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俺+継母+担任=三者懇談
【2】
亮登が一大決心(?)をした三日後――いよいよ俺も三者懇談当日を迎えていた。
一応、大学進学志望。センター試験の出願はしているものの……行きたい大学が特になければ、どこの学部に行きたいという希望もない。せいぜい、家から通える範囲ならどこでもいい、程度か。
将来就きたい職業があるわけでもないし、夢というものも特に持ち合わせていない。ある意味、そこが問題だったりする。
先生がどこかの大学を薦めてくれるのなら、何も考えずにそこへ行きそうな勢いだし。
本日の授業も終わり、用のない者は次々と教室から出て行った。
昨日までならそうだった。
なのに今日は、クラスメイトの帰宅っぷりが悪い。特に男子。なぜだ?
…………。
――俺か!!
「ねー、かあちゃん来るの〜?」
やっぱり!!
今日来るのは父さんです! というオチを準備できなかったのが非常に残念でなりません。
つーか、アツい視線を俺に向けられたって全然嬉しくねぇ!
俺を見てたって何も出てこねぇよ!
それよりお前ら……、
「帰れ!」
別の教室――まぁ、なんたら準備室とかだけど、そこで三者懇談が行われるので、教室はただの待合室。
一度、家に帰って、時間前に来ても良かったんだけど……俺は教室で、黙々と問題集に取り組んでいた。むやみやたらと時計を気にしながら。
出席番号……最後なんだよね、俺。
「あと二人か……」
「時間にしておよそ二十分か?」
「さすがに、待ってるのもキツいな」
だから、待たなくていいから即刻帰れ!
脱落者も何人か出たが、まだ教室には数人、ウチの愛里さんを待ち構える男子が残っているという状況。
予定時間が迫る中、俺の溜め息回数もいちいち数えてはいないが自己最高記録を更新し続けていることだろう。
ポケットの中の携帯がブルブルと震え出した。きっと愛里が学校に到着したという連絡だと思われる。しかし、ここじゃとても出られない。
俺はトイレに立つよう装って教室を出ると、足音を立てないように全速力で走り、教室のドアから覗いても見えない場所へと移動完了。小声で電話に応答した。
「もしもし……」
『あ、紘貴くんですか? 愛里です。学校の生徒玄関まで来ました。教室は……どこですか?』
「あーちょっと待ってて。迎えに行くから」
そして教室には戻らないで、しばらく辺りをぶらついて……三者懇談に行く。よし、カンペキ。
「よし、生徒玄関だー!」
「よっしゃー!」
次々と俺の前を通り過ぎていくクラスメイト男子。あっけにとられつつも脳の一部は冷静にその人数を数えていた。
一、二、三…………八人!?
「……あー。コラ、待て! 盗み聞きたぁ卑怯だぞ!」
トイレに立ったフリは見事に失敗。電話応答で出遅れた俺は、ヤツらを追うハメになった。
九人の男が、階段の三階から一階までものすごい速さで駆け降りるというか、数段飛ばしで降りている。しかも叫びながら。その足音と声は校舎の構造のせいか、むやみやたらと響きわたっていた。
だから俺が電話に出た後ぐらいから、どういう状況に遭遇することになるのか、愛里にも予想できていたのかもしれない。
俺が生徒玄関に辿り着いた頃にはクラスのヤツらに取り囲まれていたものの、特に焦った様子ではなかった。まぁ、質問攻めにはさすがに曖昧な返事をしていたけど。
「マジで吉武の母親なわけ?」
「いや〜ん、カワイイ〜w」
「歳、いくつ?」
「十六だろ! バカかお前」
愛里は取り囲むバカ男子の間から俺を探し……見つけると目で訴えてきた。
あれは、助けてくれ……と言っているはずだ。
俺は強引に男子の群れを割ってやった。
「はいはい、どいてー。お義母さん、懇談までまだ時間あるから、飲み物でも買いに行こうかー」
行動の時点では、助かった、という顔をしていた愛里だが、セリフを言い終えた頃には不満そうな顔をしていた。
「わざとらしいです。ああいう言い方はイヤ」
自動販売機の前で、彼女は肩をすくめてスネていた。
温かい缶のレモンティを差し出しても、笑顔にはならず、受け取るとすぐに目を逸らした。……が、缶の熱さに耐えられず、いつもの顔、行動に戻っていた。
「あち、あち、あち」
「しょーがないだろ。俺だって……いっぱいいっぱいだなんだから」
金を投入していつも飲むコーヒーのボタンを押し、商品取り出し口に出てきたそれを取って……俺もその熱さにうっかり缶を落としそうになりながら、手に触れる時間を少しでも短くしようと、缶を右手と左手で行き来させた。
俺だって八人も居残りが発生するなんて予想もしてなかった。いや、気付いた時点で電話とかメールしても遅くはなかったかも……。
どうも段取り悪いな、俺。
「……やっぱり、迷惑ばかりかけてますね、あたし」
「そうかなぁ? 俺にはよく分からないよ」
母親は元からいないし。兄弟もいないし。他人の常識は俺の常識じゃなければ、俺の常識も他人には非常識だったりするんだから。正しいことも正しくないことも、それを決めるのは自分であり、他人であり……基準なんてものは、曖昧なんだ。その人の意見しだい。
愛里の思う迷惑は、俺にとって迷惑ではない、ということ。俺が何とも思ってないことこそ、愛里にとって迷惑なのかもしれない。
校舎外にある自動販売機前で俺と愛里はしばらく話をした。
俺は迷惑だなんて思ってないこと。むしろ、感謝に値することを、思うだけではなく、言葉で伝えた。
彼女も迷惑ばかりかけていると言いつつも、楽しい日々を過ごせていること、それが愛里にとって、今までにない幸せな時間であることを言葉にして、教えてくれた。
口ではうまく言えてなくても、互いにいい時を過ごせていることに気付いた。
まぁ、校舎内からこちらを見ている六人(二人脱落した模様)がむやみやたらと気にはなったけど。
自販機前で愛里はレモンティ、俺はコーヒーを飲み終えた頃にはすっかり体も冷えてしまい、身震いをしながら一緒に教室まで戻った。
取り巻きならぬ、俺にとって迷惑でしかない五人(また一人脱落)が何かと付きまとって鬱陶しいが、ここは我慢。
「……学校を離れると、教室がものすごく懐かしく感じます」
室内をぐるっと見回しながら、いいなぁ、なんて言っている。
俺にとってはいつもの、変わらない、ただの教室でしかない。学校に行かない人と在学生では、やはり見方が変わってくるのだろうか。まぁ、まだ学校という所から離れていないので、分からないけど。
と、ここで一人のクラスメイトが俺を押し退けたよりも思いっきり突き飛ばし、
「まだ時間あるでしょ? オレが校舎内を案内しま、しょごっ……」
喋ってるヤツをもう一人が突き飛ばす。
「いやいや、このボクがご案内いたしま、ごふっ……」
更にそいつを突き飛ばし、
「お前ら邪魔! 俺が、どぅはっ……」
更に、更に、またも……なにやってんだ、お前ら。
五人が顔を突き合わせ睨み合っているところで、教室のドアがガラっと開いた。
「吉武、懇談」
「「「「「え!?」」」」」
「ああ、サンキュ」
ナイスタイミング。出席番号が俺の一つ前のヤツが呼びに来て、五人は一斉にそちらを向いた。
残念だったな。キミたちの努力は……結局、無駄だったということだ。
拝めただけでもいいじゃん。ウチの十六歳の継母を、ということにしといて。
俺は愛里と一緒に、三者懇談が行われる特別棟、音楽準備室へと向かった。
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2009.07.24 改稿