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  パニ・ハプ文化祭終了後〜義母さん、事件です!


  【4】


 電話から十五分後――亮登のお母さんが校長室に現れた。
 が、その姿から想像すると、電話終了後にすぐ出てきたものと思われる。
 だって……ジャージにエプロン姿なんだから。
「紘貴が何をしたって言うんですか?」
 そして、校長、教頭に食って掛かる。
 一連の流れを説明する担任。その内容に亮登の母は大激怒!
「先生たちが子供の言うことを信じずに、子供たちは誰を信じますか!」
 説教が始まってしまった。
「この写真、どう見たって裕昭……紘貴のお父さんだし、女の子は夏に結婚した奥さんよ!」

 こっから、さ〜ら〜に亮登の母は喋り……いや、説教を続けた。
 教頭はこれでもかってぐらい俺たちに謝ってきたが、今更な気がしてどうも受け付けないし、校長は、「私は最初からキミたちを信じていましたよ」なんて嘘っぽい言葉を掛けてくる。
 担任は……何とか自分も首が繋がったという感じで、安堵の溜め息を漏らして俺たちの背中をポンポンと叩いた。

 校長室から退室する直前。
「あの写真、もらっていい?」
 なんて亮登は本気で言うし。
 オイ!
 俺は無言で後頭部を叩いておいた。
 亮登の母さんも後頭部を叩いて、
「あんた、どこまでアホなの!」
「そうやってポンポン叩くからアホになるんだよ!」
 と、いつもの杉山親子のやりとりがこんな所でまで……。


 校長室を出て、俺、亮登、天空、亮登の母は廊下を歩いていた。
 もう授業中ということもあり、校舎内は静かで俺たちの足音ぐらいしか聞こえなかった。
「紘貴」
「はい?」
「困ったことがあったら、遠慮なく言いなさいって言ってあるでしょ?」
「あ、はぁ……すみません」
「裕昭も裕昭だよ。子供ほっぽいてテレクラなんて……帰って来たら殴る!」
 子供の頃、亮登が散々殴られてるのを見ているだけに、その言葉だけでもゾッとした。容赦なく、本気で殴ってるからなぁ……。怖い。
 俺が小学校に入ってから仕事を始めた父が帰宅するまで面倒を見てくれた亮登の母さん。今までだって散々世話になったのに、高三になってもまだ心配してくれている。感謝しても足りないぐらいだ。
「でも……ありがとうございます」
 亮登の母さんは俺に笑顔を向けてくれた。子供を守る母親らしい笑顔を――。


 そして本日も無事に授業が終わってホームルーム。
「せんせー、吉武って退学なのー?」
 校長室から教室に戻っても相変わらずだったクラス。
 男子の一人がそういう心無いセリフを吐き出した。かっちーん。
「あーその件だが、あれはデマだ」
 担任は軽くそう言ったあと、とんでもないことまでかる〜く言ってしまうのだ。どこかのアホが。
「どうも吉武の父さんが吉武にそっくりらしくてな。勘違いしたヤツがこの情報を流したらしい」
「つーか、吉武の父ちゃんだと尚更マズいんじゃね、あの話……」
 それ以上ツッコむな、クラスメイトの男子A!
「ああ、それだが、あれは吉武の――」
「あ゛――!!」
 俺は大声で叫んでかき消した。
「お義母さんだ! ちなみに十六歳。ということで、悪いウワサはちゃっちゃと忘れて、これからも紘貴をよろしく! 仲良くしたって〜w」
 あ、あ、あ、あ、あ!!!
「亮登ぉぉぉぉおおお!!!」
 ホームルーム中にも関わらず、俺は亮登に襲い掛かった。

「おれも校内でヨメ探しでもしようかな……」
 ちょっと、先生まで!!
 それはさすがに首が飛びます。


 といった感じで、余計なことまでバラされたけど何とか身の潔白は証明されたが……、

「この前、校長室に呼ばれてたよな?」
「退学になんないのか?」

「あのウワサ、実はお父さんとお母さんの話なんだって」
「話が変だよね、それだと」

「お義母さんは女子高生なのかな?」
「きっと、美人なんだろーなー。いいなぁ、若くてキレイなお義母さん」
「でも子供より若いって……どうよ」
「そこ歩いてるじゃん。聞いてみたら?」
「え!? オレが?」

「あ、テレクラ男!」
「出会い系サイトぐらいにしときゃいいのに……」
「それもヤじゃね?」
「あ、こっち見た!」
「うわ、こわっ!!」

「校長、吉武のウワサがまだ絶えませんよ。さすがにこれは……治まるまで自宅謹慎にでもすべきです!」
「教頭先生? いけませんよ。自分の立場だけでものを言うのは……はっはっは」
「こここ、校長〜!?」

 と、解決したはずのウワサに加え俺のトップシークレットさえも人から人へと伝わる間に脚色されて、またしても変なウワサに発展中。
 教頭も何かと俺をマークしてるみたいだし……。
 まだまだこの件では悩まされそうだ。




「まーさーか、高一ぐらいの時から帰りが遅かった理由がこれだったとはね」
「まぁ……まだ若いし、ヒロくんも手が掛からなくなったし……遊びたかったんだもん」
「だからって父さんがテレクラなんてするから、俺は、俺は……」
「えー、だって……寂しかったんだもん」
 ならば、仕事が終わったら遊ばずに家へ帰れ!
「そういえば、亮登の母さんが殴るって言ってたよ」
「え!?」
 思わず身震いする父。亮登の母さんって偉そうというか、ボス? 何かと頭が上がらない。
 奥の部屋から現れた愛里はリビングで会話をしながらくつろぐ俺と父さんに、シワひとつないワイシャツを得意げに見せてきた。
「ヒロさん、ワイシャツにアイロン掛けておきました」
「ありがとう、愛里さん」
 笑顔を振りまいて、また奥の部屋に戻った愛里。
 父は改まって俺の方を向いた。
「まぁ……ただなんとなくやったことだけど、そのおかげで一人の女の子を救えたって、思ってくれないかな?」
 今はずいぶん明るく振舞うから忘れそうになるけど、愛里にも色々あったんだよな。暗い過去が。
 父さんと出会って……幸せになれたんだよな?
「分かってるって。そんなこと……」
 俺は拗ねたようにそう言って、プイっと顔を背けた。
 思ったことと、態度と出た言葉はちぐはぐになってしまったけど、俺だって愛里には幸せになってほしいと願ってる。
 辛い過去をぶっとばせるほどの強さと、幸せを手にしてほしいって……思ってる。
 愛里がまた、ワイシャツを持って現れた。今度は何だ?
「紘貴くんのも、アイロン掛けときました」
「ん? ああ。ありがとう」

 ありがとう、新米のお義母さん。

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2008.05.09 UP
2009.07.24 改稿