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  俺にとって初めての……いろいろ


  【2】

 響が下へ降りて十分ぐらい。彼女は愛里と共に部屋へ戻ってきた。
 湯気が立ち上る茶碗をのせたお盆を持って。
「大丈夫、ですか? 病院、行かなくていいですか?」
 かなり心配そうな表情の愛里。
「いや、もう大丈夫だから……」
 元気だということをアピールしたかったのだが、どうも愛里は納得してそうになかった。
「さ、どーぞ。熱いから気をつけてね」
 満面の笑みでお盆ごと差し出してきたので、それを受け取りながら俺は「ありがとう」と響に言った。
 そこには、茶碗に並々と入ったただの白いかゆと、スプーン、小皿があるだけ。
 見るからに普通に炊いたご飯の倍の大きさに膨らんでいる米粒は、原型をとどめられないほど水分を吸収していた。要は、ご飯が割れているのだ。
 これはきっと……炊いてない米から作ったものだな。
 ……いかん。他人の料理を分析するのは失礼だな。
「いただきます」
 スプーンでかき混ぜてから、こぼれない程度を口に入れる――が、思っていた以上に熱かったのでほぼ丸呑み。味わうヒマさえもなかった。それにちょっと、口の中をヤケドしたかも。喉元過ぎれば熱さは感じないけど。
「ほら。熱いって言ったじゃない。どぉ? おいしい?」
「……うん」
 味わうヒマなんてなかったくせに、そう聞かれると、首を縦に振りながらそう返事をしてしまう俺。
 次は気をつけて……スプーンですくったおかゆに息を吹きかけて、少し冷ましてから口の中へ――。
 ……ん。ああ、塩加減は丁度いい。ご飯は噛む必要がなさそうなぐらい柔らかい。まぁ、気にするな。気にしたら負けだ、俺。

 懐かしかった。
 子供の頃を思い出す……って、まだ子供か。
 小学生の時、熱が出たら、よく亮登の母さんが看病してくれたり、おかゆ作ってくれたりしてたよな。
 いつからか、気付いたらそうヒドい風邪なんてひかなくなって、今日は久々にその症状が出たというか……。
 おかゆなんて食べたの、何年ぶりだろ?
 自分以外の手料理食べるのも、何年ぶりかな?
 いつも与える側だから、やっぱり嬉しいな。誰かが俺のために作ってくれる料理って。

 そんな嬉しさプラス特別な感情もあり、茶碗に並々あったおかゆはあっという間に完食。
「いやー、病みあがりのおかゆは最高だね」
 なんて意味不明な感想まで漏れる。
「何が病みあがりだ。熱が下がったあとは、死ぬほど咳がでるだろ。いつものパターン的に」
 ……。そうだ。忘れてた。
 俺の風邪の症状はどうも順番を誤っているようにしか思えない。
 治ったと思った頃にやってくる、咳の嵐。これで何度死を覚悟したことか……で、それがこれから、俺の身に起こるというのか。
「ま、調子に乗らず、安静にすることだな」
「……はいはい。今日は安静にしときますよ」
 と、俺を良く知る亮登の言葉は、なかなか重かったりするし、ただの咳だとあなどれないということを自分も良く知ってたり。
「とりあえず愛里ちゃん。咳止めがあった方がいいと思うよ。子供用のあま〜い、シロップのやつ」
「え? シロップ……ですか?」
「紘貴ちゃん、にが〜いのキライだから」
「亮登!」
 愛里が困ってるじゃねーか。変なこと言うんじゃねぇ! だいたい、何で子供用シロップなんだよ! もう、薬は大人と同じ用量なんだから、換算して一瓶が四回分ぐらいにしかならねーだろ! 適当計算だけど。
 ちなみに、苦いぐらい我慢できるわ!
「子供用シロップじゃなくて、普通の咳止めでいいわよ」
 響が笑いながら言うと、愛里はようやく納得したようだ。いや、すぐに冗談だと気付いてくれ。あと、響……苦いのが嫌いという部分、ホントだと思ってないか?
「わかりました。家の薬、探してなかったら買いに行ってきます」
 と、愛里は俺の部屋から出て、薬を探しに行った。
「おーい、亮登。愛里の手伝いしなくていーのか?」
「ま、ご冗談。オレが寒いのが死ぬほどキライって知ってて言ってんの?」
 知ってるから言ったんだよ。
 亮登にとって、暑さ、寒さに勝るものなし、か?
 例えそれが愛里であっても。
 まぁ、そこまで本気になられたら、俺が全力で阻止せねばならんが。
 ところで亮登くん。いくら寒いと言っても、愛里の手伝いに行こうってのが男のやさしさじゃないか?
 ……つか、単刀直入に、お前、気を利かせろ! 退場を要請したい。
「まぁ、なんつーか……」
「何?」
「もう、用なんてないだろ」
「そうだよ」
「帰らねーか?」
「……何で?」
 笑顔でそう聞き返してくる亮登。
 分かってるくせに、このやろう。
「俺が笑顔のうちに……帰れや、このやろう」
「えー。だって寒いし……」
 んなこたぁ百も承知だ。雪降ったもんな。
 だけど、お前の家は目の前にあるだろ!
「いーから、帰れ。もしくは、愛里の手伝いでもしてろ」
 すると亮登はにんまりと、何か企んでそうな笑顔で、
「……しょうがないなー。そんなに邪魔ぁ? もぅ。後で報告してよね〜」
 と言って、重そうだった腰を軽々と上げて部屋を出てドアを閉めたのと同時に、
「アイリちゃ〜んw 手伝うよ〜」
 遅い!
 いや、ってオイ! ちょっと待て、前のセリフ。お前、何をどこまで知ってそんなことを……!!

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2008.06.11 UP
2009.07.25 改稿