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雪舞う季節に春が来た
【2】
雪が舞っていた。
今年の冬はいつもより雪が降るのが早かった。
なのにその雪が、今の俺には桜の花びらが舞っているように見えるのはなぜだろう。
今のが告白?
告白ってこう、人気のない所に呼び出して、ドキドキしつつ言ったり言われたりするもんじゃないのか? それは漫画だけか? まぁ、放課後の教室というのは人気のない所であることは確かだけど、色々とイメージとは違う。
けど……心の中にある恋というつぼみが、響の言葉をきっかけに、数年ぶりに膨らみはじめていた。
今までは開花しても散ることなく、どうにもできなくて、いつの間にか自分の中で枯れていたその花。今回は何か違う感じがする。
響咲良――あれこれ小学校の頃から同じ学校だったりするが、同じクラスになったのは小学三年生以来で今回が二回目。名前と存在を知ってた程度で話をするようになったのは……二学期からか?
そして、この展開。
誰がどこで、どんな風に人を好きになるのかなんて本人にしか分からないし、その想いは口にしなければ誰も知らないままになる。
その想いを口にした響――受けた俺は、彼女を特別なものだと認識した。
雪が降っているのだ。とてつもなく寒いはずなのに、俺は寒いとは感じなかった。むしろ、温かかった。体の内側から……心がポカポカと温かかった。
日直の学級日誌の伝達事項欄には、『東方は三角形の公式も知らない。』に加え、『告られた。』と書いて、担任に提出してしまった。いいエサだ、俺。明日は覚悟しておけ。そういう話題が大好きな担任なんだから、色々聞かれるに違いない。
明日以降の日直も、見たら聞きたくなるかも。
あー、勢いに任せて書いたことに今頃、後悔してるー。
もう、遅いわ!
その日、家に帰ってからの行動は、記憶としてほとんど残っていなかった。
常の脳内がポワ〜ンとしてた。脳裏に浮かぶのは、響の顔……あっさり重症だ。
次の日の朝、起きたら自分の部屋の布団の中で、時計は午前六時を指し、目覚ましがけたたましく鳴り響いていた。
アタマはまだポヤ〜っとしてて、体も少し火照ってる。
その原因は――今、思い出してる、昨日の出来事。響が帰り際に残した言葉。それが軽くどうにかできるものじゃないってこと。
……今日、どんな顔して学校行けばいいんだろ。
響と顔を合わせて、普通に話ができるだろうか?
……いや、響だって同じ気持ちかな。
響のことを考えると、胸がズキリと痛んだ。
昨日より少しだけ、心のつぼみが大きくなったような……。
一階に降りて朝食の支度をしていると、遅れて起きてきた愛里と挨拶を交わし、彼女は俺の手伝いを始めた。
「紘貴くん、大丈夫ですか?」
横に並ぶ彼女が、俺の顔を覗き込んでそんなことを言ってくる。
俺は平常を装っているが、どこかおかしいことに彼女は気づいてしまった。それは、女だから分かることなのだろうか。
「別に……」
そっけなくそう言って、俺は手元の作業――出来上がったベーコンエッグを切り分け、人数分の皿に乗せた。
だけどやっぱり、アタマのどこかがボーっとしてる。
「そうかな……?」
彼女は不満そうに小声でそう言うと、ベーコンエッグの皿をテーブルに運んだ。
「ひぇ――っくしゅん」
くしゃみをしたのは俺。コショウを吸い込んだ訳ではない。鼻の奥がムズっとして噴射したもの。
「ほら、やっぱり。いくら何でも、この時期に半そでは風邪ひきますよ?」
と指摘されて気付いた。俺が今着ているものは、寝巻きのスウェットの下に、なぜか半そでのTシャツ。
起きて今まで寒いとは思わなかったのに、気付いて寒くなってきて、
「はっくしゅん、はくしゅん」
くしゃみを連発。
「すでに風邪、ひいてるみたいですね。顔が赤いと思ったんです」
それで大丈夫か、と声を掛けてくれたのか……。自分のことなのに、何で気付かなかったんだろう。
「学校、休んだ方がいいんじゃないですか?」
休む!?
「冗談じゃない。誰が休むもんか!」
ムキになって大声で言っていた。
俺がそんな言い方をするとは予想もしていなかった愛里は、驚いた顔で目をしばたかせていた。
俺も自分がそこまでムキになって言ったことに、怪しい行動をしてしまった、と後悔。
「あ、いや……まぁ、休むほど悪くないし……」
と誤魔化した。これもこれで怪しいけど。
どうも自分を制御できていない。上は半そでだし、風邪ぎみだということに気付かず、この対応。
「……そ、そうですか。まぁ、今日は終業式だけだけど……」
彼女は語尾を濁し、納得していない感じだった。
俺自身も、いまいち自分のことに納得できなかった。
六時半には父が起きてきて、七時には朝食、片付けが終わり、愛里は洗濯を始め、俺は学校へ行く準備のため、部屋へ戻った。
起きた時より少し熱が上がったのか、顔の火照りが気になるほどになっていた。大きく息を吸うと大きく息を吐き出し、制服を着ると肩で息を吸って吐いて。ワンアクション起こす度に溜め息が漏れていた。息が上がってんのか?
今日は特に必要のないカバンを手に取って、また勢いよく息を吐き出した。
……鼻で深く息を吸って、口からフーっと。
この状況がどれだけヤバいか、それは自分自身がよく知ってる。いつも通りの症状なら、これからどんどん悪化していく。
そうなることを分かっていながら、俺はいつもより身だしなみを念入りにチェックしていた。
普段はあまり気にしない髪形もなぜか今日は気になる。
……変じゃないかな?
いつも変わらぬ髪型なのに、どうしてだろ。
……ネクタイはきっちり、ちゃんと締めるべきかな?
普段はゆるゆるで、シャツのボタンも上二つ開けてだらしないくせに、今更だよな。それどころか逆におかしいと思われるかもしれん。
……なら、いつも通りでいいか。
ということで、締めたネクタイを緩め、きっちり留めたシャツのボタンを外した。
とかやってたら、いつも家を出る時間を五分も過ぎてしまい、慌てて家を出て、立ち漕ぎで学校に向かうハメになったのは言うまでもなく……始業ギリギリで何とか教室に駆け込んだのも言うまでもない。
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2008.05.30 UP
2009.07.25 改稿