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  雪舞う季節に春が来た


  ***


「こんにちはー。勝手にお邪魔しまーす」
 と、聞いたことのある男の人の声が聞こえたので、あたしはこっそり玄関を覗いた。
 知らない人だと困るし……でも、勝手に上がられたらそれどころじゃないよね。
 うーん、どうしよう……。変な人だったら、掃除機で叩いても大丈夫かな……。
 先ほどまで部屋に掃除機をかけていたので、武器になりそうなものはそれだけしかこの部屋にはない。
 でも、片付けずに休憩しててよかったかも……。
 突然の訪問者は玄関を上がり、あたしがいるリビングへと近づいてくる。
「――――っ!!!」
 怖くて、悲鳴も声にならない。いや、黙ってて見つからないように隠れた方が……。
 どうしよう……殺される!
 何で玄関の鍵を閉め忘れたのよ、あたしは!
 覗いていたドアの隙間で、廊下を歩く男と目が合ってしまった。
 ――もう、ダメ。
「あー、いたんだ。ヒロ持ってきた」
 ……??
 この人……確か、紘貴くんの友達。
 あたしなんかよりずっと大きい男の人は、後ろを向いた。紘貴くんをおんぶしていた。
「熱出して倒れたみたい。寝かしてくるね」
 と、階段をドカドカと上がっていった。
 ……??
 えっと……。
 あ、そういえば、朝、風邪をひいてそうだった。やっぱり熱が上がっちゃったんじゃない……。もぅ、休めばよかったのに。
 あたしは台所へ行き、冷蔵庫から熱さましのシートを一枚出して、二階の紘貴くんの部屋へ上がった。

 いつもなら畳んで出るはずなのに、今日は布団が出たままだったらしく、紘貴くんはすでに寝かされていた。
 苦しそうな紘貴くんの額に触れてみると、びっくりするぐらい熱があったので、シートをペタリと貼ってみた。
 けど、制服、そのままというのはちょっと……。
「あの、制服の、上のと、ネクタイぐらい、外しませんか?」
「……ああ、そうだね」
 紘貴くんの友達は言われて初めて気付いたらしく、乱暴に体を起こしてジャケット(?)を脱がせ、乱暴に寝かせ、ネクタイを解いて引き抜いた。
 ……もうちょっと、丁寧にやってほしかった。
 あと……できればベルトも……。あたしにはとてもできないので。
「すみません。あと、ベルトもお願いします」
「あー、おっけー」
 友達は布団をはぐってベルトを外し、あたしはワイシャツのボタンを二つ緩めた。
 うーん、この人の名前、何だったかなー。
 何度か家に来たことはあるけど、思い出せない。
 あたしの記憶力って一体……。
「もうすぐアキと響が来ると思うから」
「あ、はい……」
 亮登くんと……響? 誰かしら。
 それより、紘貴くんのこの熱……病院へ行った方がいいと思うけど、あたしが連れて行けるような状態じゃないし、亮登くんが来るまで待つしかないよね。


 しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。
 あたしは急いで二階から降りて玄関へ向かうと、
「おいーっす、アイリちゃん。今日もかわいいねw」
 亮登くんと、
「どうもこんにちは。はじめまして。クラスメイトの響咲良です」
 紘貴くんの学校の女子の制服を着ている人が自己紹介をしてくれた。
 この人は初めて見る人だ。
「こんにちは。吉武愛里です。いつも紘貴くんがお世話になっております」
 あたしも自己紹介をして、深々と頭を下げた。
 咲良さんって、紘貴くんの何なんだろう。
 ふと、そんなことが気になったけど、咲良さんはクスクスと笑っていた。
「冗談じゃなかったんだ。先生が言ってたこと」
「かわいいでしょ? なのに人妻よ? もう、不公平だっての」
 あ、あたしのこと!?
「それはともかく、紘貴は無事……到着したようだね」
 亮登くんは足元を見て玄関の靴を確認し、
「どう? まだ目覚めてない?」
「いえ、まだ……」
「そ。あと四、五時間は目が覚めないと思うよ」
 何でそんなに余裕なんですか!
「病院、行った方がいいですよね?」
 不安になったあたしは、亮登くんにそう言うけど、彼は慌ても焦りもしない。
「アイツ、ああいう風邪の症状だから、いつも。寝たら熱は下がるから問題ない」
 問題ありますって!
 とは言っても、一人で病院に連れて行くのは無理だし……ここは亮登くんの言葉を信じるしかない。
「あの、こんな所で立ち話もあれですから、上がってください」
「う〜ん、助かるw 寒くて死にそうだったから……おじゃましまーす」
「お邪魔します」
「紘貴の様子でも見に行くか〜サクラ」
「え? ん……」
「ついでに、紘貴のお部屋拝見って――」
「ちょ、スギ!!」
「おほほほほほ」
 そんな会話をしながら、亮登くんと咲良さんは二階へと上がっていった。
 ……んーと。
 あ! お茶を出さなきゃ!
 あたしは慌てて台所へ駆け込んだ。

 ……玄米茶でもいいかしら?
 なのにお菓子がクッキーって、やっぱ変。
 でも、これしかないし……。あたしのおやつ。
 もう、昼食の時間だっていうのに、こんなものしか出せないあたしをお許しください。
 ああ、料理ができたなら……おにぎりとか、玉子焼きとか出せるのに。
 さすがにコンビニ弁当なんて買ってきても出せないよ。どうしよう……。
 デリバリーのピザもちょっと違うし、時間も掛かる。
 気が利かないお義母さんです、あたし。
 何だか自分に、がっかりです。

 ふるふるとお盆を持つ手が震える。
 お茶の入った客用の湯のみが三つ、それに不釣合いな花柄の皿にてんこもりのクッキー。
 ゆっくり、ゆっくりと、こぼさないようにそれを二階へ運んでいた。
「じゃぁチャリ取りに行ってくるぁ」
 と言いながら、紘貴くんの部屋から出てきたのは、紘貴くんを運んできた人。やっぱり名前が出てこない。
 階段でもたつくあたしに気付き、
「あー、どうも。気を遣わせてすいません。僕が運んどきます」
 彼はあたしの手からお盆を軽々と持ち去り、再び紘貴くんの部屋へと入っていった。
「おやつだー、おやつだー。わーい」
「お前、チャリ取りに行くんじゃねーのか」
「いやぁ、後でもいーじゃーん。いっただっきまーす」
 …………。
 あの、そこ……病人が寝てますよね?


 それから実に二時間ほどが経過して、名前を忘れた彼はようやく自転車を取りに行ってそのまま帰ると言い、ウチを出た。
 名前……今更聞けないよね。

 更にそれから三十分以内に亮登くんが、母親から電話があったとかで一時帰宅した。
 まぁ、家は目の前なんだけど。

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2008.06.06 UP
2009.07.25 改稿