えちゃいませんよ。
覚えているのは、ポップコーンのほとんどを食べられたことと、触れた手の感触と、彼女の笑顔ぐらいのもんだ。
……。あーもー、いやん、ばかん。
野口さん二人の犠牲も……悪くはなかったな。ニヤリ、でれり。
映画が終わると、お昼に丁度いい時間。
しかし、ポップコーンの食べすぎ(響のみ)と、彼女に言いはしなかったが、響を見すぎ(俺のみ)で互いに腹いっぱいということで、昼食は後回し。
ショッピングモール内にあるテナントを片っ端から見て回るところもあれば、素通りするところもあり。
あ、ちょ、女性下着売り場は眩しくてボクには見えない。いや、変態じゃないから。通り過ぎるのも恥ずかしいです。ついつい目がいっちゃうけど。ごめんなさい。黙ってればよかった。
雑貨を取り扱う店では、色々な商品を触りまくって、これかわいいとか、おもしろいとか話して、俺がついつい行きたくなってしまう百円ショップでは、これまたついつい調理小物などを中心に探してしまう習性があるので、響から「主夫だ」とか言われるし。
いやいや、便利なもがたまにあるから……主夫か……。このタッパー、サイズがいいな。菜箸もそろそろ……ああ、やめて、家庭的な俺。今日は出てこないで。
特に何も買わず、三時間も潰したところで軽く食事を取ることで意見が一致。昼どきの行列が嘘のように空いているファーストフード店へ入ることにした。
響はセット品を頼んでいたが、まだ色んなことで腹いっぱい状態……というか、とても喉を通らないというか、どうも食べたい気分ではなかったものの、とりあえず飲み物とポテトだけを注文しておいた。
窓際の席に向かい合って座るが、どうも目のやり場に困ってしまう。
ハンバーガーの包装を開いて、かぶりついて……ものすごくおいしいものを食べるような表情の彼女だが、じっと見てるのも失礼だと思い、自分のポテトをつまみ……ちょっと塩辛い、とか思いながらジュースを一口。
なにげなく見ていた窓の外――寒いのにたくさんの人が歩いている中に、見覚えのある奇抜な髪型の男と、背が高く頭の悪いスポーツ少年。
……ヒマジンが。
いや、ちょっと待て。
二人――亮登と天空はこちらの方に向かって歩いている。
マズイ。絶対に見つかりたくねぇ!
そう思ったら俺の行動は早かった。
「何に隠れてるの?」
ハンバーガーをもふもふと食べながら、悠長に聞いてくる響。
「とりあえず、振り返るな。窓の外を見るな。亮登と天空がこちらに向かってきている」
「……で、隠れてるんだ。分かるな、その気持ち」
そうだろ? ひやかされたり、邪魔されるのは御免だからな。とくにアイツらはハンパない、容赦ない、そうに違いない。
「でも、それはそれで、怪しいよね」
いや、とりあえず必死なんだよ俺は。椅子に対して横向きに座って、頭を手で包むようにして下げて、これがテーブル下だったら、まるで地震が起こったときのとっさの行動だ。
「俺も好きでやってるわけじゃない!」
そう。好きでこんな格好するやつがいるもんか!
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