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俺+継母+担任=三者懇談
【1】
事件から一ヶ月――前後に立ったウワサはだいたい治まり、あれ以来、例の一年三人組が俺の前に現れることもなく、平穏な……いや、受験戦争真っ只中な高校生活に戻っていた。
「十二月に入ったら、出席番号順に三者懇談を行う。プリントをちゃんと保護者に渡すように」
小学生じゃあるまいし、都合の悪いプリントを隠しはしないって。
……。あ?
――三。
――者。
――懇。
――談?
L・H・R中、配られたばかりのプリントを見つめたまま、俺は固まっていた。
「吉武んちのかぁちゃん来るのかな?」
「見たいよな、十六歳」
ちょ、ま……待ってくれ! 十六歳はウチの学校でも見れるだろ! 別にウチの愛里さんじゃなくてもいいじゃん!
と言いたかったが、声にする余裕なく、会話は展開していく。
「なぁ、来るんだよな、十六歳のお義母さん」
やっ、やめろぉぉぉ!!!
俺はアタマを抱えて机に伏せた。
絶対に頼まねぇ! 愛里には絶対に言わない! つーか、三者懇談に母親(?)を始めて四、五ヶ月の初心者を連れて行って懇談が成立するとも思えない。無理だ。無理にしておきたい。
急に都合が悪くなり、プリントを捨てて帰ろうか、隠そうか、なんてことを考えてた。
「え? 三者懇談?」
「そう。三者懇談。もちろん、仕事を休んだり、途中抜けたりしてでも来てくれるんだよね?」
帰宅した父をすぐに捕まえ、リビングでプリントを渡した。なぜか愛里の目を盗むように。
「……む〜り〜?」
な、何て曖昧で人を舐めくさった言い方!!
言い方よりも、「行く」という返事をもらえなかったことにショックだった。
「え? じゃ……」
「愛里さんに頼んで」
やっぱりー!?
避けたかったのに……それだけは避けたかったのに……。
父はネクタイを緩めてスーツの上着を脱ぎ、持っていたカバンと共にソファーへ放った。
「いや、だって、進学とか何とか、話はかなり重要だと思うんだよ」
「まぁ、時期的にはそうだよね。どうせ進学する気でしょ? センター試験の申し込みもしたんだし。別に反対もしないし、自分が行きたいところに行けばいいと思うよ」
「でもさ……」
「そういうの、愛里さんには話してないでしょ? 丁度いい機会だと思うけど」
そ……そんな……。
「あーお腹すいた……ご飯、ご飯」
と言いながら、入り口を半分塞ぐように立っていた俺の肩を一度叩いて、リビングから出る父。愛里が食事の準備(と言ってもコップと箸と取り皿を並べている程度)をしている台所へ。
「ただいまー愛里さん」
「あれ? いつの間に帰ってらしたんですか?」
「帰った途端、息子に捕まっちゃってさー。はっはっは」
「何で捕まってるんですか?」
「それが、三者懇談に来てくれないかって。どうも愛里さんには頼みづらいみたいで」
「あたしで良ければ行きますけど……分かってるつもりで、まだ何も分かってないあたしが行っても大丈夫でしょうか?」
それなんだよな。三者懇談の参加者――親代表にするには頼りなさすぎるんだ。
「それならついでに、ヒロくんのことを色々と先生に聞いてみたらどうだい?」
「そうですね。……でも、人と話すの、あまり得意じゃないし……」
「思ったら即座に聞けばいいんですよ」
「……ん〜。頑張ってみます。で、三者懇談はいつなんですか?」
「このプリントに書いてあるよ。出席番号順だから、最終日だね」
っていうか、父さんは愛里を行かせる気だし、愛里も行く気満々じゃないか。
ああ、怖いよ三者懇談。
三者懇談が行われる期間、三年は授業終了後、帰宅することになっている。
その二日目――亮登が三者懇談だった日の夕方。
「紘貴いる?」
ウチのチャイムを鳴らさず、玄関から家の中にいる俺に向かってそんな声が聞こえた。
二階の自室にいた俺は、階段を降りて玄関に向かうと……予想通りの人物がそこにいた。
亮登とその母だ。
「この子にアホか! って言ってやって!」
何に対してだ? と疑問に思いつつも、間髪入れずに行ってやった。
「アホか」
「にゃにおーう!」
亮登は俺に向かって腕を振り回してくるが届かない。
「で、何で?」
と亮登母に聞き返す。今更ながら。
「この子、三者懇談で東大に行くとか言い出したんだよ」
うわぁ、それはそれは、亮登のくせにものすごくでっかく言ったもんだ。
「……無理。諦めろ、亮登」
「違う! 東大じゃなくて、東京の大学、と言ったんだ、オレは!」
ああ、それを東大と勘違いされた、と……ものすごい早とちりだね、亮登母。
「だそうです。東大じゃなくて、『東京』の『大学』」
の、の部分を必要以上に強調しながら亮登の母親に言ってみたら、ようやく納得したみたいだ。
「ああ、なんだ……びっくりした。でも、何でわざわざ東京に行くの」
ここからは杉山親子の会話。
「あ? まぁ、渋谷とかを歩いて、モデルにスカウトされるつもりで。大学は……まぁ東京に行く口実というか、イヤでも四年はいられるし」
やっぱりアホだ、こいつは。
「……大学に行く必要性はないみたいだね」
「まぁ、実際にはね」
「……だったら……」
亮登母の怒りはMAXに到達!
「東京にでもどこにでも行って、就職しなさーい!!!」
大学へ行く意味がないんだから、俺もそう思う。
「やだよ! 遊べないじゃん!! スカウトって日中って気がするし」
何がスカウトだ。この辺りでどんなにオシャレな男として通っていても、所詮は田舎者でしかないんだから。
「なぁ、紘貴!」
「え!?」
俺に振るのか?
「紘貴、きっぱり無駄だと言ってやって!」
「うへぇ!?」
亮登母まで!!
「あ〜いや〜まぁ……」
「「はっきり言いなさい」」
二人して同じことを……よく似た親子だ。
「亮登……それはきっと、無駄だ」
そして、諦めてくれ。
亮登は俯いた。
言い過ぎたかな? いつもなら笑い飛ばすか、反論するんだけどな。
「いいよ……もう」
夢、壊しちゃったかな?
亮登は顔を上げて俺と亮登母の顔を交互に見た。亮登にはありえないぐらい真剣な顔で。
「オーディションに出てやる! そして合格してやる! いまに見てろよ〜。ぎゃふんと言わせてやる!」
そう言うと亮登は一人、玄関から出て行った。
その決心は……きっとホンモノだ。
――ぎゃっふーん。
立ち直りの早さは、天下一品。さすがの亮登母も頭を抱えて溜め息を漏らしていた。
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2008.05.15 UP
2009.07.24 改稿