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雪舞う季節に春が来た
【1】
長いと思っていた二学期も、気付けばあっという間に過ぎ去り、明日には終業式を迎えようとしていた。
定期テストも終わった後で、授業といえば、受験に備えた復習ばかり。俺はだいたいこなせるのだが……。
「あぎゃー! nってなんだぁー!! 意味わかんねー」
何でわかんねーのか、俺には意味わかんねー、なんだけど、亮登。
「上の長さと下の長さを掛けて2で割ってみたら?」
何の公式だ。『底辺×高さ÷2』の事じゃないよな? それ。三角形。小学生レベル。それすらまともに理解してない天空さん、今後、どうするつもりですか? 大学に進学しないからって、のんきに週刊漫画誌読んでる場合か? 基礎知識をもうちょっと……。
そんな、本日最後の授業である数学の時間。担当教諭は盛大に溜め息を吐いた。
亮登はこれでも一応、センター試験組である。申し込みをとうに過ぎた後ではあるけど……やっぱりやめとけ、と言いたくなった。なっただけで、言わない。
――キーンコーンカーンコーン♪
五十分構成の授業も終了。
軽く掃除をして、ショートホームルームが終われば、本日の学校は終了。しかしながら、俺は今日、日直。日誌を書いて、教室の戸締りという任務が残っている。
これがまた、ある程度、生徒が減らないと戸締りができなかったりするんだよな。誰かが必ずといっていいほど、窓を開けて外にいるヤツに話しかけて、そのまま鍵を閉めるのを忘れやがる。
別に放っておいてもいいと思うよ、そういうのは。日直の仕事を終えたあとにやられた、という伝統の言い訳があるし。
まぁ、特に用のない俺は、クラスメイトのほとんどが教室を去るまで待ってたりするんだけどね。のんびり、日誌を書きながら。
――東方は三角形の公式も知らない。
と、関係のない伝達事項を書いてみたり。
前のページをめくってみても、そういうのしか書かれてない。
まだ、教室にはたくさん人が残ってるので、読み返してみることにした。
十二月九日――今日、サンコン。だりぃ〜。
十一月十八日――吉武の母親、見てぇ〜。
オイ!
十一月一日――明日から文化祭。最後だから思いっきり楽しみたいです。
十月二十五日――かそうきっさ、何しよーかなー。センセの仮装好みは? (セーラー服)
赤ペンで答えてんなよ、コラ。しかもこれは、絶対に素だ。
――先生、大変です! 体重が一キロ増えました! 今日からダイエット開始します。
いちいち報告しなくても……。
といった感じで、我がクラスの日誌の伝達事項欄は、おもしろ愉快にできている。他クラスはどうだかしらないけど。
ならば、俺ももっと面白いものを書かなければ……なんて、無駄に考えている間に、見回してみれば教室には俺と、もう一人だけになっていた。
何か、用でもあるのかな? その程度にしか思わず、伝達事項に書くためのネタをひねり出していた。
天空がかなりのスポーツバカだということは誰もが知ってることだし……書いたネタは当たり前で面白くないな。
まぁ、消さずにそのままにしたけど、もっと面白いものが、あるはずだ。
亮登のアタマには全く公式が入ってないとか? これも面白くないな。予想できるし。
じゃ、俺のこと……特に何もない。愛里ネタは担任が喜ぶどころか、今後、日直になったヤツも喜ぶかもしれん。それはイヤだな。却下。
んー。あと、もう一言……。
腕を組んで別に考えなくてもいいような事を考えてたら、残っている一人――響が話しかけてきた。
「今日は日直お疲れ様。あ、日誌?」
「うん、まぁ。伝達事項にもう一言欲しくて、考えてるとこ」
よく考えてみたら、別に白紙でも構わないんだけどな、ここの欄は。書くことがいつもないから、みんなが好き勝手に書いてるだけだし。
そんなところで悩んで手を止めている俺がやはりおかしいのか、響はくすくす笑い出し、こんなことを言い出した。
「吉武ってさ、二学期に入ってから変わったよね」
変わった? どこが? 自分では思い当たる所がなかったので、すぐに聞き返していた。
「え? そう?」
「うん。小学校の頃から男子とは仲いいのに、女子に対してそっけなくて、寄せ付けないオーラが出てたというか、あまり関心なかったでしょ? だけど、女子にも社交的になったというか、対応が変わった気がするんだ」
自分でも少しは気付いていたけど、言われて初めて確信した。
確かにそうだった。一学期までより女子と話す機会も増えたような気がするし、話かけられても普通に対応できるようになってた。
それまでは、自分でも女子とは喋りづらいとどこかで勝手に思い込んで、できるだけ関わりたくなくて……。
二学期から……間にあった夏休みに変わったってことだよな、それ。
……あ、愛里?
愛里がウチに来るまで、ウチはずっと家に女がいない環境だったけど、アイツが来て、初めて女とまともに接したというか……それが、俺にとっていい方向に行ってたのか。
「だからかな」
「ん? 何?」
考えごとしてたから、響が口を開いたことで現実に戻り、反射的に聞き返した。
響はいつの間にかカバンを持ち、ドアに手を掛け、しばらくドアを見つめてから俺に顔を向けた。
「吉武のこと、好きになっちゃった。じゃ、バイバイ」
「………………さ……よなら」
俺が言った時には、響はすでに廊下を駆けていて、聞こえなかっただろう。
いや、その前。
今、何を言われた?
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2008.05.28 UP
2009.07.25 改稿