■TOP > 義理の母は16歳☆ > 雪舞う季節に春が来た【3】
雪舞う季節に春が来た
【3】
息を切らして教室の自分の席につき、上半は机の上に倒れた。
体調不良もあり、かなりキツかった。
息が整うのを待つ前に、
「吉武、大丈夫?」
声を掛けられ、
「えっと、あ、いや、まぁ、大丈夫! ちょっとチャリ漕ぎすぎたかな? あはははは」
何を喋ってんのか、自分でよく分かってない。
とにかく、納まりかけていた心臓は俺の制止を振り切って、再びずがーんと心拍数を上げたわけだ。話しかけてきた相手が響だったから。
そんな俺とは打って変わり、昨日の告白、実は俺の捕らえ方違いだったのではないかと思いたくなるぐらい、響は普段どおりに俺に接してきた。
「でもさ、硬くなった雪に車輪がとられて危なくなかった?」
「は?」
言われてみたら、道路にも雪があったけど……、
「いや、遅刻しそうだったから、全く気にする余裕がなかった」
ということだ。
朝から変なテンションで何とか保っていたが、やはり時間が経つにつれてどんどんキツくなってきた。それを隠そうと、平常を装うのもただキツいだけ。
終業式では立っているのがやっとだった。たまに意識が飛びそうになったり、目の前がブラックアウトしたり、めまいがしたり。脈に合わせて心音のような音が耳につき、心臓がアタマにあるような気分だった。そのうえ、アタマだけ熱い。
所々、意識も飛んで、気付くと教室にいた。
いつもの風邪の症状と同じならば……どんどん熱が上がって、死んだように寝たら治ってるというパターン。
家を出た時に比べて明らかに悪化しているし、寝ない限り悪くなる一方で、今は我慢するしかないということも分かってる。
さっさと学校、終われ。帰って寝る――じゃない。何のためにこうなることを分かって、無理して来たんだ。
くっそ……。
冬休みを挟むわけにはいかないんだよ。
終わるまで、キアイで意識を保った。やっぱりどこか飛んでるけど。体はどんどん熱くなってきてる。呼吸も荒くしとかないとキツい。早く休みたい……。目を閉じただけで、意識を手放せそうだ。
とにかく、苦痛でしかなかった。掃除とホームルーム。
はっと気付けば、クラスの半分ぐらいが帰宅しているという状況。
しまった。響に話があるって言うのを――
「顔色、悪いよ?」
忘れたはずだが、響はまだいた。
「ああ……ちょっと、風邪」
ちょっとどころじゃないけど、他人にはついつい軽めに言ってしまう。
「話、ここで聞いていい?」
「え?」
「……掃除の時、言ってたじゃない。放課後、話があるって」
全然知らない。覚えてない。そんな記憶はない。みごとにぶっ飛んでる。
「あ、ああ……ごめん。他人には聞かれたくないから、もうちょっと後で……」
「もうちょっと後なんて言える状態じゃないでしょ? 早く帰った方がいいわ。他人がいなければいいのなら……別の場所にしましょ」
と、響は俺の袖を引っ張ってきたので椅子から立ち、彼女についていった。
渡り廊下を歩いて、第二校舎へ――しかし、特に授業のない今日は見事に鍵が閉まっていて入れなかった。
「……」
「……ごめん。えっと……どーしよ……」
他の人気のない場所に心当たりがなかったらしい。
「寒いよね。ごめん。やっぱり教室に戻ろう」
そうなるのか……。
アタマがぼんやりしてて、もう、どうでもよかった。
本来の目的さえも、半分以上忘れてる。とにかく早く帰って楽になりたい……。
そろそろ、限界が近かった。このままじゃ帰れそうにないぞ……。
教室に戻ると、半分ぐらいいたクラスメイトは、きれいさっぱり帰宅していた。
「んー、待ってた方が良かったみたいね……」
いや、俺らが残ってたら、そうでもなかったかも。用もなく残ってると怪しいし。いや、用があって残ってるから尚更怪しいかもしれない。
あー、何が? 何を考えてんのか、自分でも分からなくなってきた。
「話って、なに?」
その声で、響が俺の方を向いていることに気付いた。目が合ったけど、俺は逸らした……というより、もう、視点が定まらなくなってる。
自分の状態なんてどうでもいい。そんなの後回し。今は、言うべきことを言わないと……。
俺は教室入り口のドアを、後ろ手で閉め、ゆっくり息を吐きながら扉に体を預けた。
立っているのも、かなりキツい。
「あの……昨日の、帰りのことだけど……」
「やっぱりその話なんだ。やだなぁもぅ」
響はクスクスと笑っていた。
「本気? 冗談?」
その問いに、彼女は笑うことをやめてこう答えた。
「本気よ」
「じゃ……それは友達として? それとも……」
「恋愛感情よ、間違いなく。不思議よね。小学校からずっと一緒なのに、何で今頃になって好きになっちゃうのかな?」
響は静かに笑った。
激しくなっている動悸。それが息苦しくなるほど今度は締めつけられた。
――俺も、響に伝えたいことがあるんだ。
悪化している風邪の症状。もうろうとする意識。
やっと二人きりになって話ができると思ったのに……。
早く、言わないと……。今にも意識が――。
「俺も……響のことが……好き……だから……」
NEXT→ 雪舞う季節に春が来た ***
義理の母は16歳☆ TOP
2008.06.02 UP
2009.07.25 改稿